今日の一枚    第11回〜

 第11回
Hakon Børresen
 Symphony No.1 in C minor Op.3
 Serenade for Horn, Strings and Timpani
 Nordic Folk Tunes for Strings Orchestra

 Ole Schmidt/Rundfunk-Sinfonieorchester Saarbrücken
 Xiao-Ming Han(horn)
 *cpo: 999 578-2

 ハーコン・ベアセンは、デンマーク近・現代(1876〜1954)の作曲家です。近代ヨーロッパには、世に言うワグネリアンというワーグナー信奉者が数多く存在していましたが、彼もその中の一人に数えることができます。ベアセンに限らずデンマークの作曲家の多くはドイツ・ロマン派的な作風を濃厚に表現しています。現在、日本でデンマークを代表する作曲家として知名度がアップしてきたカール・ニールセンは、独特な表現技法からして当時のデンマーク音楽界の中では特異な存在といえます。さてベアセンの交響曲第1番ですが、この曲は彼の作品の中でも際立ってワーグナー色が色濃い作品となっています。第1楽章のイントロ部分などは「パルジファル」のようですし、第2楽章の主題などはまるで「トリスタンとイゾルデ」のごときです。第3楽章(この楽章だけはバレエ風の陽気な雰囲気が支配的です)を除いて悲劇的なフレーズによって占められ、第4楽章はその暗い悲劇性がクライマックスに至り、いきなりとってつけたような終わり方をしています。面白さと完成度の高さから言えば、カップリング曲のセレナーデのほうが格段に上でしょう。交響曲としてはいまいちですが、重厚な音の響かせ方と表現力は充分すばらしいものがあるので、歌唱なしのオペラを聴いていると思っていただければ、いいのではないかとも思います。
(2001.1.8)
 第12回
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
 弦楽四重奏曲第1番ニ長調 Op.11
●アレクサンドル・ボロディン
 弦楽四重奏曲第2番ニ長調

 プラハ弦楽四重奏団
 *Supraphon(DENON): 25CD-2317(国内盤)

 今回は、ボロディンの弦楽四重奏曲第2番です。この曲の第3楽章“Notturno”はマルコム・サージェントやユージン・オーマンディなどの往年の大指揮者の編曲による弦楽合奏バージョンで演奏されることが多く、たいがいイージーリスニング関連のアルバムには顔を見せる名曲です。アンコール・ピースとしてとりあげられる機会の多い第3楽章だけがやたらと有名ですが、その他の楽章も3楽章に劣らずいい味を出しています。特に第1楽章などは、第3楽章に負けないほどロマンティックな曲調です。これほどの曲なのにもかかわらず全曲盤が少ないのは意外です(そういえば、カップリング曲のチャイコフスキー弦楽四重奏曲第1番も、“Andante Cantabile”がやたらと有名で全曲盤が少ない曲の一つですねえ)。その数少ない演奏の中で私が気に入っているのがプラハ弦楽四重奏団のものです。ちょっと硬めで無骨な演奏ではありますが曲の輪郭がはっきりしています(硬めに聞こえるのは録音したナ・パティンシェ・スタジオというところの響きがデットなことも原因でしょう)。この他にNAXOSから出ているハイドン弦楽四重奏団のCDも持っているのですが、こちらは響きが柔和かつ滑らかで、アンサンブルとしての調和も取れているので、演奏としてはこちらの方に軍配が上がることでしょうが、プラハ四重奏団は各奏者の演奏が個性的であるという点でこちらもそれなりに魅力的な演奏ではあります。
(2001.1.12)
 第13回
●Johannes Brahms
 Klavierquartett Nr.1 G moll Op.25(arr.Arnord Schönberg)
●Johann Sebastian Bach
 Sechsstimmiges Richercar aus Musikalisches Opfer BMW.1079(arr.Anton Webern)
●Johann Strauss
 Kaiserwalzer(arr.Arnord Schönberg)

