もっと… (2) | |
「…もう、クラヴィス様って強引なんだから。守護聖に有休なんてあるわけないじゃないですか。陛下のご許可 が出たら、何日でも休めるかもしれないけど」 「休み返上になることはあっても、代休、有休は無いのか?待遇の悪い仕事だな」 「どこで知ったんですか。そんなシステム」 「まぁいい。今日は私の誕生日だ。陛下も大目に見て下さるだろう」 「私を誘拐してどうするつもりなんですか?」 「…そうだな。トワレの持続時間は4時間が限度。最低4時間は私の寝室だろうな」 「…ソレって、やっぱり…」 「嫌なら別に構わぬが…」 「イヤ…じゃないです…けど」 断れないのを分かってて言わせるのはかなり意地悪だ。 「では、誘拐罪には問われぬな。本人同意の上だ」 クラヴィスが意地悪な笑いを見せる。いつもそうやって言いくるめられるのだ。 「…お誕生日だから、今日はもういいです。ト・ク・ベ・ツですよ」 「では、素敵な一夜を貰うとしよう」 そう言って、アンジェリークの頬にキスをした。 二人は昼過ぎに私邸に着いた。馬車までは両手で抱き上げられて運ばれたが、もともと体調が悪いわけで はない。アンジェリークは、先に下りて手を差し出すクラヴィスに手を預けた。 「…有難うございます」 目が合った途端、クラヴィスはフッと笑った。 「?」 その笑みの意味が分からなくて、きょとんとクラヴィスの顔を見つめる。 「え?キャッ!」 預けた手は、そのまま掴まれて引っ張られ、クラヴィスの方に倒れこんだ。 「…具合が悪いことになっているからな」 アンジェリークの耳元で笑いながら言う。 「それはクラヴィス様が勝手に決めたんじゃないですか!」 一応小声で反論する。 「どのみち、しばらくベッドから出られぬのだから変わらぬ」 そう言って意地悪な笑いを見せる。 「……もうっ」 真っ赤になりながら、クラヴィスの首に両手を回した。 「続きは寝室で聞こう」 耳たぶにキスをして、アンジェリークを抱き上げた。 邸の前に着くと、使用人たちが扉を開けて待っていた。クラヴィスの補佐官から連絡があったのだろう。 アンジェリークは眼を閉じたまま使用人たちの視線をやり過ごす。 「…着いたぞ」 落ち着いたダークカラーが基調の私室。以前は黒がメインだったのだが、最近は少し明るい色が増えたよう だ。 私室に入って、そのまま寝室へのドアをくぐる。 ギシリとスプリングがきしむ音とともに、ゆっくりとベッドに下ろされた。 「重かったでしょ?」 アンジェリークはベッドに座ってクラヴィスを見上げた。 クラヴィスは少女らしい可愛い問いに、フッと微笑んだ。 「お前を重いと感じるのなら、私にお前を抱く資格は無いな…」 「だっ…」 一気に顔が熱くなり、反論する言葉を見つけられない。 頬に伸ばされた指先がそっと触れただけで、思わず眼を閉じる。 優しく触れた唇はすぐに離れ、アンジェリークはゆっくり眼を開けた。 「…そろそろ香りが…トップからミドルに変わる」 艶のある穏やかなクラヴィスの声が、心地良く響く。ラベンダーの爽やかな香りが薄れ、白檀の神秘的な香 りを身に纏う。 「…良い香り…」 アンジェリークはクラヴィスに両手を伸ばして抱きついた。 クラヴィスの部屋で焚くお香のような香りと彼自身の香りとが融合して、甘く誘う。 「ドレスがシワになるのではないか?」 アンジェリークに応えるように抱き締めて、そう囁く。 「…じゃあ脱がせて」 どうやらアンジェリークはクラヴィスから離れたくないようだ。 「…分かった」 一瞬驚いたクラヴィスは、そっと額にキスをした。 背中に回した手で、ファスナーを下ろす。正面から抱き締めたままのため、自分の肩口に彼女の吐息がかか る。 