マンガ&アニメ・ツーリズム − 世界に認められた日本の文化

教育的な目的に利用できる無限の可能性

かつては、伝統的な学問や美術、文学などに対して、サブカルチャーと言われていたマンガの評価が高まり、マンガやアニメでまちづくりをする市町村が全国にたくさんあります。また、1999年5月に無料でマンガの館外貸出しをする専門図書館「市立まんが図書館」が全国で始めて広島市にオープンしました。さらに、2000年に日本で初めて京都精華大が「マンガ学科」を設けるなど、新しい動きも出ています。

 広島市まんが図書館 正面入口

最近、アジアだけでなく欧米社会でも日本のマンガやアニメが人気を呼んでいます。アメリカでは、日本文化のかっこよさを表現した「ジャパニーズ・クール」という言葉も生れています。また、フランスでは1997年、フランス最大のマンガ祭り「BDエキスポ」で、日本マンガをテーマにしたコスプレ・コンテストが開催されました。mangaがフランス語として認められ、熱狂的なアニメファンの多くが日本語を学んでいるそうです。また、アニメのビデオは中近東向けも含め外国版が日本から輸出されています。

東京の三鷹市にある「三鷹の森ジブリ美術館」は、親子連れや若いカップルでにぎわっています。迷路のような不思議な建物の屋上庭園には「天空の城ラピュタ」に登場した守り神のロボットがありました。実際のアニメ製作に使用されたスクラップブックや絵コンテなどを手に取って見ることができ、海外からの旅行者にも人気のスポットになりつつあるようです。

2003年、アカデミー賞の最優秀長編アニメ部門で宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が受賞して日本のアニメが高く評価されました。アニメの技術だけでなく、奥深い心の世界をリアルに表現されている点が評価されたのだと思います。人間の内面に同居する善と悪、光と影が描かれています。「後で払えばいい」と食事を始めてしまう千尋の両親をはじめとする登場人物によって、「お金ですべてが解決できる」と考える現代人に対する痛烈な批判も描かれていました。

遅咲きのマンガ家と評される「アンパンマン」の作者やなせたかしも、バイキンマンを決して憎めないキャラクターとして描き、光と影、キレイとキタナイと共に、アンパンマンの正義と自己犠牲を子供たちに伝えようとしています。マンガやアニメには、教育的な目的のために利用されるエデュテイメントの手法としての無限の可能性があります。

まちづくりのシンボルとしてツーリズムを活性化

日本各地の伝統的な文化や自然について、マンガやアニメにしてインターネットを使って世界各国の人々へ紹介し、国際的な認知度を高めれば、海外からの観光客を誘致することもできます。境港市は水木しげるの漫画に描かれた妖怪の彫刻を点在させて道を整備し、「水木しげるロード」と命名することによって、多くの観光客を集めることに成功しました。「水木しげるロード」沿いでは、空き店舗が減少し、「砂かけばばあ」をもじった「ふりかけばばあ」など「ゲゲゲの鬼太郎」関連商品が人気を集めています。

「ゲゲゲの鬼太郎」が海外でも有名になれば、きっと多くの外国人が島根県の境港市を訪れるようになるでしょう。彫刻になった喜太郎や砂かけばばあたち妖怪にまつわる物語を思い浮かべながら町を歩き、海外からの旅行者と交流することができれば、旅がもっと楽しくなります。海外の人々が日本の生活文化をマンガやアニメによって、楽しみながら学び、多くの日本ファンをつくるガイドブックをつくれば、日本の国際的なツーリズムの発展につながります。

マンガづくりで地域の魅力を再確認

2002年に市制100周年を迎えた呉市に対して、「国際貢献船ヤマト」と題したマンガをつくることを提案しました。これまで日本各地の市制100周年記念事業では、施設づくりや、博覧会などの大型イベントの開催が主流でしたが、文化として継承されるソフト指向のプロジェクトが必要であると考えました。

「国際貢献船ヤマト」ストーリーは、国内外からさまざまな分野の専門家やボランティアが集まり、「大和」を生んだ造船技術や、最新鋭の防災・災害救助技術を生かして、大型の船を建造するというものです。完成した「国際貢献船ヤマト」は、災害時に国内やアジアを中心とする近隣諸国の被災地へいち早く駆けつけ、ヘリコプターを使って救助活動を展開します。その後、移動型メガフロート船団が派遣され、ボランティアが医療・救護や環境保護活動を展開します。また、平常時は、国内各地を回って、参加・体験型の防災教育施設(フローティング・ミュージアム)として活躍します。

プロジェクトの推進方法としては、まず、の作家として「宇宙船艦ヤマト」で有名な松本零士さんや、尾道市出身で「沈黙の艦隊」の作家として有名な、かわぐち・かいじさんに協力を要請します。そして、市民中心に行政や呉市に関わる企業も参加する実行委員会でいろいろなアイデアや、呉市の歴史や造船技術、災害救助活動等、マンガを書く上で裏付けとなる資料を作家に提供します。艦長が呉を発祥とする「セーラー万年筆」で航海日誌をつけたり、イギリス海軍直伝で舞鶴市との間で日本発祥の地論争がある「肉じゃが」で難民救済をしたり、呉のビールである「クレール」で成功を祝ったりするなどのストーリーを盛り込み、呉市を効果的にアピールするさまざまな展開を考えました。

残念ながら不採用となりましたが、市民が中心となってマンガやアニメを作りながら地域のアイデンティティを再認識することは、まちづくりの手法として利用できると思います。

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