DREAM WORLD
― イレーナの物語 ―


1
お父さんは情けない死に方をした、と母親はヘラルドによく言っていた。

軍人である父は戦場では死ななかった。
武装した農民による暴動のため鎮圧部隊を率いて行き、逆に殺されたのだ。
自分の部隊の兵士をほぼ壊滅させて。
ただの軍人であれば良かっただろうに、ヘラルドの父は誰もが知るあの英雄の子孫だった。
世間の評価は厳しい。
父は許されなかった。

「お父さんのようになっては駄目よ。」

母親のこの言葉を子供の頃から何度聞いただろう。

「わかりました、お母さん。」

その度にうんざりしつつも、ヘラルドはそう答えていた。
不名誉な死をした父のせいか生活は困窮していたし、気位の高い母は実家に頼ろうとはしなかった。
ヘラルドが成人すれば、たとえ不名誉な死を迎えた男の息子であっても
貴族の嫡男としてそれなりの地位が与えられる。
父親への恨み言はいつも、ヘラルドが二十歳で成人するまでの辛抱だという結論で終わった。

不名誉な死。

死に、名誉も不名誉もあるのだろうか?
ヘラルドは思う。
誰が評価を下そうと、死は死だ。
死んだらそれで終わり。
苦しみも悲しみも喜びも全てが終わる事、それが死では無いのか?

そんな訳でヘラルドは子供のうちから随分な皮肉屋だった。
英雄と同じ名前を持っているということが、その要因の一つであったことは間違いない。



叔母であるイレーナがヘラルドと暮らすことになったのは、ヘラルドが7歳の頃。
彼の祖父が亡くなった事がきっかけだった。

年若い叔母は、ヘラルドと12しか違わない。
あまり話をしたことは無かったが、美しい叔母と暮らせるのは正直嬉しかった。
だが、ヘラルドの母親は彼と意見が違った。

「どうしてイレーナと私たちが一緒に暮らさなくてはならないんですか!」

祖父の葬儀の傍ら、伯父と母が口論しているのをヘラルドは黙って見ていた。

「妻とイレーナの折り合いが悪いんだ。」

どうやら今まで祖父の面倒を見させていたイレーナの役目が終わったので、
伯父は厄介払いがしたいらしい。

「だからって、なぜ私の家で?うちは子供を一人育てるのだって手一杯なんですよ!」
「もちろんそれなりの援助はするぞ。」

母親は言葉に詰まった。

「ヘラルドだって、これから金がかかる年だろう?」

母親の実家は祖父の代で成り上がった商家で、伯父もそれなりの財産を持っていた。
王室にも顔が効くらしい。
世間に名の知れた格式のある家柄だが内情は貧しいヘラルドの家とは大違いだ。

結局伯父からの援助をイレーナのためにという名目で母は受けることにした。
そんなやりとりを知ってか知らずか。
毅然としていた態度で葬儀に参列しているイレーナは、他のどの女性よりも美しかった。

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