ジョージ・バターワース

George Butterworth(1885-1916)

 バターワースがこの世に残した作品は非常に少ない。数を数えるのに手が二本あれば充分なくらいである。何故、彼の作品はそれほど少ないのか。もう察しの良い方はお分かりだろうが、第1次世界大戦勃発に伴って陸軍に入隊した彼が、1916年8月に西部戦線の激戦地ソンムにおいて31歳の若さで戦死を遂げたからである。バターワースは、出征に際して書きかけの作品を焼却処分したと伝えられているところから、このとき彼は二度と祖国の土を踏むことはないと覚悟していたのかもしれない。なおバターワースの死後、彼と親交のあったヴォーン=ウィリアムズは、「ジョージ・バターワースの追憶」に自らの代表作であるロンドン交響曲(交響曲第2番)を捧げている。バターワースの作品は少ないが、そのいずれも珠玉の名品といえるものばかりである。どちらかというと地味ではあるが、牧歌的で青春の息吹とでもいえるすがすがしさを感じ取ることができる。彼自身は裕福な家庭に生まれ育ったごく平凡な青年であったが、その感受性は人一倍強く、自分の感じたことを音として表現する才能に恵まれたアマチュア作曲家であった。

*バターワース・ディスコグラフィ(M.Mが所蔵するCD、LPの一覧です)


argo
436 401-2
2つのイギリス田園詩、シュロプシャーの若者、小管弦楽のための牧歌「青柳の堤」(タイラー:バラード・交響的変奏曲「アフリカの空」、マッカン:「山と溢るる水の地」とのカップリング)
グラント・リーウェリン/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

 バターワースの全管弦楽作品を収めたスタンダードな名演。
 力むことなく、流れるようなさりげなさを持った「2つのイギリス田園詩(牧歌)」は、午後のひとときをのんびり過ごすBGMにうってつけである。いま流行のヒーリング音楽に通じる心安らぐ旋律は、都会の喧騒、仕事で張り詰めた神経をなごませてくれることだろう。また、「シュロプシャーの若者」や「青柳の堤」がもつはかなげな美しさは、心の重石を取り払ってくれるかのようだ。バターワースの魅力は、強烈なインパクトによって人を惹きつけようという強引さではなく、自然体でさらりとながすようなさりげなさにある。ワーグナーやリスト、マーラーなどの割にアクの強い音楽に少々疲れたときには、バターワースを聴いて気分をリフレッシュというのも悪くない。リーウェリンは、ブラスやパーカッションを大胆に使っている一方で、静謐な音の響きをも生かしている。RLPOの演奏も繊細でありながらも、広がりや膨らみを感じさせる艶やかな音を響かせたすばらしい名演である。

東芝EMI
TOCE-6420
小管弦楽のための牧歌「青柳の堤」、小管弦楽のための2つのイギリス田園詩(モラン:小管弦楽のための2つの小品、ブリッジ:小川のほとりにたつ斜めの柳、バックス:小管弦楽のための3つの小品とのカップリング)
ジェフリー・テイト/イギリス室内管弦楽団

 バターワースの音の世界とマッチしたカップリングが魅力の一枚。
 私がバターワースという作曲家をはじめて知ることになったのが、このCDである。ジェフリー・テイトとECOのコンビが若々しく情感豊かに歌い上げる田園詩曲は、リーウェリン盤に劣らない魅力を兼ね備えている。リーウェリンが静かで内省的な響きを大切しているのに対して、テイトはつらつとした開放的な演奏を披露している。この手の曲は、ブラスを響かせすぎると得てして失敗してしまうものだが、この演奏はそのようなことがないという点でも優れている。カップリング曲も良く、全体的に音楽的な統一感のとれた組合せとなっている。是非とも愛蔵盤として手元に置いておきたい一枚である。
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