ユニバーサルデザイン − みんなが使えるためのデザイン

バリアフリーとユニバーサルデザイン

「バリアフリー」という言葉は、一部の高齢者や障害を持つ人を対象に、彼らの使いやすさを追求して障害を取り除くことをテーマにしたデザインです。視覚障害者のための誘導ブロックや点字シートなど、障害の部位ごとに障壁を除去していきます。建物の入口に階段がある場合、脇にスロープをつけることによって、バリアフリーの最低要件を満たすことができます。 

この「バリアフリー」に対して「ユニバーサルデザイン」という言葉があります。「ユニバーサルデザイン」とは、性、年齢、障害の有無を超えて、なるべく多くの人々が利用するように、製品、建物、環境をデザインすることです。その特色として、「障害の有無に関係なく自然に使える」「デザインが美しい」「使い方や利用方法が理解しやすい」「安全性が高い」「購入しやすい価格(市場性がある)」「周辺に違和感を与えない」などがあげられます。

『デザインの未来 環境・製品・情報のユニバーサルデザイン』(編著・古瀬敏 都市文化社1998年)に、ノースカロライナ州立大学のユニバーサルデザインセンターによるユニバーサルデザインの7原則が紹介されています。

1.だれにでも公平に使用できること
2.使う上での自由度が高いこと
3.簡単で直感的にわかる使用方法になっていること
4.必要な情報がすぐに理解できること
5.うっかりエラーや危険につながらないデザインであること
6.無理な姿勢や強い力なしに楽に使用できること
7.接近して使えるような寸法・空間となっていること

ガーデニングの分野では、高齢になっても好きなガーデニングを楽しみたいというニーズから、車椅子や椅子に座って園芸が楽しめるように、植物を植え込む位置を高くしたレイズド・ベッドが考案されました。ユニバーサルデザインの7原則を参考に、さまざまな分野でみんなが使いやすい商品やサービスが開発されることが望まれます。

 樽を利用したプランター

コミュニケーションとユニバーサルデザイン

電話の発明によって、移動が困難な人でも、遠くにいる人とコミュニケーションができるようになりました。また、携帯電話は、車いすを使う人だけでなく、すべての人にとって便利なメディアです。さらに携帯電話のメール機能やインターネットは、聴覚に障害のある人同士や、手話を理解できない人とのコミュニケーションも可能にしてくました。ピザなどの宅配サービスの利用や、緊急時の110番通報も利用できます。

聴覚に障害のある人に対して、骨に直接振動を伝える装置を利用する音楽イベントも開催されるなど、新しく開発された技術が社会の中で標準かされることによって、障害の有り無しを超えたコミュニケーションの可能性が広がっています。また、文字を音声や点字に変換したり、音声を文字に変換したりすることが可能な時代となりつつあります。かつて、メソポタミア文明でクサビ文字を彫った粘土は、視覚に障害がある人でも触って読むことができるメディアでした。障害がある五感を他の五感が補完するようなメディアを開発するマルチメディアの研究にも期待したいと思います。

ノーマライゼーションの思想を伝える建築メディア

 フランスのパリにあるガラスのピラミッドで有名なグラン・ルーブルでは、入口を入ると螺旋階段で地下のエントランスホールへ降りることができます。螺旋階段の中央に円筒形の柱がありますが、実はその柱がエレベーターになっているのです。高齢者がそのエレベーターで降りてくるシーンはなかなかかっこよく、高齢者や障害のある人を大切にする文化が感じられます。

ノーマライゼーションの思想を、シンボル的な建築によって、視覚に訴えるメッセージとして伝えることが大切であると思います。地下に降りた時点でも、自分が居る位置が明快に分る吹き抜け空間にあるオープンまたはシースルーエレベーターは、効率を別にすれば素晴らしいデザインだと思います。移動に障害がある人にとって、街に出た時、上下の移動が困難な場所がたくさんあります。公共施設であれば、たとえ障害があっても、みんなと一緒に普通に利用できるための配慮が必要です。

 

  

  螺旋階段の中心がエレベーターに

日本では、建物の正面入口に階段があり、その脇に取ってつけたようなスロープがある建築物を多く見かけます。「みんなが使う公共の建物の正面くらいは、車椅子の人も皆と一緒に正面から入れる」と言うような設計の根底となる思想がノーマライゼーションの考え方です。

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