政府見解発表後、昭和四十三年十月から始まった数次の補償交渉は、水俣病患者互助
会側が提示した@死者千三百万円A患者年額六十万円に対し、チッソ側はゼロ回答をも
ってこれにうそぶいている。第三者機関あっせんに、ふたたび互助会が依頼した寺本熊
本県知事に、江頭社長は、「チッソとしては三十四年暮れの見舞金契約は有効。補償交
渉はチッソの好意でおこなわれており、補償金は見舞金の上積みを考えている」
と発言。さらに十二月十九日、厚生省への要望書の中で「追加補償問題」という言葉
を使い、従来の見舞金契約書を有効とする補償態度をさらに明確化、
「互助会の要求額が非常に高いので難航しているが、これは一企業一地域の問題ではな
く公正な基準を求める必要があると思う」(熊日)と居直るに至った。この言葉には、十
五年の歳月を経て政府見解が出された後も、一企業が、一地域に対しておこなった自ら
の極罪に対し、万全の償いをもって天下の前に服さねばならぬという態度は、ごうもみ
うけられない。
「――公正な審判に服する」というならとにかく、恐るべき厚顔無恥、わたくしたちに
この上まだ、〈ことば〉がありうるであろうか、とわたくしは思い沈む。
(後略)
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