ウィリアム・ロイド = ウェッバー

William Lloyd-Webber(1914‐82)

 「キャッツ」、「オペラ座の怪人」などのミュージカル作品の付随音楽で知られる売れっ子作曲家アンドリュー・ロイド=ウェッバーと、その弟でチェリストのジュリアン・ロイド=ウェッバーの父親であるウィリアム・ロイド=ウェッバーは、この2人の兄弟と比べるといまひとつ日本ではなじみが薄い。息子のアンドリューほどポピュラーな作品を精力的に作曲していたわけではなく、また彼は、オルガニストとしての名声が大きかったことも、あまり作曲家として認知されていない原因かもしれない。ウィリアムは、14歳でオルガニストとしての名声を獲得し、その後教会オルガニスト兼合唱団のコーラルマスターとして活躍するようになる。やがて、王立音楽大学にてヴォーン=ウィリアムズに師事し、23歳(1936年)のときに「幻想的三重奏」を作曲してから、作曲家として本格的な活動を開始することとなった。彼の肖像写真を見ていると、生真面目な学究の徒といった感じで、わりとエルガー流の硬派の音楽をイメージしてしまうが、実際は、息子のアンドリューの華麗な作風と比べると地味ではあるが、しっとりとした叙情性と多くの聴衆を魅了するであろうポピュラリティを兼ね備えた魅力的な作品を残している作曲家である。

*ロイド=ウェッバー・ディスコグラフィ(M.M所蔵のLP、CD等の一覧です。)


CHANDOS
CHAN 9595
弦楽のためのセレナード、インヴォケーション(祈り)、レント、3つの小さな春、オーロラ(管弦楽のための交響詩)、夜想曲、「すべての愛に勝る神の愛」、ベネディクトゥス、ミサ:プリンセプス・ペイシス、「神よ、親愛なる神よ」
リチャード・ヒッコクス/シティ・オヴ・ロンドン・シンフォニア、ウェストミンスター・シンガーズ、ロンドン芸術教育学校合唱団、ホリー・コーク(ソプラノ)、タスミン・リトル(vn)、スカイラ・カンガ(hp)、ジュリアン・ロイド=ウェッバー(vc)、イアン・ワトソン(org)

 深い叙情性と音楽への敬虔な信仰を感じさせる作品の数々。
 ここに集められた管弦楽および管弦楽付き声楽作品は、いずれも派手に楽器をかき鳴らしたり、絢爛豪華で凝った演出は皆無といって良いものばかりである。テンポもゆったりとしており、派手な音響効果よりもとうとうと語るような音作りが、しみじみと心の内に浸透するかのような静かな感動を呼び起こす。単純ではあるが美しい和声の響きとゆったりと流れる旋律は、いかにもイージーリスニングといった感じで多少俗っぽい印象を受ける部分もあるが、宗教的なテーマによる作品も多く(特に後半の声楽曲)、深く敬虔なムードを醸し出している。単なるイージーリスニングとして聞き流してしまうには惜しい作品が多い。曲の構成が単純な分、非常にわかりやすく、聴く者へ作曲者の曲に対する思いがストレートに伝わってくるような気がする。このCDはじっくりと腰を据えて、窓辺に映える夕日を眺めながら聴くのがぴったりだろう。

Hyperion
CDA67008
3つの小さな春、朝のための歌、赤紫色の農家、ソナティナ、東方の泉へ至る庭園(遅い夏の印象)、エアと変奏曲、フレンシャム・ポンド、幻想的三重奏、橋の上、我は汝を如何ほどに愛しているのか?、ウィックロウ・ヒルズへ、目覚ましの声、じゃこう草の生い茂った森、黄昏、露のしずくのような愛、朝の訪れを眺めた
ナッシュ・アンサンブル=ジョナサン・スノウデン(fl)、アンソニー・ペイ(cl)、レオ・フィリップス(vn)、クリストファー・ヴァン・カムペン(vc)
イアン・ブラウン(p)
ジョン・マーク・アインスレイ(テノール)

 しっとりとした雰囲気の漂うピュアな小品集。
 このCDに収められている曲も、地味ではあるがリリカルな味わい深いものが多い。室内楽愛好家にはお勧めの1枚である。このアルバムは、前半がピアノ独奏曲と室内楽曲、後半が歌曲によって構成されている。最初のピアノ独奏による「3つの小さな春」からして、ロイド=ウェッバーのミニアチュアな音の世界に引き込まれてしまう。この曲は「インヴォケーション」でも、管弦楽編曲のものがカップリングされているが、この曲はどちらかといえばピアノ独奏のほうが、ぐっと曲の持ち味を引き出してくれるようである。以下に続く小品たちも、楽器の編成が小さいからこそここまでの表現が可能になったと言っても良いぐらいであろう。ブラームスの室内楽のように管弦楽用に編曲しても充分通じるものとは違い、フルート独奏とピアノ、クラリネット独奏とピアノ、テノール独唱とピアノとそれぞれの曲の雰囲気にマッチした適切な楽器編成である。それに、このアルバムの演奏者たちは、いずれも粒ぞろいの名演奏家である。特にイアン・ブラウンのやさしく、しなやかなタッチのピアノは、ソロ、伴奏ともにすばらしい出来である。アインスレイのテノール独唱も線は細いが、艶やかで若々しい(だけど、スキンヘッドのわりかし体つきのがっちりとした人ですけどね)。このアルバムは、優雅で贅沢なひとときを堪能できる1枚である。
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