禁断の愛に溺れて 第1話

2001年2月24日
寝ても醒めても、考えるのはあなたのことばかり
唇に残るあなたの感触
鼻の奥にかすかに残るあなたの香り
あなたさえそばにいれば他にはなにもいらなかったのに
 

 こうして書いているのも苦痛なのですが、そろそろリハビリしないと、このまま書けなくなってしまいそうですし、それにいろいろ発見したので、そのことを今のうちに書き残しておかないと忘れてしまいそうなので、がんばりましょう。
 
 今までの経緯

2月18日(日) 午前6時 

 友達との長電話が終了した。手元のタバコは最後の1本だった。どうせ吸いたくなったら買いに行くわけだしと思い、吸ってしまう。そのときはまさかこういう展開になるとは夢にも思っていなかった。

 昼頃に起床。長電話と話しながらけっこう飲んでいたせいもあり、ダルダル。
 コーヒーを飲みながら、「ああ、一服したい」と強烈に思うが、「あとで、プールに行くからその途中で」と思っていたので,我慢した。洗濯を済ませて、さあスポーツクラブに行こうと思ったが、なんとなく気が乗らなくて、ぼんやりフリーセルとかしているうちに外は暗くなり、「今日はもういいや」という気分になる。

 そうなるとタバコをいつ買いに行くかが問題だが、「いまいち気分がシャキっとしないので、今日は久しぶりに近所のサウナにでも行こう」と考え、そのときにタバコも買おうと決めた。

 7時から、いつも楽しみにしている「鉄腕DASH」を観ていて、それが終わったら銭湯に行こうと、タオルや着替えの用意をしていたら、「特命リサーチ200X」の予告CMが入る。
 「どうしてタバコはやめられないのか?」禁煙特集らしい。一応、観てみるかと、お風呂セットを抱えたままテレビを観ていた。

 内容は特に目新しくはなかったが、禁煙をしたときの禁断症状というか退薬症状について色々詳しく紹介されていた。
 もちろん、自分が立派な「ニコチン中毒者」であることは理解していたのだが、あまり禁断症状について考えたことはなかった。というよりも禁煙しようと思ったことがほとんどないのである。

 さて、うっかり「禁煙するとこんな症状があなたを襲う」という内容を観て、「うわあ、そうか、これは憧れの禁断症状が体験できるんだ!気がつかなかった!」と思ってしまったのでした。
 なにせ「お薬文学・映画・音楽好き」なので、いろいろ興味はあるものの、実際に自分がそういうものに耽溺する機会もあまりありそうもないと思っていたのですが、噂によると「ヘロイン中毒よりも強力らしい」という「ニコチン中毒」の禁断症状を体験すれば、気分はもう「トレイン・スポッティング」だ!

 あの映画の冒頭で主人公が「こんなのやめるのわけないさ」と部屋に篭ってドアに釘を打ちつけますが、「でも、やっぱその前に最後の一服」とあっけなくドアを破壊して「打ちにいく」様子は、喫煙者には笑えないシーンでした。

 というわけで、別に「タバコをやめたい」と思ったわけではなくて、「禁断症状を体験したい」という我ながら妙な理由で、「よっし!せっかく半日がまんしたし、2時間後という最初のピークはクリアしたらしい。2、3日はかなり辛いみたいだから、この際それも体験しよう」と、そのあと、サウナには行きましたが、タバコは買って帰りませんでした。

 その夜、「どっかに一本くらい残ってないかな〜」とあちこち探しまわりましたが、一本もない。吸い殻にはすでに水をかけておりました。

2月19日(月)

 日曜日は昼過ぎまで寝ていたし、一日中ごろごろしていたので、いつもだとそういう日曜の夜は当然寝付きが悪いのですが、わりとすんなり眠れました。
 ふと目が覚めると、体の感覚的には「ずいぶん、ぐっすり眠れたな」という感じだったのですが、部屋は真っ暗です。「まだ5時くらいなのかなあ?」と思い、時計を見てびっくり・・・・・・まだ2時半でした。床に着いたのが12時くらいでしたので、まだ2時間しか経過していないのです。
 いつもだと、そういう「夜中にふと目が覚めてしまったとき」にもついつい一服してしまったりするのですが、我慢してそのまま寝ました。するとまた、目が覚めました。今度は少し明るい。時計を見ると6時でした。
 別に目が覚めることにはそれほどの不快感もなかったのですが、「なにかが狂っている」と思い、少し不安になりました。

