ポール・マッカートニー
Paul McCartney

スタンディング・ストーン
Standing Stone


London Symphony Orchestra
London Symphony Chorus
conducted by Lawrence Foster
produced by John Fraser
Executive Producer : Paul McCartney

ローレンス・フォスター/ロンドン交響楽団、ロンドン交響合唱団
プロデューサー:ジョン・フレザー
エグゼキューティヴ・プロデューサー:ポール・マッカートニー

*EMI  5 56484 2
 ビートルズのリーダー的存在であったポール・マッカートニーによる大管弦楽と混声合唱のための交響詩が「Standing Stone(たたずむ石)」である。この曲は4楽章構成の長編大作で、特定のスタイルによらない転変の激しい曲となっている。また、同じ楽章中でも性格の違ういくつかの断片によって構成され、楽章ごとの統一性はとれていないが、叙情的で颯爽としたさわやかさを感じさせる曲調は、CDジャケットのイメージにぴったりである。最近のマッカートニーは、ロックやポップスの枠を越えた、より大きな枠組の中で音楽を捉えるようになってきているようである。彼の音楽的感性の方向はクラシックに向いているようにも思われるが、この曲を聴いたところ、自由に次々と曲のフレーズが移り変わっていくところからも、これまでのクラシック音楽の形式にとらわれていないことがわかる。ロック・バンドなどの限られた表現手段ではなく、より多様な表現が可能なオーケストラと混声合唱を活用し、自分の理想とする音楽を構築しようとしているのではないだろうか。彼の音楽はジャンルを越えた自由を求め、さらにひとつの所に止まることなく絶えず変化を続けていくものと見ることができる。また、この「Standing Stone」は、頭で理解する音楽ではなく、感じるままに聴く「感性の音楽」ということができよう。
1st Movement : After heavy light years
 弦楽合奏とパーカッションがせわしなく音をかき鳴らし、やがてそれがブラスによって受け継がれていくが、それがいきなり中断すると、ドビュッシーの「海」を思わせる穏やかな音楽へと早変わりする。やがて、混声合唱によるヴォーカリーズとオーケストラのゆったりした臨場感のある旋律が奏される。エコーのかかった混声合唱は、神秘的な雰囲気を漂わせ眼前に広がる大空を印象付ける。ポップスのような軽快さを併せ持ちながら、美しく流れるようなスケールの大きい曲作りは、ジャンルの枠を越えた音楽を実感させるものである。

2nd Movement : He awoke startled
 この楽章は、海の情景を描いた音詩で、混声合唱のヴォーカリーズとオーケストラによる静かで瞑想的な調べからはじまり、快活に弾む弦のピツィカートから大きく開けた海原に向かって「前へ前へ」と進んでいくさまが描かれる。勇壮な合唱とオーケストラに続いて、行く先の不安を象徴するような弦のうねりとブラスによる不協和音が奏され、曲は不穏な情景をたたえながら突如として終わる。

3rd Movement : Subtle colours merged soft contours
 前楽章の終結部の雰囲気から一転して牧歌的な雰囲気ではじまり、やがて天上界の平和で心安まる調べが奏でられる。そのうち、希望に満ちた前進とでも形容できるフレーズが現われ、少々東洋的なエキゾティックさをたたえつつ、「悲歌」と銘打った幻想的な曲調から、巨人の歩みのように重々しい曲調へと移り変わっていく。そして、オーケストラと混声合唱によって荘厳で力強い旋律が現われたかと思えば、また一転して「悲歌」調の調べを奏でながら終楽章へと向かう。

4th Movement : Strings pluck, horns blow, drums beat
 突然、オーケストラがフォルテによる悲劇的なフレーズを奏し、これに合唱が加わってオラトリオを思わせる壮大な音楽が形作られる。その後一転して独奏楽器群によるミクロな音の世界へ至る。さらに曲は転変しつづけ、緩急の入れ替わりが激しく展開される。この第4楽章は、前の3つの楽章以上に次々と色々なフレーズが登場し、あたかもメドレーのようである。最後の「Love duet」から「Celebration」は、全曲中最も感動的な部分である。静かに愛の歌が進行し、合唱がとうとうと「Standing Stone Story」の終わりを告げる歌を歌いながら、壮大な音のドラマは静かに余韻を残しつつ終わりを迎える。
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