今日の一枚    第16回〜第20回

 第16回
Aulis Sallinen
 Some Aspects of Peltoniemi Hintrik's Funeral March
  (String Quartet No.3 Op.19 arranged for string orchestra)
 Chamber Music T Op.38
 Sunrise Serenade Op.63 for Two Trumpets, and Piano and String Orchestra
 Chamber Music U Op.41
 Chamber Music V Op.58 for Cello and String Orchestra
  "The Nocturnal Dances of Don Juanquixote"

 Okko Kamu/Finnish Chamber Orchestra
 Mats Rondin(vc), Hanna Juutilainen(fl)
 *NAXOS: 8.553747
 ポスト・シベリウスのフィンランド音楽界には、アーッレ・メリカント、ヨーナス・コッコネン、エイノユハニ・ラウタヴァーラなどの非常に個性的な作曲家が次々に名乗りをあげましたが、この中でもアウリス・サッリネンは、近代的な音楽語法に依拠しながらも斬新な発想の音楽を作りつづけてきました。近代音楽とアヴァンギャルドな20世紀的音楽のどっちつかずの作風ではありますが、少々風変わりなスパイスの効いた曲を多数作曲しています。彼の代表作として知られる弦楽四重奏曲第3番「ヒントリキ・ペルトニエミの葬送行進曲の諸相」(ここでは弦楽合奏用の編曲版で演奏)などは、ミステリアスで怪しげな雰囲気を漂わせた彼独自の世界を楽しむことができます。他の曲もこの曲同様に怪しい雰囲気が広がっています。彼の音楽には太陽がさんさんと照り輝く屋外の健康的な世界とは異質な陰のある鋭さがあたりに散りばめられた世界が描き出されています。彼はある意味北欧的な暗さを音に反映させた典型的な作曲家といえるかもしれません。さて、このアルバムの中の曲で「ヒントリキ・ペルトニエミ」と並んでお薦めなのが、最後に収められている室内音楽第3番「ドン・ファンキホーテの夜の舞踏」という曲で、この曲にはサッリネン流のユーモアが盛りこまれています。チェロ独奏と弦楽オケのかけあいによる舞踏変奏曲とでもいった内容で、少々おどけた感じの踊りに始まり、少々情熱的なアルゼンチン・タンゴ風の旋律も聴かれます。変わり身の早い音楽なので、ゆっくりと旋律を楽しむことはあまりできませんが、刺激的で飽きの来ない面白い音楽です。
(2001.2.25)
 第17回
Robert Schumann
 Symphonie Nr.2 C-dur Op.61
 Symphonie Nr.3 Es-dur Op.97 "Rheinische"

 James Levine/Berliner Philharmoniker
 *DG: 423 635-2

 1987年11月24日のベルリン・フィルハーモニー・ホールでの演奏会と前後して録音されたアルバム。私はこの時の演奏会の実況録音をNHK・FMで聴いていたく気に入り、この時エアチェックでテープに録音したのですが、そのうちCDが発売されたためいつか買おうと心に決めていました。しかしこのCDが発売された頃は、まだCD自体がかなり高価だったので買い控えをしているうちに10年ほどの歳月が過ぎ去ってしまいました。ようやく最近になって手に入りやすい値段になったこともあって購入に踏み切りました。ジェームズ・レヴァインは、ここ数年メトロポリタン歌劇場にかかりっきりでオーケストラ・コンサートにはあまり顔を出さなくなってしまいましたが、1980年代くらいまでは客演であちこちのオケと共演していました。レヴァインはあまり日本では評価されていないようですが、マーラーの交響曲第7番やこのシューマンの交響曲などのように、堂々とした貫禄のある快演を披露してくれます。特に交響曲第2番はレヴァイン/BPOのコンビの演奏を聴いて非常に気に入って、シューマンの交響曲の中でも最も好きな曲となりました。中でも第3楽章の適度に情感を持たせつつゆったりとやさしく歌うように楽器を響かせるテクニックや、第4楽章の聴くものをぐっと惹きつける勢いのある演奏はすばらしいものです。また交響曲第3番も、この曲の持つ勇壮なイメージを余すところなく表現していると思います。私は、シューマンの交響曲を聴いてみたいとおっしゃる方には、ジュリーニ盤と並んでこのCDをお薦めしています。
(2001.3.5)
 第18回
●Béla Bartók
 Concerto for Viola and Orchestra
●Peter Eötvös
 Replica for Viola and Orchestra
●György Kurtág
 Movement for Viola and Orchestra

 Kim Kashkashian(va)
 Peter Eötvös/Netherlands Radio Chamber Orchestra
 *ECM Records: ECM 1711