 さて、そんなこんなで出勤。会社が一番問題です。なにせ、私のいるところは「喫煙所」なのです。
 フロアのほとんどは禁煙なのですが、経理のところは、社長も経理課長もヘビースモーカーなので「喫煙OK」になっているので、フロアの禁煙エリアにいる喫煙者が、なごみに来るという「最悪の環境」なのです。

 しかし、思ったよりも他人が吸っているのを見て「いいなあ〜吸いたい〜」という気分にはなりませんでした。匂いがしても平気です。禁断症状には波があるというのをテレビでもやっていましたが、それは本当にそうでした。外界からの刺激はあまり関係なくて、もちろん多少影響は受けますが、それよりも自分の体の中で「なにか急に暴れるもの」がいるようで、なんの脈絡もなく突然「はあああああ〜吸いたい〜」となるのです。

 そういう状態は2、3分で乗り越えられるとテレビでも紹介されていましたが、たしかに、長く持続する衝動ではないのですが、意識はかなり飛ぶので、私のようにマイペースで仕事ができるような職業だったらいいけれど、そうはいかない職業だとこれを乗切るのは大変でしょう。
 以前、禁煙に挑戦した知人が「会議中とか大事な打合せ中にも眠くなってきてボンヤリしてしまい、どうしても続けられなかった。仕事が忙しいときはだめだ」と言っていましたが、たしかに目の前のことに全く集中できなくなるので、例えば医者で外科医とかだったら絶対に無理というか、お願いだからタバコ吸ってくださいというところでしょう。

 しかし、この「はあああ〜」という衝動というか「切ないキモチ」が1時間に数回やってくるのですが、これが私だけなのかどうかわかりませんが、本当に「恋煩い」と同じでした。
 とは言っても、近年「恋煩い」をあまり経験していないのですが、タバコを「彼」と言い換えると、ほとんど違いはないようです。

 仕事中でも彼のことばかり考えてしまい、仕事が手につかない
 彼のことを思い出してぼんやりしてしまう
 
 しかも、この恋は、すでに「終わった恋」なのです。もう彼に会うことはできないのです。

 ♪ ふたりの恋は〜終わったのねえ〜
    サントワマミー 悲しくて〜目の前が暗くなる、サントワマミー ♪

 まさに目の前が暗くなっている状況で、頭の中で何度となく「サントワマミー」を繰返していると、ふと呪縛がとけて、ケロリとしてしまいます。そうなると、ぶっ飛んでた自分がちょっと恥ずかしくなり、思わずヘラヘラしてしまいます。

 遠い目をしてぼんやりしている→悲しみをじっとこられている→切なさに涙目になっている→ヘラヘラ笑っている

 このパターンを一日中ループさせていました。
 会社にもしも私に関心のある人がいたら「ミヤノさんはかなり様子がおかしい」と思われたことでしょう。それで「禁煙」がバレたら「妊娠でもしたらしい」と思われそうです。
 ちなみに、月曜日なのが幸いして、上司も同僚も揃って眠たそうで、禁断症状に翻弄されている私といい勝負でしたので、あまり怪しまれなかったようです。

 喫煙者に気を遣わせたくなかったので、会社では禁煙していることは言いませんでした。

 なんとか職場での苦しい時間を乗切りましたが、外に出ると街には「自動販売機」が乱立しているし・・・
 ああ、サントワマミーの2番の歌詞って、

♪ 街に出れば〜男が誘い〜

 じゃなかったっけ?最近、歌っていないので忘れている。

 「愛の賛歌」も「燃える」という単語が頻出する歌だし、あれはたしか死んだ旦那のことを想って作った歌ではなかったか?

♪ あたし〜を燃やす〜火

 「八百屋お七」は好きな男に会いたい一心で放火するんだよな。うわあ、火つけたい!!!!

 というわけで、こういう関連があるんだかないんだかわからないようなことを一斉にわらわらと考えていたのです。その状態を「思考の放射冷却状態」と命名しました。それにはまると、頭がピリピリして、脳の神経が無意味に駆け巡っているのがわかります。お湯が沸いて、蒸気で水の分子がどんどん逃げていくようなイメージです。ヤカンの中は泡がぶくぶく。後頭部がざわざわして、脳の中の大事なものがどんどん蒸発していくようなかんじです。

 多分、ニコチンの刺激が無いので、他の刺激を求めているらしく、一生懸命いろいろ刺激的なことを考えようとするみたいですが、それに指向性が全くないので「超絶技巧連想ゲーム」のようなものになってしまいます。もともと、私がわりとそういう思考をするので、その部分が拡大してしまったのだと思いますが、その展開がかなり緩急激しくて、だんだん消耗してきました。

 三軒茶屋に着くと、そのまま映画館に飛び込んで「マルコヴィッチの穴」を鑑賞。映画館は禁煙なので落ち着きます。それに物語を外から供給していると「自家発電」しなくて済むので、休まりました。
 
