今日の一枚    第26回〜第30回

 第26回
●グスタフ・マーラー
 交響曲第6番イ短調
 
エーリッヒ・ラインスドルフ/ボストン交響楽団
 *BMGファンハウス: BVCC-37325

 ラインスドルフは、フリッツ・ライナー、レナード・バーンスタイン、ジョージ・セル、ユージン・オーマンディなどの同時代に活躍した指揮者と比べるといまいち陰の薄い存在で、シャルル・ミュンシュの後を受けてボストン交響楽団の常任指揮者となった後も、前任者の存在感に圧倒されがちであったようでもあります。でも、彼はこれらの指揮者には及ばなくとも、かなりの実力者であることは、この演奏を聴いても窺い知ることができます。
 久しぶりのマーラーの第6の新譜(とはいっても1965年に録音されたLPのリマスターCDですが)とのことで、ちょっと興味があったので、タワーレコードの試聴コーナーで「立ち聴き(?)」をしてみました。最近の新録音で聴かれるマーラーは、どちらかというとスマートでかっこいい演奏が多いようですが、ラインスドルフの場合はかなりごりごりと楽器を弾かせる強面の演奏で、当時のマーラーの演奏を代表しているといえるでしょう。こういう演奏は好き嫌いが分かれるところであるとは思いますが、このほうがマーラーがこの曲に託した「想い」を忠実に表現しているのではないかという気がします。この頃にマーラーの全集を録音していたバーンスタインも、スタンスとしてはラインスドルフに近いものと思います。私も久々にこのような「ごりごり」した演奏を聴くにつけ、これこそが「悲劇的」というタイトルまでつけられた交響曲第6番の本質が垣間見えるとの印象を持ちました。しかし、バーンスタインの晩年の演奏に比べるとまだまだのめり込んでいませんけどね(まあ、バーンスタインがのめり込み過ぎなんですけれどもね)。
(2002.02.17)
 第27回
●Othmar Schoeck
 Elegie Op.36 - Song cycle for Baritone and Chamber Orchestra after Poems
 by Nikolaus Lenau and Joseph von Eichendorff

 Andreas Schmidt (Baritone)
 Werner Andreas Albert/Musikkollegium Winterthur
 *cpo: 999 472-2
 オットマール・シェックはスイスの作曲家ですが、作風はいたってドイツ的です。彼の代表作であるエレジー(悲歌)は、バリトン独唱と小編成のオーケストラによる24曲から成る連作歌曲(Song Cycle)で、テキストには19世紀のロマン派詩人ニコラウス・レーナウとヨゼフ・フォン・アイヒェンドルフの詩が使われています。私自身のイメージするところでは、薄暗く湿った部屋に佇み、孤独に胸が張り裂けんばかりの幸薄い青年の姿を連想させる憂いをおび、かつ怪しげな雰囲気を醸し出した作品です。マーラーやツェムリンスキー、フランツ・シュミットなどに通じる19世紀末から20世紀初頭のドイツやオーストリアに典型的な耽美的傾向が強く、明るい優美さからは程遠い寂寥感に支配されています。タイトルにある「悲歌」から受ける「悲しみ」とは少々違って、弦楽5部とハープによって奏でられる不協和音が「憂い」あるいは「寂しさ」をあらわしているようです。全体的に暗い雰囲気をもった曲ですが、時々、牧歌的で「憧憬」を表現するかのような穏やかで何かホッとするような旋律が散りばめられています。特に「来れ、慰めの世界、汝静寂の夜よ!」で始まる終曲の“Der Einsame(孤独なる者)”はなかなか感動的です。マーラーの作品中にみられる厭世的でありながらも現世における幸福への強い「想い」とでも言えるものを感じずにはおれません。
(2002.3.12)
 第28回
●Kun Woo Paik plays Gabriel Fauré
 Romance sans paroles Op.17 no.1 & 3
 Nocturne Op.33 no.1, 3, 6, 11 & 13
 Impromptu Op.31 no.2
 Barcarolle Op.26 no.1
 Improvisation Op.84 no.5
 Prélude Op.103 no.2 & 7
 Ballade Op.19

