映画ツーリズム − ストーリー性が付加されるロケ地

『サウンド・オブ・ミュージック』(オーストリア・ザルツブルク)

映画のロケ地となる町には、さまざまな魅力があります。単にロケ現場となった場所を見て回るだけでなく、自分なりの新しい発見があることが、その町を訪れる魅力です。ザルツブルクは、「塩の城」という名の通り、岩塩の取引で古くから栄えた町です。また、モーツァルトを生んだ音楽の都としても、世界中に知られていますが、映画『サウンド・オブ・ミュージック』もザルツブルクを有名にしました。修道院からやってきた家庭教師のマリアと7人の子供たち、そして、父親のトラップ大佐が織り成す心暖まる愛の物語は、「エーデルワイス」や「ドレミの歌」と共に、私たちの記憶に残っています。

ザルツブルクの東側には、ザルツカンマグートと呼ばれ、いくつもの湖と2,000メートル級の山々が織り成す美しい自然が広がっています。この地方も『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台になりました。主人公のマリアとトラップ大佐の結婚式シーンに出てくるのが、モント湖に面したモントゼーにある教区教会で、2本のクリーム色の塔が印象的なゴシック様式の教会です。教会の中は、外見と打って変わって、きらびやかに飾られていました。「サウンド・オブ・ミュージック・ツアー」も必ず立ち寄るそうで、町の中心にあるマルクト広場には鮮やかな色彩の建物が立ち並び、カフェやレストランになっていました。新婚旅行にはおすすめの町です。

 モントゼーのマルクト広場 

『ローマの休日』(イタリア・ローマ)

イタリアのローマスペイン階段は、スペイン広場と丘の上にあるトリニダ・デイ・モンティ広場をつないでいます。かつてスペイン大使館があったことから、この名前が定着したそうです。誰もが『ローマの休日』でオードリー・ヘップバーンが、ジェラードを食べるシーンを思い浮かべることでしょう。スペイン広場から西に伸びるコンドッティ通りは、高級ショッピング街で、プラダ、フェラガモ、グッチなど、イタリアを代表するブランドショップが軒を連ねています。スペイン階段では、観光やショッピングを楽しんだ多くの旅人が疲れを癒すために座っています。ゆったりとしたデザインと広場を見下ろせるロケーションによって、時間が経つのを忘れてしまいます。カップルには、西の空に沈む夕日が似合います。

大林作品(広島県尾道市)

尾道は、映画監督の出身地として有名です。2000年4月22日に「おのみち映画資料館」も開館しました。「尾道三部作」の『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』につづき、「新・尾道三部作」として『ふたり』『あした』『あの、夏の日−とんでろじいちゃん』のロケが行われました。尾道側だけでなく、尾道渡船に乗って向島に渡ると、映画『あした』の撮影に使用されたオープンロケセットがあり、呼子丸や市営バス乗り場が保存されていました。

尾道市の市制100周年を期に駅前が整備され、昔の面影が無くなって来ています。『あした』にでてくる戦後の闇市にルーツを発する建物も、とうとう取り壊しとなりました。尾道の懐かしい雰囲気が少しずつ失われていますが、尾道の小路(しょうじ)には、まだまだたくさんの魅力が残されています。尾道市でつくられた観光マップの一つに『おのみちロケ地案内図』があり、その中で、大林監督は、「この地図と共に、あなたは尾道の中で迷子となり、そしてそこから、あなた自身の好奇心の趣くままに、あなた自身の道を見つけて欲しい」と述べています。

 雁木にたつ建物

1998年に、市制100周年を迎えた尾道市は、記念事業の一つとして、残されている8ミリフィリムを集め、保存・活用するプロジェクトを始めました。戦後の祭りや結婚式、美しい芸者さんが宴会にビールを持ち込むシーンなど、貴重な映像が残されていて、今後の活用が期待されます。しまなみ海道周辺の市町村が連携して運営している、しまなみ大学芸術学部の授業の一環として「8_フィルム映画講座」を開いたり、8_フィルムやビデオで尾道を撮影した作品のコンテストを開催したりするなど、映画のまちをPRしています。

『男はつらいよ』(東京都葛飾区)

映画『男はつらいよ』の舞台だった東京都葛飾区の柴又で、商店主たちが「寅さんが心に生き続ける街」を合言葉に、まちづくりを進めています。1969年に映画が始まると、それまで静かだった街が一変し、週末には参道が歩けないほど観光客で混雑し、外国人の姿も増えたそうです。帝釈天の参道入口付近にある高木屋が寅さんの実家「くるまや」のモデルになった店で、店内には、映画の撮影時に撮った写真が飾られていました。メニューには、茶飯やおでん、草だんご、ところてん、くずもちなど、下町らしい食べ物がたくさんあります。

1999年には「寅さん記念館」がオープンしました。大船撮影所で実際の撮影に使用された映画のセットが展示されています。名場面や歴代のマドンナを楽しむことができる検索装置もあります。全48作のポスターも見ごたえがあります。ミュージアムショップでは、寅さんグッズがいろいろ販売されています。また、近くには伊藤左千夫の名作『野菊の墓』の舞台や、細川たかしが歌った「矢切の渡し」があります。

  柴又駅前の寅さんの像

なお、寅さんが『男はつらいよ』で旅をした全国90ヶ所を訪ねてみたり、それらのまちを連携させたツーリズムの企画を考えたりすることも面白いでしょう。

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