マイケル・ナイマン

Micheal Nyman(1944-)

 マイケル・ナイマンは、映画音楽の分野で数多くの作品を残しているため、映画音楽の作曲家というイメージで捉えられることも多い。日本では、映画「ピアノ・レッスン」のヒットに伴って、この映画のテーマ音楽の作曲家として一般に知られることとなった。彼は活躍のフィールドは意外にも幅広く、映画音楽やクラシックに止まらず、ロック、ポップス、ジャズにまで及んでいる。これは、彼が王立音楽院在学中からのめり込んで行った実験音楽の影響があったからであろう。つまり、いろいろな音響の組合せによって、どのような音楽的効果をもたらすことができるかということをつきつめていった結果、いろいろなジャンルに首を突っ込むことになったわけである。現在のナイマンは、現代音楽の一翼を担うミニマル・ミュージックの代表的な作曲家として注目されているが、その作品の最大の特徴は、「ワンパターン」である。山尾敦史氏がナイマンの作品を「リズム隊中心」の音楽と評しているが、まさしくリズムをメインに音楽が構成されており、一定のリズム・パターンのもとで曲が展開される。したがって、同じフレーズが繰り返し、繰り返し、繰り返し……奏でられる「ワンパターン」な音楽となるのである。「ワンパターン」技法の代表的作曲家というとエリック・サティを思い浮かべるが、どちらかというとナイマンは、サティよりもアフリカの民俗音楽の雰囲気に近いのではないかと思う。私の場合、彼のミニマル・ミュージックの作品を聴いているとどれも同じように聞こえてしまい、すぐ飽きてしまうのだが、山尾氏によれば、ナイマンの音楽は「心地よい退屈さ」があり、一度はまったらなかなか抜け出せない「麻薬的魅力」をもつ迷宮だそうで、音楽にのめりこむタイプの方は要注意かもしれない。

*ナイマン・ディスコグラフィ(M.M所蔵のLP、CD等の一覧です)


Tring
TRP097
ザ・ピアノ・コンチェルト、オン・ザ・フィドル、プロスペロの本
ジョナサン・カーニー/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ペーター・ロウソン(p)、ジョナサン・カーニー(vn)

 NYMAN's Famous Film Music
 「ザ・ピアノ・コンチェルト」は、彼の映画音楽作品の中で恐らく最も有名なものの1つである。この曲は、映画「ピアノ・レッスン」のテーマ音楽として知られ、全曲は切れ目なく通しで演奏され、高いテンションを保ちながら進行していく。ナイマンにしては珍しく聴くものを飽きさせない多様なパターンの組み合わせによる非常に変化に富んだ内容で、ジャズの要素もとり入れた幻想的かつエキサイティングなフレーズとパッセージにあわせて、身体が自然に反応していく。私が知る数少ないナイマンの作品の中で最も気に入っている曲でもある。映画音楽の癖して30分以上の大曲に仕上がっているところが、単なる映画のテーマ音楽としてだけではなく、それ以上の1個の独立したコンサート用作品として作曲したことをうかがわせる。「オン・ザ・フィドル」は、ヴァイオリン独奏と管弦楽による音楽で、ただならぬ雰囲気を醸し出す幻想的な旋律とヴァイオリン・ソロのたたみかけるような演奏のコントラストが聴きどころである(このCDでは指揮者のジョナサン・カーニーがヴァイオリン・ソロを演奏している)。押し寄せる波のようにヴァイオリンとオケがフォルテで演奏しているその次の瞬間に、突然、音がピアニッシモに引いてしまうという変化の妙義を楽しめるところは、ナイマンが単なるワンパターン作曲家ではないことを証明するものであろう。「プロスペロの本」は同名の映画の付随音楽で、ミニマル・ミュージックの作曲家としてのナイマンの典型的な作品。つまり、短いフレーズを何度となく繰り返し繰り返し演奏するワンパターン技法を駆使した曲である。同じフレーズを何十回も聞いているとさすがに飽きてくるが、途中適度に変化を持たせているので、いいかげんうんざりといったことにはならないのでご安心を。
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