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 海に入り、まず目に飛び込んできたのは極彩色に彩られた魚の群れだった。陸地ではありえない色とりどりの美しい魚群や珊瑚に囲まれ、ミナトは仕事でこの地を訪れた事を忘れた。
先行するヒキガネからのメール着信音で現実に引き戻される。

「沖合い70m、深度5mまで潜行。水中での動きにある程度慣れたら仕事を開始」

ヒキガネの後に続き潜行し、1.5mも潜ると水温が急激に下る。その温度差の層に、先ほどまではなかった不安を感じ、ミナトは考えを改めた。
(ここは美しいだけの場所ではないんだ…)

水中ゴーグル内に表示される深度が5mを表示したところで、用意してきた武器の確認をする。
セイバーを始めとした剣術が得意なミナトだったが、水中でも扱いやすいダガーと水中仕様のハンドガンを準備する。賢者も同様の装備だ。

水中での戦闘行動をサポートする“アクアバトル・ユニット”を起動し、剣を数回振る。
今まで感じられていた水の抵抗が不意に消え、無重力空間に近い感覚が全身を包む。
 生まれが宇宙空間であるだけにゼロG戦闘の経験は十分にあるミナトだったが、実際には水の抵抗がなくなる訳ではないため、剣を振ることによって崩れる身体のバランスを保つためにVRシステムによる水中戦闘訓練を30時間行ってきている。
とは言え、それはあくまで仮想現実の話だ。実際に潜ってみるとVRシステムでは再現しきれていない現実がいくつかある事にミナトは気が付いた。
先ほどの水温の層もそうだし、VRシステムより身体が水に浮くように感じる。おそらくは実際のラグオルの海水はVRシステムで設定されていた塩度より濃いためだろう。

VRシステムとの誤差をおおよそ掴んだミナトが周りを見ると他の3人もそれぞれ準備が整ったようだ。

「ミッション開始」のメールがヒキガネから届き、フォトン・キャプチャーを用意する。3m先を泳ぐ30cmほどの魚を目標にフォトン部分を打ち出すと、先端のフォトンが魚を捕らえる。機能的には水中銛のトリモチ版といったところだろうか。本来は子供のおもちゃ用に開発されたものだが、今回の調査・収集のため、わざわざラボが改良して作ったものだ。
収集したサンプルは専用の転送ボックスに回収すると自動的にラボへ送られる仕組みになっている。先ほど賢者がさげていた虫かごも同じ構造になっている。

ヒキガネは、さすが銃が本職だけあり、すでに数匹を捕らえたようだ。ミナトは動き回る標的はヒキガネに任せ、海底へと向かう。岩に張り付いた貝や、ユリのような形をした海草を収集して回る。
十数分が経ち再びヒキガネからメールが届く。

「沖合いに移動。そちらの方が大型の魚がいそうだ。そこで収集作業をする」

仲間たちとの距離は大体10m〜15m程度。その距離を保ったまま陸から離れていく。
海面に近いあたりでダックと賢者が見張りを続けている。既に深度は10mを越え、頭上で光る海面がやけに遠く感じる。

再びトリモチを使い始めたヒキガネを確認するとミナトは海底へと目を向ける。
先ほどより深くなった海底は日が届きにくいためか海草もまばらだ。
岩の合間にカニに良く似た甲殻類を見つけ、そちらにトリモチを向ける。

そのとき、カニの下に何かが光るものが落ちていることにミナトは気が付いた。
(貝かな…?)
そう思いながら近づくと、それは貝ではなく明らかに人工物と思える金属片だった。

(なんでこんなところに…?)

拾い上げると思いの他軽い素材で出来ており、色は鮮やかな水色をしている。
(みんなにメールで知らせたほうが良さそうね…)

そのとき、不意にその“唄声”は聞こえた。

海底葬送曲
〜1章〜