 Michael Gielen/SWF Sinfonieorchester Baden-Baden
 *Intercord: 7243 5 44057 2 3

 ブラームスのピアノ四重奏曲第1番は、彼の数ある作品群に埋もれてしまった恵まれない境遇の作品です。その埋没してしまった名品を発掘し、オーケストラ用にアレンジして世に送り出したのが、20世紀の音楽を大きく塗り替えた12音技法の創始者アルノルト・シェーンベルクです(この曲の第4楽章では、彼の出世作となった「ハンガリア舞曲集」のフレーズが使われているのにもかかわらず、マイナーな作品の仲間入りとなってしまっています)。ブラームスの室内楽作品では、弦楽四重奏曲、弦楽六重奏曲、クラリネット五重奏曲などの作品は録音も多く、一般によく知られているのですが、ピアノ付き室内楽曲やピアノ曲はよい作品があるのにもかかわらず不思議とあまり知られていません。ところで、弦楽四重奏曲や弦楽六重奏曲などを聴いてもわかるようにブラームスの室内楽曲にはシンフォニックな性格の作品が多く、ピアノ四重奏曲第1番もシェーンベルクの編曲版を聴いてみるとそのことを強く感じます。しかし、シェーンベルクはかなり派手な演出を試みており、ブラームスというよりはマーラーに近い印象を抱いてしまいます。特に第3楽章の展開部などはまるでドイツ陸軍の行進曲のようです。それでもブラームス特有の「憂愁」は生かされた編曲になっていると思います。以前に聴いたことがあるバッハの「前奏曲とフーガ変ホ長調」の編曲版の時にも感じたのですが、たしかにシェーンベルクは大管弦楽によるかなり派手な編曲をしているのですが、原曲の特質はしっかりと生かしています。同じくヨハン・シュトラウス2世の「皇帝円舞曲」(これは室内楽用の編成となっています)や、ヴェーベルン編曲によるバッハの「六声のリチェルカーレ」も同様に曲の雰囲気を生かしつつも響きに独特な色を持たせた新ヴィーン楽派流の編曲となっています。
(2001.1.15)
 第14回
●Robert Schumann
 Symphonie Nr,4 D-moll Op.120
●Wilhelm Furtwängler
 Symphonie Nr.2 E-moll

 Wilhelm Furtwängler/Berliner Philharmoniker
 *DG: 457 722-2(2CD)

 20世紀最大の指揮者の一人に数え上げられるヴィルヘルム・フルトヴェングラーは、もともとは作曲家を志し、生涯を通じて案外多くの作品を世に残しています。彼は指揮活動で忙しく作曲に専念できないと常日頃もらしていたそうで、ここいらへんのところはマーラーのエピソードを彷彿とさせます。多忙な日々を送っていた彼も交響曲を3曲(第3番は未完成)、協奏曲、室内楽曲を作曲していますが、作曲家としては大成しませんでした。その理由は、この交響曲を聴けば恐らくわかると思います。交響曲第2番はフルトヴェングラーの代表作で、自作の中で彼が生前にわりと頻繁に演奏していた曲でもあります。曲は1時間20分を越える大曲で、ワーグナーに加えてブルックナー、マーラー、シェーンベルク、リヒャルト=シュトラウス、ヒンデミットなどの作曲家をゴッタ煮にしたような感じで、やたら大げさで作品の出来はあまり良いとは言えず、オーケストレーションにも難があります(ひょっとしたら、彼はロマン派の音楽を融合を試みたのかもしれません)。たとえ大指揮者であっても大作曲家にはなれないという手本みたいな作品ですが、部分的にはなかなかいいところもありますし、オーケストレーションに手を加えればかなり良くなるところもあります。録音もモノラルなので少々音に濁りがあり、聴くのはヘヴィかもしれませんが、演奏家としてだけではなく、作曲家としてのフルトヴェングラーの音楽に対する姿勢を感じ取れる貴重な資料として一度ぐらいは聴いてみても良いかもしれませんよ。
(2001.1.19)
 第15回
●Peter Tchaikovsky
 Piano Concerto No.1 in B flat minor Op.23
●Robert Schumann
 Piano Concerto in A minor Op.54
●Johann Sebastian Bach
 BourréeT,U from English Suite No.2 in A minor BWV.807
●Fryderyk Chopin
 Mazurka in F minor Op.63-2
●Domenico Scarlatti
 Sonata in D minor L.422
●Alberto Ginastera
 Danza de la Moza donosa

 Martha Argerich(p)
 Kazimierz Kord/National Philharmonic Orchestra, Warsaw
 *CD ACCORD: 001 305-2

 1979年と80年のワルシャワにおけるライヴ録音。若かりし頃のアルゲリッチのかなり荒々しい強引な演奏が聴かれます。特にチャイコフスキーは、所々ミスタッチが目立ちますがそんなことお構いなし。ぐいぐいとアルゲリッチがオーケストラを引っ張っていくかのような勢いに指揮者のコルドは形無し。チャイコフスキーでは力で押しまくっているという印象が強かったのですが、2曲目のシューマンのコンチェルトは力強いだけではなく叙情的で、演奏の出来もチャイコフスキーよりもこちらの方が上でしょう。叙情的であるといっても彼女の場合は感情に流されるような感傷的な演奏ではありませんが…。チャイコフスキーはアルゲリッチの強引なまでにテンションの高い演奏に「をを!!!」と感嘆符を3つぐらいつけ、シューマンでは力だけではない彼女の技巧に「うぅむ」と唸ってしまうアルバムであります(しかし、この演奏は万人ウケするものではないと思います)。どちらにせよ、あくまで彼女が主役でオケは脇役という点は変わりがありませんね。あと、アンコールで演奏されたヒナステラの「ダンス」がなかなかよかったですね。実はアルバムの中で私が1番気に入ったのが、この3分弱の作品でした。
(2001.2.11)
GALLERY
前へ 「今日の一枚」
トップページ