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ウィリアム・ハーシェルが使ったシェルトンの天文時計


J. ハーシェル=ショーランド

 今もハーシェル家に伝わるこの時計は、1786年以前にシェルトンによって彼自身のために制作されました。アレクサンダー・オーバートが出した1786年の日付の手紙に、このシェルトンの時計(あるいは整時器)がウェッブ・アンド・バーツ・レッディング・ワゴン社の荷馬車でスラウに送られたことが書かれているのです。A. オーバートはW. ハーシェルに、彼の友人そして崇拝者として、この時計を贈ったのでした。A. オーバートは成功した事業家で、天文に興味を持っていました。1730年にロンドンに生まれ、1805年に亡くなりました。この手紙の最後に彼はこう書いています。

 弟さん(アレクサンダー)が去らないでいてくれたらよいのですが、代わりにこの時計があなたに時間を教えてくれればと思います。妹さん(カロライン)によろしくお伝えください。私は昨夜彗星(おそらくカロラインが発見したものの一つ)を探しましたが、あるはずのところに見つけることができませんでした。

 A. オーバートはウィリアム・ハーシェルに宛てた、1799年の手紙の最後にこう書いています。

 奥様と小さな衛星(ジョン・ハーシェル)によろしくお伝えください。

 1794年に王立協会に送られた論文「その軸上における土星の回転について」に、シェルトンの天文時計が言及されています。

 バードの12インチ四分儀で等しい高度を計測し、それによってときどき調整したシェルトンの時計で計時した。

コリングウッド邸のジョン・ハーシェルの書斎。左端にウィリアムの胸像の載ったシェルトンの時計が見える。

 1912年に王立協会と王立天文協会がW. ハーシェルの全論文を出版しました。カーネル・J・ハーシェル(J. ハーシェルの三男)が所有していた論文集の第1巻の脚注に、この言及が見られます。

 1881年にカーネル・J・ハーシェルはこの時計を重力の実験に使えるように改造しました。彼はインド調査隊のうち重力測定のための振り子観測を受け持つ部隊に任命されていたのです。時計とともに保管されている手紙のなかで、彼は述べています。

 この性質の実験をさらに英国と米国で行うよう委任されたので、私は同様にこの時計を使おうと考えたのだが、どうやら半世紀以上も洗浄したり調整したりされていないようなので、パーキンソン・アンド・フロッズハムへ分解修理に出した。

 同時にカーネル・J・ハーシェルは、振り子を本体から外し、後にスラウで枠が2つのブロックからぶら下がるようにしました。これらは全て側面の安定性を確実にするために行われました。1888年に時計は、1881年以前からしばらく置かれていたコリングウッド邸から、スラウのオブザヴァトリー・ハウスのコテージに移されました。ここでは時計はきちんと調整され、また、巻き戻すまでの31日間、時計が動き続けるために重りを十分下ろせるよう、カーネル・J・ハーシェルは床に穴を開けなければなりませんでした。そして彼の手紙はこう続いています。

 この据え付けは1889年に行われ、それから時計の系統立った測定を始め、1913年まで長い中断なしに続けられた。

 この時計はそのままオブザヴァトリー・ハウスに残され、引き続きハーシェル家の家族たちによって手入れされていました。1928年に時計はC. ロード・アンド・サン社へ修理と洗浄に出されました。またロード社は毎月時計を巻き、きちんとした状態に維持するよう委託されました。1932年11月にはそれ以来行われた修理について報告するようにジョン・ハーシェル師(おそらくW. ハーシェルの曾孫にあたるジョン・チャールズ・ウィリアム卿[1869-1950]のこと。訳注)がロード社に依頼しています。この1928年の請求書が唯一残っています。

 1968年にシェルトンの時計は大英博物館の時計研究者が機構を写真撮影するために一部分解されました。同じころ、グリニッジ海事博物館のハウス氏がキャプテン・クックのオーストラリア一周航海の研究のうえで、現存する全てのシェルトンの時計を調査していました。シェルトンの時計の一つをクックが航海に持っていったというのです。彼はその時計を探していたのです。W. ハーシェルの時計は記録が良く残っていましたが、オーストラリア航海に行ったものではないと判りました。

 ハーシェル=ショーランド家がノーフォーク州に転居する前に住んでいたリーミントン・スパのヴィカレッジ・ロードに置かれる前の1980年に、時計は洗浄され調整されました。1985年にはクロッシング・ロッジに、そして今はノーフォーク州ハーレストンのスワン・レーンに置かれており、正確に時を刻み続けています。
写真は国立海事博物館の許可による。


日本ハーシェル協会ニューズレター第121号より転載


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