(前略) 前著の『水俣病』で私は「水俣病は終っていない」ことを強調した。そし
て、「水俣病とは環境汚染を通じて過去、現在、未来にわたってメチル水銀によっても
たらされる健康破壊のすべてである」と定義し、広汎な不知火海沿岸住民の健康調査を
含む汚染の影響の必要性と、国立の水俣病研究所の建設と治療研究の促進を訴えて稿を
終った。それから、十余年、悲しいことだが、私はこの本を再び「水俣病は終っていな
い」で終らなけれはならない。二〇万人ともいわれる汚染された住民が受けた影響(被
害)の全貌は未だに明らかでない。それを明らかにしていくシステムも保障されていな
い。
その結果として汚染民に対する救済は圧倒的に遅れている。
個々の医学的知見は圧倒的に増え、水俣病とその関連テーマの研究で数百人の医学博
士が生まれたにもかかわらず、患者の素朴な問いかけには答えきれていない。全身性の
影響や微量長期汚染の問題などがその一例である。このような未知な問題を口実に救済
を懈怠しているような構造が行政医学の現状である。 (後略)
《しばらく絶版でしたが、2000年2月にアンコール復刊されました。》