ものづくりツーリズム − 日本の高度成長を支えた技術

工場を生活者に公開するオープンファクトリー

1999年に広島県で開催された国民文化祭では、インダストリアルデザイナーの榮久庵憲司の出身地でもあることから、その事業の一つとして産業デザインフェスティバルが広島市と府中市で開催されました。生活文化と産業デザインとの関係を見直し、新しいまちづくりを考える機会としました。府中市が会場では、家具のデザインコンテストを中心に、体験講座やシンポジウムを開催し、市内の伝統家具の工場でオープンファクトリーを実施しました。普段見ることができない家具の製造工程も、体験・交流型のツーリズムの資源として活用することができます。

広島市会場では、産業デザインの歴史展示やシンポジウム、自動車メーカーのマツダのデザイナーによるモデリング教室などの体験講座を開催しました。協賛会場の「マツダ・ミュージアム」では、マツダの歴史やデザインのプロセス、安全設計などと共に、実際の工場を見学することができます。一つの生産ラインで複数の自動車が作られているので、ロードスターやデミオ、ファミリアなどが回転寿司のように流れて来て、楽しく見学することができます。

福島県小野町にある「リカちゃんキャッスル」では、リカちゃんの、彩色、植毛、組立の作業を見ることができます。また、おもちゃメーカーのタカラが製造販売したダッコちゃんなどの人形の変遷が紹介されています。神戸市にある「グリコピア神戸」でも、人気商品のポッキーとプリッツの工場見学では、100メートルにも及ぶ原料の混合・成形から、仕上げ・包装までの生産ラインを見ることができます。また、お菓子づくりの歴史が紹介され、グリコのおまけなども展示されています。

大きな工場だけでなく、中小企業の工場が集積する東京や大阪の下町にある機械部品工場やガラス器具の工場、印刷工場などを見学できるようにすると面白いと思います。金属加工の職人さんが作った銀細工の花や折り鶴、ガラスの職人さんが作ったガラスのオーケストラ人形など、ショーウインドウに飾り、まちづくりに生かすような工夫も大切です。

産業遺産を活かしたまちづくり

観光資源と言うと文化や自然が一般的ですが、日本の高度成長を担ってきたモノづくりを観光資源として見直す動きが出ています。特に東京や京都などに比べて歴史的な文化財が少ない愛知県では、県や名古屋商工会議所などが、国内はもとより、アジアからも観光客の誘致を図り、2005年に開催される愛知万博を契機に、産業ツーリズムを広く海外へもPRしようとしています。名古屋には、食品や陶磁器、繊維、自動車、航空などの産業が集積しています。

1904年、日本陶器合名会社が名古屋市に建設した赤レンガづくりの工場でディナー皿を始めました。「近代陶業の発祥の地」と呼ばれていますが、この地で育まれたノリタケの技術、伝統、芸術を、生活者に楽しんでもらうために、「ノリタケの森」がつくられました。この中にあるクラフトセンターでは、熟練の技を誇るクラフトマンによる陶磁器の生地の製造から画付けまでの工程を実際に見ることができます。

トヨタグループによって「ものづくり」と「創造と研究の精神」を基本テーマとしてつくられた産業技術記念館もあります。ここでは、実際に動く紡織機械を見学したり、実物の機械操作を体験したりすることができます。また、ナゴヤシティ・ものづくりウォークなどのイベントも名古屋市内で開催されています。産業ツーリズムでは、現在稼動している工場はもちろん、工場跡地でも、その遺構を観光に生かすことが大切です。

これまで産業ツーリズムに力を入れてきた自治体の一つが北九州市です。スペースワールドの見学とセットで旧官営八幡製鉄所をはじめとする工場群の見学を、全国の学校にPRしてきました。2003年には、日本の近代化を支えてきた技術や遺構・遺物を地域振興に生かすことを考える財団「近代化産業遺産(テクノヘリテージ)活用研究会」が発足しています。今後、産業ツーリズムによるまちづくりへの期待が高まることでしょう。

石産業のイメージアップ

岐阜県恵那郡蛭川村に「石の博物館 博石館」があります。墓石や灯篭だけでなく、新しい石の文化を発信しようと、株式会社岩本取締役社長の岩本哲臣さんが、社員の協力でつくりました。岩本さんの父親の出身地である広島の被爆石や、エジプトからピラミッドの石も提供されています。蛭川村は、蛭川みかげ石の他、煙水晶、トパーズ、サファイア、緑柱石など、80種類以上の鉱物が産出されます。また、鉱石の中からぺグマタイトと呼ばれる結晶のトンネルも時々発見されるそうです。博物館には、石を切り出す仕事で見つかった宝石を展示するため、石を使って展示室をつくり上げました。

さらに、ピラミッドや石の風呂、トイレ、ポストなどの施設がつくり、徹底して素材の石にこだわりました。毎年多くの観光客が訪れ、石に対するイメージを一新して帰ります。水が流れる溝の砂の中から、小さな宝石を見つけようと、高齢者が目を輝かせていたのがとても印象的でした。

  石の博物館 博石館

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