アラン・ロウスソーン

Alan Rawsthorne(1905-71)

 CHANDOSのCDに載っている肖像写真を見てみると、ロウスソーンはいかにも女性にもてそうな風貌をした都会的で洗練された粋でダンディな紳士といった印象を受ける。容貌からすれば多くの注目を引くであろうロウスソーンの作品は、それほど世の聴衆から注目されることはなかった。作風からいうと、あるときはプロコフィエフばりの新古典派、またあるときはラフマニノフのようなロマンティシズムの香りを漂わせ、そしてまたあるときは印象派かとおもえば新ヴィーン楽派のようでもあり、またまたあるときはバロックかと思わせるようなフレーズを聴かせたりと変幻自在である。また、色々な作曲家から影響を受けているようでもあり、他の作曲家の作風から一線を隔した独自路線を貫いているようでもある。そういうふうに見てみると、ロウスソーンはちょっととらえどころのない作曲家ということができるかもしれない。20世紀イギリス音楽を代表する大家ウィリアム・ウォルトンより3年遅れて誕生し、同時代に生きながら作曲家としてはあまり知られることなく、ウォルトンよりも早死にしてしまったロウスソーンではあるが、映画音楽の分野にも進出し、数多くの協奏曲を残している。彼の作品は親しみやすいものばかりではないが、プロコフィエフやストラヴィンスキー、新ヴィーン楽派などが流行るのであれば、ロウスソーンももっと多くのファンを獲得しても良いはずである。

ロウスソーン・ディスコグラフィ(M.M所蔵のLP、CD等の一覧を掲載しています)


CHANDOS
CHAN 9125
ピアノ協奏曲第1番、ピアノ協奏曲第2番、2台のピアノによる協奏曲
ジェフリー・トーザー(ピアノ)、タマラ=アンナ・シスロフスキー(第2ピアノ)、マティアス・バーメルト/ロンドン・フィルハーモニック

 新古典派的な曲調のヴィルトオジティ・コンチェルト。
 このアルバムのジャケットはしっとりとした叙情性を連想させ、しんしんと降り注ぐ雪の中を鈴をしゃんしゃんと鳴り響かせながら「そり」が通りすぎていく情景を思い浮かべてしまうような曲が収められているかに見えるが、実際のところはエキサイティングで刺激的な作品ばかりが収録されている。ピアノ協奏曲第1番は、プロコフィエフのようにピアノとオーケストラが技巧を競い合うような難曲である。これをジェフリー・トーザーが難なく弾きこなしているところがすごい。他の2曲のピアノ協奏曲もプロコフィエフ風のフレーズが散見され、第2番の協奏曲は少々フランス風エスプリを交えた雰囲気をもっている。2台のピアノとオーケストラによる協奏曲は、深く吸い込まれるような湖や鐘の音を連想させるピアノの響きが聴かれる一方、力強いオーケストラのフォルテに対抗するように、2台のピアノが駆け抜けるように早いパッセージを奏する。所々でジャズの影響を受けていると見られる箇所もあり、曲の表情は二転三転して捉えどころがないようにも思えるが、なかなか聴きごたえのある曲ではある。

NAXOS
8.553567
弦楽オーケストラのための協奏曲、フルート・ホルン・弦楽のためのコンチェルタンテ・パストラーレ、弦楽のためのライト・ミュージック、リコーダーと弦楽オーケストラのための組曲、弦楽オーケストラのための哀歌的な狂詩曲、室内オーケストラのためのディヴェルティメント
デヴィッド・ロイド=ジョーンズ/ノーザン室内管弦楽団、ジョン・ターナー(リコーダー)、コンラッド・マーシャル(フルート)、レベッカ・ゴールドベルグ(ホルン)

 一筋縄ではいかない、変幻自在の室内管弦楽曲集。
 この室内管弦楽曲集の中で、特に面白いと感じたのが「リコーダーと弦楽オーケストラのための組曲」である。古典的な形式に基づく4曲の短い小曲からなり、リコーダーの素朴な音の響きと弦楽の叙情的な調べがバロック音楽をイメージさせるが、やはりそこにはモダンな色合いも垣間見られる。「弦楽のためのライト・ミュージック」は軽快な調べがホルストの弦楽合奏曲のようで、ロウスソーンの作品の中でも最も親しみやすい曲である。その他の曲は、線が細く透明感のある音の響きを持ち、モダンで刺激的な風味を効かせたスパイシーな仕上がりである。「弦楽オーケストラのための組曲」などは、彼の作風を如実に示した作品で、あくまでドライに徹しているところが最大の特徴であろう。「コンチェルタンテ・パストラーレ」は、ホルンとフルートが柔らかな音色を響かせてはいるが、弦楽のトゥッティがシャープで切れの良いフレーズを奏しているため、普通の田園詩曲とは違った「危うさ」を内包しているようにも聞こえる。「哀歌的狂詩曲(Elegaic Rhapsody)」は、ごく一般的なエレジーみたいな悲しげな表現ではなく、迫り来る危機を予感させるようなサスペンス仕立ての曲である。「ディヴェルティメント」は、第1曲目の「ロンド」でテレビドラマの「危険な関係」の挿入曲に非常によく似たフレーズが登場してくる。この曲もシャープさが売りで、モーツァルトで聴かれる音の遊びといった要素はあまり見られない。終曲の「ジーク」では多少おどけたような表現にお目にかかるが。
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