 家に帰り、とっとと寝ました。

2月20日(火)

 48時間を経過して、この日がまさに3日目。アンケートでもこのあたりを乗切れなかった人が全体の3分の1を占めていました。たしかに、昨日の状況を考えると、かなりのジェットコースター状態なので、これがまだ続くとなると自信がなくなりますが、「待てよ、私の目的は禁煙ではなくて、そういうヤバい症状を体験するというものだから、いいのであるよ」と思い直して、出勤。

 今朝も6時ごろ一回目が覚めたりしていました。たしかに寝付きと目覚めはよくなったようです。
 テレビ番組でも「睡眠はいつもより多めにとる」のが禁煙のコツのひとつに紹介されていました。なるべく12時前には就寝するようにしていたので、早くに目が覚めてしまうのは単に「睡眠が充分なのでもう起きろ」ということなのかもしれないと思いました。

 もうひとつのコツとして「食事は軽めにする」というのもありました。禁煙挑戦者のほぼ全員を悩ませるのが「食後」でしょう。「食後の一服」をぐっと堪えるのは本当に辛い。ですから「食事を8分目にする」というのは、「眠気」や「集中力の低下」を押さえるというのと「食後の一服」を避ける意味があるようです。

 しかし、禁煙していると「胃の働きが活発になる」「味覚が鋭敏になる」なるため、どうしても食欲が増進してしまいます。それにどうしても口が寂しくなりますから、なにか口に入れたくなるのです。

 「タバコ吸いたい」「お腹も空いた」と、果てしない欲望に押しつぶされそうになりました。空腹はどうしても我慢できませんから、ついついお菓子などを食べてしまい、口の中が甘くなると、今度は「吸いたい〜」ってかんじで、頭の中に鳥の巣があって、生まれたばかりの雛が四六時中ピーピー言っているようです。

 そして、「禁断症状」と「食欲」を散らすために、脳が無意識に他の刺激を探していたようです。三大欲の「睡眠欲」は満たされているようなので、リストアップされなかったようです。多分、禁煙中で寝不足の人には「睡眠」も重くのしかかってくることでしょう。さて、残るは・・・・・

 昨日の時点で、すでに心は「越路吹雪」だの「八百屋お七」だのと情念的なものに傾いていました。今日はそれがまたちょっと変容して、「観念的」なものからもっと具体的な妄想になってきました。

 たとえば、やはりどうしても口さびしい。でもガムを噛んでもちょっと違うのです。寂しいのはお口の中ではなくて、唇らしいと気がつきました。

 唇が寂しい→やはりこう、唇でなにかこう・・・→キスでもすれば、気が紛れるかなあ?→ううむ。キスしてえなあ・・・

 そこまでたどりついたら、もう最後、頭の中は「キス映像のフラッシュバック」で一杯になってしまいました。それを断片的に3時間くらいやってましたかねえ。もう、こうなると思春期の男子高校生のようです。
 そんなんで、虚ろな目をして口は半開きの状態のときに、会社の人に呼ばれても、急には反応できなくて、ポカンとしてしまったりと、完全に「色ボケ」状態でした。

 それで弾みがついたのかなんなのか、「性的妄想」はけっこう加速していって、あまり発表したくないので、詳しくは書きませんが、「タバコをくわえられないからって、男をくわえたいのか?」というセクハラ発言を自分で考えてしまい、どこに怒りをぶつけていいのやら、トホホと悲しくなっていたりしていました。

 不思議と、そういう気分になるのは職場だけでした。仕事しているふりをしながら、ぼーっとそういうことばかり考えているので、「やはり突き詰めて考えると、実は欲求不満だったのかもしれない。こうなったら、さっさと嫁に行ったほうがいいのだろうか?」などと達観してしまったり、「ひとりぼっちの家に帰るのやだな。そうかタバコがあったから一人で生きてこれたんだな。本当の自分は淋しがりやなのかもしれない」と「本当の自分探し」に嵌まったりしていましたが、一歩会社を出ると、「吸いたい」「食いたい」というダイレクトな欲求になってしまうし、家にいるとテレビを見たり、靴を磨いたり、流しを磨いたりと、気を紛らわす手段はありますから、あまり弱気にはならないようです。

 しかし、禁煙で弱気になるとは・・・・・・なんなんだいったい?

 いろいろ混乱したが、夜はスポーツクラブでたっぷり運動。「性欲を散らすのにはスポーツだ!」というのが本当なのかどうかは知らないが、とにかく疲れたのでまたグッスリ寝た。


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