「やだ、くすぐったい…」 愛らしく訴える彼女の声が、クラヴィスの欲情に火を付けた。 「アンジェリーク…」 愛しい名を呼んで、口付ける。彼女から貰った香水の香りと彼女自身の優しい香りが鼻孔をくすぐる。 もっと彼女を感じたくて、深く口付け、柔らかい舌を探す。 「……っん」 突然キスされて驚きながらも、アンジェリークは彼の舌を受け入れた。 彼から与えられる刺激は優しくて、甘くて、切なくて。 唇が離れた後も上気した頬でクラヴィスを見つめる。 「どうした?」 優しい声で呼びかけるクラヴィスに、アンジェリークは掠れたような声で言った。 「…もっと…」 濡れた唇がクラヴィスを誘う。 クラヴィスの言葉に促されて出た言葉は無意識のようだ。 もっと触れたくて、感じていたいという本能から出た言葉…。 抱き締めていた腕から解放すると、ドレスの襟元が大きく開き、白い首筋から胸元までが露わになった。 「…ああ」 再び唇を重ねながらアンジェリークのドレスを肩からずらす。 ドレスの下から白いビスチェが現れた。総レース仕様でフロントホックのようだ。 クラヴィスはアンジェリークからゆっくり離れた。 「…どうやって外すのだ?」 アンジェリークの胸の谷間にそっと触れて微笑する。 「…ゃんっ」 熱くなっている肌は、少し触れただけでも感じる。 「…どう…やって…って…」 アンジェリークが戸惑っていると、クラヴィスは首筋にキスをしながら左手でビスチェの上から胸を包んだ。 「触れて欲しいのだろう?」 艶を帯びた低い声が聴覚を刺激し、吐息が肌をくすぐる。 「…上に…あげて…」 クラヴィスは長い指先を胸の谷間に差し入れた。 「…あ」 普段余り人に触れられることの無いところを触わられて身じろぎをする。 「それから?」 わざと鎖骨の辺りで囁く。 「…両手で…外側に折り曲げて…」 もう片方の指先を差し入れると、アンジェリークが吐息を零した。 「こう…か?」 「…は…い。それを持って、上下に…引っ張って…」 プツンとホックが外れて、柔らかな白い膨らみが二房現れた。 「…よく出来た…」 クラヴィスはそう言って、何の前触れも無く先端を口に含んだ。 「きゃっ…んっ…」 濡れた音と、舌と唇による刺激で、肌が熱くなる。 クラヴィスは左手をアンジェリークの背中に回して、静かにベッドに横たえた。 背中に回した手で腰を支え、右手でドレスを腰から引き抜く。 そのまま指先をアンジェリークの内腿に滑らせた。 「や…だ…」 アンジェリークは反射的に脚を閉じる。触れられなくても、自分が濡れていることが分かっていたのだ。まだ 胸にも触れられてなかったのに身体は反応して、受け入れる準備をしている。それを知られるのが恥ずかしく て力を入れてしまう。 「アンジェリーク…」 優しく呼んで、左胸をチロッと舐める。 「ゃん…」 アンジェリークの意識がそこに集中している隙に、右手を下腹部から下へと伸ばした。下着の隙間から指を 差し入れて、敏感な部分を探す。 「…や…ぁ…んっ…」 熱い吐息を零し、恥ずかしそうに身を捩る。クラヴィスの長い指先は、中に入る前にたっぷりと濡れていた。 「…待ちきれないのか?」 意地悪な質問に、首を横に振る。 「…そうか…」 クラヴィスはアンジェリークの下着に手をかけて、ゆっくり足首まで下ろした。固く閉じようとする内腿にキスを して、徐々に奥へと唇を移動させる。唇が奥へ移動する度に少しずつ力が抜けてきているようだ。 「…あ…んっ」 腿の付け根まで移動した唇は、すでに濡れていた肌を清めるように新たな粘液で包んでいく。 「!」 一番敏感な部分に舌が触れた瞬間、アンジェリークは声を無くして身体を仰け反らせた。 