あとがき

新しいコミュニティ社会のための航海マップ

地域の未来を担う若い世代が都市で職を求める時代になり、地域の少子高齢化に拍車がかかっています。私たち一人ひとりと地域とを結ぶ絆が弱くなり、地域は進むべき将来の方向を見失ってしまいました。20世紀の後半、東京のように便利な大型の都市像を、地域が目指すべき理想の姿としたために、ミニ東京化した地方都市がいくつも生まれました。その結果、街の中心部に住む人が減り、地域に愛着を持たない人々が集まるなど、負の資産を背負い込んだ都市も見うけられます。ミニ東京は比較的簡単に手に入れることのできる現実で、けっして「理想の都市像」や「未来の都市像」と言えるほど崇高なものではありません。

今日、日本人の原風景である美しい自然を保存・活用し、その自然と共生する生活の知恵を継承しようとする活動が評価されるようになりました。地域に求められていることは、まず、自然を大切にして、世の中の変化を捉えながら、地域の歴史や文化など、それぞれの地域の由来をしっかりと把握し、その上で理想の姿をしっかりとイメージすることです。私たちは「近代化」というまなざしによって描いた輝かしい未来の地図が、大きく間違っていたことに気づきました。日本が、国内において循環と再生を成立させていた「前近代」の社会を参考に、私たちの「由来」と「将来」の両方がつながって見られる地図を描く必要があります。

これからの社会は、地域や血縁から離れ、趣味や人生のテーマ、ボランティア精神、志などの新しい絆によって結びついた新しいコミュニティが担っていくと思われます。新しいコミュニティ社会にあった地図が無ければ、明日へ向かって行動を起こす勇気も湧いてきません。目を閉じたまま無闇に走り続けたり、流されたりすることは許されません。常にいろいろな生活者のニーズを把握し、そこに暮す人も、ファンも、ふるさとを離れた人も一緒になって、あまり悲観的にならずポジティブに行動する姿勢が大切です。関係者と話し合いをしながら行動したうえで、もし、その行動した結果が間違っていれば、仮説や地図を修正すれば良いのです。はじめから完全な地図などありえません。

この本の執筆にあたり、ツーリズム研究会のメンバーをはじめ、ヒアリングをさせていただいた多くの方がたに感謝いたします。また、編集を担当していただいた、中川冬子さんと砂川洋子さんに心からお礼申し上げます。

2003年9月18日 宮地 克昌

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