フランク・ブリッジ

Frank Bridge(1879-1941)

 フランク・ブリッジといえば、ベンジャミン・ブリテンの師匠として知られている作曲家である。しかし、彼は弟子のブリテンの刺激的な作風とは異なり、内向的な心に訴えかける哀愁に満ちた作品を数多く残している。ブリッジは室内楽や小編成の管弦楽の作品に本領を発揮する作曲家で、あまり大規模な管弦楽作品の数はそれほど多くない(交響曲のような大作を作曲する構想もあったようだが、結局は実現していない)。ただ単に美しいだけではない小粒だが印象に残る作品の数々は、長く親しめる何度聴いても飽きのこないものばかりである。しみじみと感慨にふけるとき、懐かしい思い出に浸るとき、感動的な場面にめぐり合えたとき、そんなひとときを楽しむのに最適なBGMともなるのがブリッジ作品の特徴である。マーラーやブルックナーなどの重い曲の合間の息抜きに、ブリッジの小粋な音楽はいかが。

ブリッジ・ディスコグラフィ(M.Mの所蔵するLP、CDの一覧です)


EMI
CDM 5 66855 2
管弦楽のための組曲「海」、交響詩「夏」、チェリー・リップ、狂詩曲「春の訪れ」、悲歌
サー・チャールズ・グローヴズ/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

 ブリッジには珍しい、大編成のオーケストラによる作品集。
 組曲「海」は、ブリッジにしては珍しく大管弦楽によるダイナミックな音のつくりの作品となっている。眼前に広がる大パノラマといった感じからして、彼の他の作品とは一味違う。ブリッジを室内楽的な響きを特徴とする緻密な曲を描く作曲家とイメージしている人には少々異質に感じるかもしれない。曲自体はヴォーン=ウィリアムズの「海の交響曲」に相当するスケールの大きさをもつ一方で、ブリッジ特有の繊細さを兼ね合わせており、作曲家ブリッジの表現力の巧みさを実感させられる。4曲目の「嵐」は、ブリテンの「ピーターグライムズによる四つの海の間奏曲とパッサカリア」の終曲「嵐」とイメージがダブるところがあり、やはり師弟関係にあるもの同士、似たような曲を書くもんだなと妙に感心してしまう。交響詩「夏」と狂詩曲「春の訪れ」は、ちょいとディーリアス風、微妙に印象派的なエッセンスが混じった作品。

BMG
75605 51327 2
弦楽オーケストラのための組曲、小管弦楽のための印象「小川のほとりにたつ斜めの柳」、2人の猫背の男、スレッド(糸)、ローズマリー、カンツォネッタ、子守歌、セレナーデ
ニコラス・クレオブリィ/ブリテン・シンフォニア

 ブリッジの魅力がこの1枚に凝縮されたCD。
 最初の2つの作品は、いくつかの録音が出ているので聴く機会はあっても、それ以外のカップリング曲となると収録されている録音がないので、非常に貴重な1枚である。しかも、ここに収録されている作品はいずれもブリッジの魅力を堪能させてくれるものばかりである。ローズマリーやカデンツァ、子守歌、セレナーデなどの小品は、なんとなく心の重石を取り除いてくれるようなやさしさに満ち溢れている。日常のいやなことをこのCDが緩和してくれること請け合い。また、クレオブリィとブリテン・シンフォニアのコンビは、一つ一つの作品の特質を鮮明に浮き上がらせる見事な演奏を披露している。特に1曲目の「弦楽オーケストラのための組曲」は、曲の造詣を細部に至るまで把握することが出来る丁寧な演奏である。

CHANDOS
CHAN 8390
弦楽オーケストラのための組曲(アイアランド:ダウンランド組曲、ホリイ・ボーイ、とのカップリング)
ダヴィッド・ガーフォース/イギリス室内管弦楽団

 心に染み入る深い叙情性を感じさせるイギリス弦楽合奏曲の最高傑作のひとつ。
 第1曲目のPreludeは、まさしく強く心に訴えかける悲歌、「泣きの音楽」である。これを聴くと思わず胸が締め付けられるような気がして、目頭が熱くなってくる。一転して第2曲目のIntermezzoは、弾むような小粋な曲だが、どこか陽気になりきれないところが感じられる。第3曲のNocturneは、霧のかかった静かな森の中にいるかのようなミステリアスな雰囲気が支配する幻想的な曲。チェロとヴィオラのソロ、遠くから呼びかけるようなヴァイオリンによるフラジオレットが聴き所。第4曲のFinaleは、長調の歯切れの良いトゥッティによる前半部から流れるような短調の旋律を経て、また長調へと戻っていく表情豊かな終曲。この演奏は、前述のクレオブリィ盤と甲乙つけがたい名演である。クレオブリィ盤が抑揚をつけて明瞭に表現しているのに対して、ガーフォース盤は多少ゆっくりめの淡々とした調子ではあるが、ゆったりと、それでいて平坦にならない、各パートがよく歌う起伏に富んだすばらしい演奏である。

NAXOS
8.553718
幻想的四重奏曲、短編小説、3つの牧歌、ロンドンデリー・エア、ロジャー・デ・カヴァリー卿、横丁のサリー、チェリー・リップ、3つの小品
マッジーニ四重奏団

 ブリッジを聴くには、まずこの1枚。入門用の作品集としては最適。
 ブリッジは室内楽や弦楽合奏などの小編成の楽曲を数多く残している作曲家だが、その中でも親しみやすい小品ばかり集めたのがこのアルバムである。「ロジャー・デ・カヴァリー卿」という作品は、ブリテンの編曲によって弦楽合奏で演奏されることも多く、耳にしたことのある人もわりに多いのではないかと思う。素っ頓狂な曲調から判断して、この曲のタイトルにあるカヴァリー卿はおどけた調子の変わり者といった感じだろうか。あと、「ロンドンデリー・エア」は同名の有名なアイルランド民謡をベースにした作品だが、変奏曲のように変化の富んだアレンジを加えているところが聴き所である。最後に収められている「3つの小品」(世界初録音だそうである)は、非常に短いが粒ぞろいの曲ばかりで、特に3曲目のアレグロ・マルカートは、ラグタイム風の小粋な曲である。このアルバム中で私がもっとも気に入っているのが「横丁のサリー」という曲で、自分の心の中にしまい込まれた大切な思い出の1ページを開く時のあの懐かしくもあり、切ない思いを再現するかのような、味わい深い感動的な小品である。この曲を聴くために1000円を払っても良いくらいの価値はあるだろう(もちろん私見)。
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