 バルトーク晩年の大作ヴィオラ協奏曲は、彼の作品の中でもあまり知られていない部類の作品に入ります。彼の代表作というと真っ先に挙げられるのが「管弦楽のための協奏曲」で、一般にはリスナーの方々の認知度は、この他に「弦楽、打楽器、チェレスタのための音楽」、「中国の不思議な役人」、「舞踏組曲」、「ミクロコスモス」などの作品のうちいくつかを知っているといったところではないでしょうか。認知度が低いのは録音の数が少ないこともあるでしょうが、あまり目立つことのないヴィオラが主役の協奏曲であることも大きな原因だろうと思います。この曲はバルトーク晩年の苦しい日々のなかから生み出された傑作の一つに数え上げられています。第1楽章の静かに暗い孤独と堰をきったように感情を吐露するかのようなヴィオラ独奏が心をうちます。第2楽章は鬱々とした雰囲気に終始し、第3楽章では勝達としたヴィオラとオーケストラによるかけあいが演じられますが、やはりどこか暗い陰を落しているといったような印象を受けます。このバルトークの孤独と憂愁をキム・カシュカシャンが見事に表現しています。これまでに何人かのヴィルトオーゾがこの曲を録音していますが、恐らく彼女の演奏がこの曲の本質を最もよく捉えていると思います。このアルバムには他に指揮者のエートヴェシュの自作「レプリカ」とクルタークの「断章」がカップリングされていますが、この「レプリカ」という作品は、はっきり言って何を表現しているのか皆目わからない「?」な作品。クルタークの「断章」はかなりシンフォニックな内容で、複雑に綴られたハーモニーを存分に楽しめる作品となっています。なお、このCDを制作しているECMレーベルは新譜の数は少ないのですが、なかなか粒ぞろいのすぐれた録音をいくつか出しています。ジャケットのデザインも収録曲のイメージを何処となく匂わすものでセンスの良さが光っています。最近では多くのレーベルが演奏者や作曲者の肖像をクローズアップするデザインばかりでひねりがなくなっている中で、このデザインはひときわ目を引きます。こういった独自の姿勢を明確にしたレーベルには今後もがんばってほしいと思う今日この頃です。
(2001.3.11)
 第19回
●Francis Poulenc
 Concerto en sol mineur pour Orgue, Orchestre à Cordes et Timbales
 Grolia en sol majeur pour soprano solo Choeur mixte a cappella et orchestre
 Quatre Motets pour un Temps de Pénitence

 Maurice Duruflé (orgue)
 Rosanna Carteri (soprano)
 Choeures René Duclos
 Georges Prêtre/Orchestre National de l'O.R.T.F.
 *EMI: CDC 7 47723 2

 私がこの「オルガン・ティンパニ・弦楽オーケストラのための協奏曲」と初めて出会ったのは中学生の頃で、BBCのドキュメンタリー番組で映し出されたマジノ・ライン(第1次大戦後にフランスが対独防御用として国境地帯に建設した要塞線)の砲台がせり上がってくるシーンと共に流れていたのがこの曲でした。冒頭からフォルテで奏でられるオルガンの不協和音は、当時の私にかなりなインパクトを与えました。これがプーランクという作曲家の作品であることを知ったのは、たまたまNHK=FMで同曲が流れていたのを聞いてからです。この曲はかなりオルガンが我を主張する音楽で、突き刺すような鋭さと重厚な音の響きが耳へ強烈に訴えかけてきます。プレートルとデュルフレの演奏は、共に強烈に自己主張をしていながら、不思議と対立するのではなく音楽として一つにまとまっています。このコンビの演奏はこの曲の代表的名演といって良いでしょう。カップリングの「グローリア」はプーランクの管弦楽付き声楽曲の代表作で、堂々とした風格を漂わせながらも彼一流のエスプリが効いていて、単に敬虔さを売りにした宗教曲とは一味もふた味も違う楽しみ方ができる名曲です。
(2001.3.21)
 第20回
Wolfgang Amadeus Mozart
 Maurerische Trauermusik KV.477
 Adagio for two clarinets and three basset horns KV.411
 Requiem KV.626

 Frans Brüggen/Orchestra of the Eighteenth Century
 Netherlands Chamber Choir
 Mona Julsrud (soprano)
 Wilkete Brummelstroete (alto)
 Zeger Vandersteene (tenor)
 Jelle Draijer (bass)
 ※Live in Metropolitan Art Space (Tokyo), on 20 March 1998
 *GLOSSA: GCD 921105

 1998年3月のフランス・ブリュッヘン率いる18世紀オーケストラの東京芸術劇場における来日公演を収録したライヴ録音。この公演は、途中で聴衆による拍手をさしはさむことなく楽曲を進行させるという、日本ではあまりなじみのないスタイルで演奏がなされています。なお、このモーツァルト生涯最後の作品であるレクイエムは、彼の弟子であるジュスマイヤーによる補筆版を使用し、曲の冒頭と途中2箇所(Domine Jesu=栄光の王イエスとSanctus=サンクトゥス)で「グレゴリオ聖歌」が挿入され、静謐さと荘厳さを強調するよう演出が施されています。この曲は、いうまでもなく幾多の名演を生み出している名曲ですが、この演奏はその中でも1、2を争う名演であると思います。「グレゴリオ聖歌」による入祭唱(Introitus)に続いて奏される1曲目の入祭唱;主よ永久の安らぎを与えたまえ(Introitus; Requiem Aeternam)は、モーツァルト自身の孤独と悲しみを表現しているようで涙を誘います。合唱も力むことなく、息の抜き方を心得た素晴らしい歌唱を聴かせてくれ、特にボーイソプラノによる独唱が心を打ちます。キリエ(Kyrie)から怒りの日(Dies irae)にかけての作曲者自身の感情のほとばしりを表すかのようなフレーズも、割と速めのテンポですが見事なアンサンブルと表現力によって乱れることなく力強く演奏されます。私はレクイエムという曲は、モーツァルトの作品の中でも彼の本音がかなりの部分で現われていると思います。中でも、天才として一世を風靡しながら世の中に溶け込むことができず周囲から疎外されてしまうことに対する孤独感や寂寥感を目の当たりにするような気がします。これは、レクイエムが作曲者の心の闇の部分を表出しやすいという楽曲の性格によるところが大きいせいでしょう。ただ旋律が美しいだけではなく、モーツァルトの本音が垣間見えるからこそ、アイネ・クライネ・ナハトムジークやディヴェルティメントなどを聴くよりもレクイエムを聴いたほうが感動するのでしょう。そのような感動を呼び起こす演奏としてブリュッヘン盤はお薦めの1枚です(ソリスト陣も秀逸)。なお、カップリング曲(同日演奏された曲)の「フリーメイソンの葬送の音楽」と「アダージョ」もすばらしい名演です。
(2001.4.9)
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