グスターヴ・ホルスト

Gustav Holst(1874-1934)

 かのカラヤンがベルリン・フィルと組曲「惑星」を録音して以来、イギリス以外ではあまり知られていなかったホルストも一躍ヒットチャートの仲間入りを果たすことになった。一時期、ホルスト・ブームと言って良いほど、彼の作品(といっても「惑星」などのごく一部)がTVのBGMや演奏会で採りあげられることがあったが、最近では下火になってしまったようだ。ホルストというと「惑星」の他、セントポール組曲と吹奏楽のための組曲第1番・第2番(中学や高校で吹奏楽をやっていた人の間では有名)が知られているが、彼が多数の優れた声楽曲を残していることは意外に知られていない。また、ホルストは19世紀から20世紀初頭のイギリス知識人階級の例に漏れず神秘主義(またはオカルティズム)と東洋趣味にはまった一人でもあった(シャーロック・ホームズの生みの親であるサー・アーサー・コナン・ドイルも、オカルティズムに対して非常な興味を抱いていた)。もちろん、これは彼の作品の中に色濃く反映されている。「惑星」が占星術からインスピレーションを受けたことを示唆し、セントポール組曲の2曲目(オスティナート)で東洋的な旋律が使われていることからも明らかである。彼の作品には比較的短めの小品が多く、気軽に聴けるものばかりである(「惑星」は例外的な大編成の大曲である)。あまり気負うことなく作品に親しむことが出来るのがホルストの特徴であろう。

ホルスト・ディスコグラフィ(M.M所蔵のLP、CD等の一覧です)


BMG
74321-17905-2
組曲「惑星」Op.32(ヴォーン=ウィリアムズの「タリスの主題による幻想曲」と「グリーンスリーヴズ幻想曲」とのカップリング)
ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団、メンデルスゾーン・クラブ女性合唱団

  豪華絢爛なフィラデルフィア・サウンドに酔いしれるひととき。
 何故!オーマンディなのか。納豆が糸を引くがごとく、次から次へとこれでもかこれでもかとばかりに沢山の録音が出ている中でこれを推薦するのは何故か!何を隠そうこの「惑星」は、中学生時代の私がクラシックにはまる第一歩となったのと同時に、これを機にオーマンディ・ファンになったといういわくつきの録音だからである。第1曲目の「火星」からブラスの輝かしい華麗な響きを堪能できる演奏であり、スペクタクルな音の絵巻を展開する「惑星」にふさわしい演奏ということが出来るだろう。カラヤンやメータ、本場イギリスの指揮者による演奏とは一味違った全盛期のフィラデルフィアのダイナミックな音の世界を楽しもう!

CHANDOS
CHAN 9270
2つのヴァイオリンと小管弦楽による二重協奏曲 Op.49、言葉のない2つの歌 Op.22、ヴィオラと小管弦楽による叙情的な楽章、ブルックグリーン組曲、フルート・オーボエと弦楽合奏による対位法的協奏曲 Op.40-2、セント・ポール組曲 Op.29-2
リチャード・ヒッコクス/シティ・オヴ・ロンドン・シンフォニア

 小編成のオーケストラと弦楽合奏による作品集。
 私は何かとホルストには縁がある。私は大学時代に弦楽合奏のクラブに所属していたが、そのときに演奏した曲目にブルックグリーン組曲がある。曲自体はBGMで流れていたらそのまま聞き流してしまうようなさりげなさをもっているが、それをずいぶんねちっこく演奏していたような記憶がある。セントポール組曲はホルストが勤めていたセントポール女学院の弦楽オーケストラ用に作曲したという作品で、素人向けということになるのだろうが、これが結構難しい曲で、舐めてかかると痛い目を見ることになる。この他の曲もダイナミックさと叙情性を併せ持った佳作が目白押しである。このなかで、言葉のない2つの歌は、田舎の田園風景を楽しげな旋律によって表現している牧歌的なCountry Songと威風堂々とした行進曲であるMarching Songが対照的で面白い。叙情的な楽章は、ヴォーン=ウィリアムズの「揚げひばり」を思い出させるような穏やかな音楽。対位法的協奏曲は古典的な曲調の軽快な1楽章、瞑想的な2楽章、1〜2楽章の性格をあわせたような3楽章からなる曲で、二重協奏曲は少々無調がかったような感じとなっている。

CHANDOS
CHAN 9240
対位法的序曲 Op.40-1、サマセット狂詩曲 Op.21-2、スケルツォ、エグドン・ヒース Op.47、ハマースミス Op.52、カプリツィオ
リチャード・ヒッコクス/ロンドン交響楽団

 マイナーではあるが、粒ぞろいの作品を集めたアルバム。
 ハマースミスは吹奏楽でも演奏される機会があるのでご存知の方も多いだろうが、それ以外については聴いたことのないものばかりではないかと思う。しかし、ここにはホルストの魅力がふんだんにちりばめられたホルスト・ワールドが繰り広げられている。対位法的序曲は、妙に能天気な明るさに満ちたライトな音楽。サマセット狂詩曲は、このアルバムの中でも注目の一曲。夜明けをイメージするさわやかなそよ風が吹きぬけるような導入部に続き、堂々とした行進曲風の旋律へと受け継がれ、はたまた浪々と歌うかのような叙情的な旋律が現れる。曲の中でいくつもの性格の違う曲調がかわるがわる登場する秀作。最後に夜明けの旋律が繰り返されたところで解決を見ずにいきなり終わってしまうところも粋な演出といえよう。スケルツォは活発でダイナミックな曲。エグドン・ヒースは内省的な曲調の中に時々ブラスによる感情の起伏を表すかのようなフォルテが現れる。終始一貫して暗いイメージに支配された曲である。ハマースミスは中低音でうねりをもった前奏にはじまり、続くスケルツォでは印象的なファンファーレが変奏形式を伴いながら絶えず繰り返される。カプリツィオは、流れるような美しい旋律と少々とぼけた調子のコントラストがなかなか面白い作品である。

EMI
CDM 5 65588 2
合唱幻想曲 Op.51、賛美歌86章−第1番(ヴォーン=ウィリアムズ:「5つの神秘的な歌」・「汝の手をたたけ」、フィンジ:「誕生の日」とのカップリング)
イモージェン・ホルスト/イギリス室内管弦楽団、パーセルシンガーズ、ラルフ・ダウンズ(オルガン)、ドーン・ジャネット・ベイカー(メゾソプラノ)、イアン・パートリッジ(テナー)

 ホルストの娘によるホルスト声楽作品選。
 メゾソプラノと合唱、オルガン、オーケストラとのせめぎあいという印象を強く持つ合唱幻想曲は、あまり一般受けするような曲ではないが、この4者が奏でる不協和音(特にオルガンが強烈)はセンセーショナルな面白みがある。賛美歌86は、グレゴリオ聖歌のような敬虔な雰囲気につつまれたモノフォニックな部分が大半を占めている。ここでは管弦楽による伴奏は極力抑えられ、静謐な中での声のアンサンブルによる響きに重点がおかれている。最後は合唱、オルガン、オケによる盛り上がりの後に静かに幕を引くようにコーダへと至る。
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