本書は、一九九六年に東京・品川で開催された「水俣・東京展」(主催・同展実行委
員会)での
水俣病患者による全講演を採録し、その後もお話をうかがって補足、構成し
たものである。
水俣病公式確認から四〇年目にあたるこの年は、水俣病事件史において
大きな節目の年だっ
た。政府解決案を受けて未認定患者団体とチッソとの間で和解協定
が結ばれ、関西を除く各地
の裁判所で国家賠償請求訴訟が取り下げられ、水俣病は解決
したという印象が強く伝えられた。
このような背景のもと、「近代とは何か。人間とは
何か。」をテーマに開催された水俣・東京展
は、一六日間の会期中、三万人が来場し、
「水俣」の経験を伝えていこうという全国的な動き
の始まりとなった。そこでの患者一
〇名の講演は、水俣病事件が和解などで解決するものでは
ないことを明らかにし、さら
に近代にひそむ根源的な問題を現代社会に鋭くつきつけるものだ
った。  (後略)