花ツーリズム − 地域らしさが求められる花のまちづくり

海外への花ツーリズム

1990年以降、オープンガーデンで有名なニュージーランドのクライストチャーチや、南フランスのプロバンス地方、南アフリカのジャカランダ、毎日花市がたつベルギーの首都ブリュッセルなど、花を見に行く旅が盛況になりました。フランスのパリにあるオランジュリー美術館でモネの『睡蓮』を観賞して、ジュベルニーの庭園を見学する旅も人気です。旅先で普段見なれない花を見つけたり、きれいな花の飾り方を見て参考にしたりするのは楽しいものです。また、雑誌やテレビなどで人気のフラワーデザイナーと一緒に、有名な庭園や花のまちづくりをしている町を訪ねる旅や、ドイツで本場のリースや窓飾りの作り方を学ぶ旅、欧米の著名なフラワースクールでレッスンを受ける旅など、参加・体験型のツアーが人気を呼んでいます。

 ひまわりを使った装飾(イタリア)

英国政府観光庁は、各地の庭園めぐりへの観光誘致に力を入れています。広大な領地を所有してきた貴族たちが何世紀もの歳月をかけて多種多様な庭園をつくりあげてきました。これらの庭園は文化遺産として、ナショナル・トラスト(イングランド/ウェールズ/北アイルランド)およびスコットランド・トラストが保存管理しています。日本でも日本庭園などの文化遺産を保存しながら、ツーリズムの資源として管理する発想が大切です。

海外からの観光客をもてなす日本の花文化

日本人は、四季折々変化する自然のなかで、花だけだけでなく、果実や葉も含めて自然に対する豊かな感性を育ててきました。また、自然の素材を使った草木染めによる独特の色彩文化があります。海外からの旅行者に、春のサクラや秋の紅葉を楽しんでいただくだけでなく、まちの中で、日本人の生活文化である生花や盆栽、アサガオやホオズキなどの市、菊祭りなどに接したりしていただくことが大事です。

日本のまちを散歩する海外からの旅行者が、盆栽や庭木、寄せ植えなど植物の手入れをしている人とコミュニケーションができる雰囲気づくりも大切です。また、日本を代表する文化の一つである生花や、草木染め、押し花、絵手紙、さらに、俳句などを体験していただき、日本人の植物に対する感性を伝えたいものです。日本独特の生花を体験し、花をテーマに交流できる場所や機会が増えれば、比較的安全な国である日本は、国際的なツーリズムの目的地として人気が高まると思われます。

また、イギリスのシェークスピア・ガーデンに、シェークスピアの作品に登場する植物が集められているように、万葉集や源氏物語に登場する花や、海外で有名な作家にゆかりの花をテーマにした庭も人気になるでしょう。感性による満足と、知性による満足との相乗効果によって、旅の感動が生まれます。

国内の花ツーリズム(花へんろや花街道)

花をテーマにしたまちや施設、イベントなどを見学するだけでなく、いろいろな形で花に係わり交流する花ツーリズムが益々盛んになることでしょう。東京都台東区の谷中に「花へんろ」という茶房があります。寺の町にふさわしい休憩所となっていて、海外からの旅行者も訪れています。徳島県出身で早坂暁さんの『花へんろ』が好きなママが命名しました。当の早坂暁さんも偶然立寄られ、「花へんろ」の名称を使うことの事後承諾が得られたとのことです。この茶房では、上野公園を中心とした上野、根岸、谷中のエリアの花暦、歳時記、文化施設やおすすめのお店などを紹介する「花へんろマップ」を50円で販売しています。四季折々に自分でルートを決めて散策する楽しみが生まれ、観光スポットだけでなく、地域全体に愛着が生まれます。町歩きの作法と、寺院入山の心得も書かれていますので、ぜひ、参考に散策を楽しんでください。

花や緑をテーマにしたイベントも全国各地で数多く開催され、愛知県安城市の「安城産業文化公園デンパーク」や千葉市の「花の美術館」など、生活の中における花や緑の活かし方を提案する施設も全国的に増えました。宝塚市で開催されるオープンガーデンフェスタでは、オープンガーデンのオーナーが訪問客と花の手入れなどの話をすることが楽しまれています。花のきれいなガーデン・サロンでコミュニケーションができるようなまちづくりも広がっています。

 千葉市「花の美術館」バラをテーマにした展示

ガーデンニングを楽しむ人のために設計された住宅地や共同住宅も人気です。また、沿道の植栽を地元の住民が管理したり、企業がオーナーになったりする地域も増えています。また、「環境」をテーマに活動する団体が、公共の花壇を借りてケナフを育てて紹介するなどの例もあります。

ただ、日本中どこへ行っても同じような公園や施設、住宅の花飾りが多く、地域の個性を生かしたガーデニングを期待したいものです。その地域の特色をあらわす、花をポイントに使い、地域の歴史や文化、産業などと関連する小道具、例えば水車や魚を捕る網、流木や石などと、花を組み合わせてアレンジすることも大切です。また、これまで花の名所として、サクラ祭やツツジ祭、バラ祭などで有名な地域も、そこでしか手に入らないおみやげ品や、そこでしか食べることが出来ない料理など、年間を通して旅行者を呼べる魅力づくりが望まれます。

生活者が主役になる花のイベント

今日、フラワーアレンジメントから、ドライフラワー、ガーデニングまで海外の花の文化が爆発的な人気を集め、さまざまなイベントが開催されています。最も人気のあるイベントの一つが東京ドームで毎年2月に開催される世界らん展日本大賞です。会期が冬であるにも関わらず10日間で40万人以上の人が集います。ランは、花の美しさだけでなく、香りもすばらしく、香りのコンクールも実施されています。またランは、デンドロビュームやカトレヤなど、個人でも比較的栽培しやすいことが、ブームの原因にもなっていると思います。自分が丹精込めて育てたランを出品することによって、自己実現となり、また、同じランを趣味とする人々との交流を通して、楽しい時間を過ごすことができます。

5月には西武ドームで国際バラとガーデニングショーが開催されています。イングリッシュガーデンの紹介や、盆栽仕立てのバラ、著名ガーデンデザイナーによる競演、バラの鉢植えやハンギングバスケットのコンテストなど、見所がいっぱいで、会場内は身動きができないほどの混雑です。

 国際バラとガーデニングショー

岐阜県では「花の都ぎふ」運動で県民協働による花のまちづくりが展開され、インターネットで県内各地の花の開花情報を伝えています。2003年と2004年の春と秋に、飛騨・美濃地方の花の名所、祭りなど、自然や歴史、文化に触れながらウォーキングができるコースを紹介する「花街道ウォーキング」を鉄道各社と地域が連携して開催しています。花の景観を点から線、そして面へと広げていくことによって、花ツーリズムの受け皿づくりを進め、2005年には、愛知県で開催される万国博覧会と連携して、県民協働による「花フェスタ2005」が可児市になる花フェスタ記念公園で開催される予定です。

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