サイキッカーの摘発捜査に常道というものは確立されていない。
唯一、明確な判断基準といえるのはPF(サイキック・フォース)波長の測定だが、それに反応が出てない以上、ブラド・キルステンを深追いするのは捜査を踏み外すことになるだけかも知れない。
ミューラーはブラドの住むアパートを見上げた。3階……めざす部屋の明かりは点いている。
これ以上はただの個人的好奇心に過ぎないのだろうか。
自分でもそう思わずにはいられない。が、どうせ常道はないのだと開き直っている部分もある。ただ。ブラドという青年が気になっている理由を「刑事の勘」という言葉で済ませることだけはしたくなかった。それが生み出すのは魔女狩りだ。
ならば、好奇心であっても、目的は彼の話の続きを確認するだけでもいい。
ゆっくり階段を上がりながら、そう己の心を納得させた。
インターホンに出たブラドに、任意協力で構わないので話を聞かせてもらいたいと告げたところ、あっさりと招き入れられたことにミューラーは拍子抜けした気分だった。
扉を開けたブラドは何故かシクラメンの鉢を抱えている。
「……お邪魔だったかな?」
「あ、これですか? いえ、あの、さっき帰ってきたところで鉢を入れていたもので…ええと、ちょっと掛けて待っていてもらえますか」
──それくらい置いてきてからでいいのになあ。
中に通されたミューラーが、部屋の中央に置かれたテーブルに着いて待つ横で、ブラドは慌ただしく植木を片付けるとコーヒーを淹れている。
そう広くない、いかにも安アパートといった部屋だが整然としている。そこかしこに観葉植物が目に付くが彼の趣味だろうか。
「一人暮らしですからね。気を紛らわせる相手が欲しいと思って…。植物もちゃんと育てると応えてくれるんですよ」
コーヒーを出してくれたブラドに何気なく尋ねると、彼はそう答えた。
「そう寂しいという訳でもないんですけど。──でも、こうして誰かと話が出来るのもなんとなくうれしいんです」
それが自宅まで訪ねてきた自分にあっさり応じた理由だろうか。
考えてみればこの部屋には客用の椅子はないようだ。テーブルに設えられた椅子はひとつきりで、ブラドは机用の事務椅子を出してきて掛けている。一人暮らしということで別段不思議にも思わなかったが。
「でも、捜査で根ほり葉ほり聞かれるなんていい気はしないだろう?」
「いえ、先日は突然で驚いただけですから。……それに、今まで僕に自分から接してきた人なんてほとんどいなかったから」
「!?」
ミューラーは思わずカップを口元に運ぶ手を止めた。
「こんな身体ですからね…。僕は親にさえ憎まれて育った」
突き放すような口調だった。
こんな身体? それは。
ミューラーは一旦躊躇した。言わずもがなのことなのだろう。だが、ブラドに先を続けさせるためにも喉につかえた言葉を解放した。
「──身体って、その…白子(アルビノ)ということで…?」
ブラドの口元に自嘲的な笑みが浮かぶ。その目は長く伸ばされた前髪によってわずかに顔を俯かせただけで覆い隠されているが、今どんな表情が浮かんでいるのだろうか。
「父なんて僕のことを…そう、『白い悪魔』なんて罵りましたよ」
|