クラヴィスの舌がゆっくり上下する度に、体内から熱いものが溢れ出るのが分かる。彼の美しい瞳に、その 光景が映っているのだと思うと、恥ずかしさで息が出来なくなりそうだ。 「…お願い…早く…来て…」 アンジェリークは泣きそうな声で哀願する。 フッとクラヴィスは嬉しそうに微笑んだ。 「…最初から、素直にそう言えば良いものを…」 そう言って、着衣を脱ぎ去った…。 白檀の香りに包まれて、一時間半。 アンジェリークは、クラヴィスの腕の中で眼を開けた。どうやら数分眠っていたらしい。 「クラヴィス様?」 「どうした?」 見上げると穏やかな優しい笑顔。アンジェリークは、自分の乱れた姿を思い出して思わず俯く。 「な、何でもないです…」 今、何を言っても墓穴を掘りそうだ。 「…そういえばそろそろラストの香りだ」 「え?」 アンジェリークが言うのと、クラヴィスがアンジェリークを両腕で抱き締めるのとはほぼ同時だった。 「…ほんとだ。甘い花の香りみたい。優しくて豊潤で、ずっと側に居たくなる…」 クラヴィスは、アンジェリークの唇にサッと短いキスをした。 「居れば良い。今日から休日だ。日の曜日の夜まで帰さぬ」 「…それはいいですけど、その…差し上げた香水は、毎日付けないで下さい」 「何故だ?」 「だって…なんか…エッチな気分になっちゃうみたいで…恥ずかしいです…」 アンジェリークの答えが可愛くて、クラヴィスは意地悪を言う。 「では、二人で寝室に入るときだけにしよう。ラストの香りが消えるまでだと概算で4時間。ゆっくりと私の香り を楽しめる」 「んもうっ、クラヴィス様のエッチ」 「…そういうところも好きなのであろう?」 「…バカ」 結局、日の曜日まで二日と半日。甘く充実した日を過ごしたのだった。 ― END ― |
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コメント 久しぶりのアダルト創作はいかがでしたか?なんかラブラブのクラリモを書くのも久しぶりで、加減が分かりま せんでした…(笑)いつものごとくハードじゃなくて、ドキドキ度は高めだと思うのですが、どうなんでしょうか? 書き始めたときは、こんなに長い予定ではなかったのでもう少し早く書きあがるはずだったんです。でも、い ざ書き始めるとなかなか終わらなくて。最近、書き始めて先が見えなくなることが増えてしまいました。サイト 上では、2ページにしましたが。いつものように本にするための原稿だと、1ページ上下段で9ページもあるん です。ビックリ。 香水、以前は苦手だったのですが。最近は、香りによっては好きなものもあることが分かり(←今更…って感 じですが…)、香水もいいかな〜と思って。 調べ始めると、結構大変で。香水の本は2冊購入する羽目に…。 クラヴィス様にプレゼントした”ウィスパー”は、架空のものです。香りは、本を見ながら色々考えた結果。結 構ハマッてるような気がして、自分ではお気に入りです。 白檀が、普通ならリラックス効果のある香りだと思うのですが。ある資料では、”エッチな気分にさせる効果 がある”とあって驚きました。そっか…。 時間がかかっただけ、皆さんに楽しんで頂けていたら嬉しいです。 最後に、お話の中に出てきた用語の解説を二つだけ。 |
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フゼア系 |
爽快でダイナミック、男性的な香り。ラベンダーの爽やかさ、オークモスなどをベースに、しだいにセクシーさを増していく。 |
オリエンタル系 |
エキゾチックでパワフルな香り。ムスクやアンバーを使った透明感がある香り。 |
参考文献:男の香水ナビ2005 <学研> |