 Kun Woo Paik (p)
 *Deeca: 470 246-2
 韓国人ピアニストのクン・ウー・パイク(活動の拠点はフランスのようですが)は、NAXOSレーベルから出ているプロコフィエフのピアノ協奏曲全集(これはかなりの名演奏です)を録音していますが、私が以前このCDを聴いたときには、かなり技巧派のアクロバティックな演奏をする人であるとの印象を持ちました。したがって、彼はリストなどの演奏に向いているのだろうなと思っていたのですが、デッカで録音したフォーレのピアノ作品集を聴いたところ、単なる技巧派ピアニストというだけではなく、内向的でしっとりとした雰囲気のある楽曲をも弾きこなすことができる人なのだということを認識させられました。彼はなかなか表現の幅が広い人のようです。今後の活躍が期待できるピアニストですね。
(2002.8.15)
 第29回
Giuseppe Verdi
 Messa da Requiem
 Angela Gheorghiu (soprano)
 Daniela barcellona (mezzo-soprano)
 Roberto Alagna (tenor)
 Julian Konstantinov (bass)
 Swedish Radio Chorus
 Eric Ericson Chamber Choir
 Orfeón Donostiarra
 Claudio Abbado/Berliner Philharmoniker
 *EMI: 7243 5 57168 2 8
 ヴェルディのレクイエムには、高名な演奏家による数多くの録音が残されています。その中でも私にとって最も印象的な演奏は何と言ってもショルティ/VPO盤です。死者を叩き起こす「鎮魂曲(?)」として名高いこの曲を体現したかのような演奏は、まさに圧巻です。今回紹介するアバド/BPOによる新盤はショルティ盤とはまた違った趣きをもっています。特に合唱の透明感のある美しさとオケの気迫あふれる演奏は注目に値します。アバドはこれまでにBPO盤を含めて3回も録音をしているそうですが、その中でもBPO盤が最も評価が高いようです。なお、指揮者のアバドが癌との闘病生活が刻み込まれた容貌の変化が話題となりましたが、闘病によって気力が失われるどころか、アバド自身の生きることへの執着が演奏にも反映されているかのような印象を与えています。だからといって、闇雲に楽器をかき鳴らし、独唱や合唱が絶叫することによって「生」を誇示するのではなく、「生」と「死」を静かに見つめる視点をも併せ持っているような演奏になっているのではないかと私は感じました。これは「死」を実際に目の当たりにした人間ならではの表現といえるかもしれません。数ある演奏の中で、アバド/BPO盤はそう言った意味からも特別な位置にあるのではないかと思います。ただ、独唱者が少々癖のある方々だったりするので、合唱のもつ雰囲気と合わない箇所もちらほらといったところもなきにしもあらずではありますが……。
(2002.9.12)
 第30回
●Wilhelm Stenhammar
 Symphony No.2 in G minor Op.34
 Exelsior ! - Symphonic Overture Op.13

 Petter Sundkvist/Royal Scottish National Orchestra
 *NAXOS: 8.553888

 ヴィルヘルム・ステンハンマルは、近代スウェーデンを代表する作曲家の一人です。スウェーデンの作曲家のなかでは、「夏至祭」という曲の作者ヒューゴー・アルヴェーン(この名前を知らなくとも曲は1度くらいは聴いたことのある人も多いのでは)が割と知られています。このアルヴェーンという作曲家は、ヴァーグナーの音楽を身体全体で受けとめたような、少々くどい、耽美的な傾向もあわせもつ作風ですが、ステンハンマルはロマン派的叙情を特徴としながらも、かなり古典的な風情をもつ作品を作曲しています。今回紹介するステンハンマル円熟期の秀作である交響曲第2番は古典的スタイルにのっとりつつ、ロマンティックで色彩豊かな音の空間を演出しています。ロマン派的な作風ながら古典的佇まいを見せる作風は、なんとなくブラームスを思わせるものがあります。まだヴァーグナーの影響を強く感じさせる過渡期に作曲された「エクセルシオール!」(同じ名前のドトール系列のコーヒーショップがありますね)は、終りが中途半端な感じもありますが颯爽とした生きの良い音楽です(なお余談ですが、ステンハンマルはアルヴェーンの向こうを張って「冬至祭」というオーケストラ作品を作曲しています)。
 ステンハンマルの作品集はDGからネーメ・ヤルヴィ/イェーテボリ交響楽団によるCD(これはなかなかの秀演)がでていますが、スンドクヴィストの演奏も負けてはおりません。この指揮者は同じNAXOSから「Swedish Orchestral Favourites, Vol.2 (スウェーデン管弦楽曲集第2集)」というアルバムを出していますが、これもかなり良い演奏で、数々の近現代スウェーデン作曲家の作品の悲哀と憂愁を見事に表現してます。また、同じく18世紀スウェーデンの作曲家クラウスの交響曲集をNAXOSから出していますが、これも優れた演奏で、今後ともこの指揮者の活躍が非常に楽しみです。
(2002.10.16)
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