照りつける太陽の下、浜辺に一人のハニュエールが佇んでいた。彼女は初めてラグオルに降り立った1年前の感動を思い出していた。
1年前に初めて踏みしめたラグオルの大地は、生命力にあふれていた。むせ返るような濃い大気に含まれる土と緑の香り、闊歩する生物たちは敵意に満ちていたけども、豊かな自然が育み進化を遂げてきた生命たちはどれも美しかった。
そして今、彼女は再び感動をしていた。陽光に反射する波はキラキラと美しく、どこまでも青く、遠い水平へと伸びていた。それは暗い宇宙の広さとは違う美しい広がりだった。
まとわり付くような潮の香りを肌に感じつつ、打ち寄せる波に足を洗われるがままに任せる。足元の砂がさらさらと波にさらわれる感覚も心地がよい。
ふと背後から近づいてくる3つの足音に背後を振り向く。
「よぉ、待たせたな」
そう声をかけて来た明るい栗色の髪の毛のレイマーは、ハンターズギルドの登録名を「ヒキガネ」という。本名は誰も知らない。(もっともこれが本名なのかもしれないが)軽いノリと、ギルドや軍部に広い交友関係を持ち、チームの交渉事は彼の役割を担っている。
率先して行動し常に先頭を走る彼はチームの“槍”的な存在だ。
「綺麗なところだね」
そう言ったのは銀髪のフォニュエールで、登録名は「スワン」。これが本名なのだが、突き出した愛嬌のある唇から仲間達からは「ダック」の愛称で呼ばれている。彼女は今年で21年を生き、ニューマンには珍しくパイオニア2が母星を離れる前の記憶を持ってる。
多少、偏った傾向の正義観の持ち主だが、明るく裏表のない性格と、わかりやすい物言いはチームの向かう先を決める指標ともなり、チーム内では“旗”的な存在だ。
少し遅れてやってきた紺碧色の大柄なヒューキャストの登録名は「賢者」。彼の持つAIは沈黙こそ最良のコミュニケーションと考えているのか、めったなことでは話すことが無い。
高い戦闘力を持つ彼だが、見た目とは違い、優しい性格と落ち着いた物腰をしており、冷静な判断力でチーム内では“盾”的な役割を果たしている。
そして、海岸に佇んでいたブロンドのハニュエールの名は「ミナト」。見た目は20代前半という年齢だが、寿命が安定せず成長の早いニューマンである彼女は、7年という歳月しか生きていない。多くのニューマンがそうであるように、彼女もまた母星の事は教育用のデータベースの映像でしか知らない。それだけにラグオルの自然が珍しく、美しく感じるのだろうか。もっとも、あらゆる惑星改造を施された母星にこのような自然が残っているわけもなく、自然を美しいと感じたのは彼女自身の感性であったのかもしれない。
若さのせいもあり、チーム内での発言力は大きくはないが、複数の剣とテクニックを使いこなす彼女は常に戦闘の中核にあり、チームで“剣”的な役割を果たしている。
セントラルドーム周辺から“遺跡”と呼ばれるエリアの調査で多くのハンターズが命を落とす中、彼ら4人はこれまで生き延びてきた。それに伴いハンターとしての技量も上がり、より難しい仕事もこなすようになった。そんな彼らも、遺跡以降、新たに発見され、調査対象となったこの島“ガル・ダ・バル”に立ち入るのは初めてだった。
彼らがこの島を訪問した目的は「海洋調査」だ。
現在、パイオニア2が抱える問題の1つに食料問題がある。パイオニア2では食料生成プラントが昼夜問わず稼動しているが、少しづつ増え続ける人口を賄えることが出来るのはあと5年ほどと言われている。
現在も食料の一部を配給制にしたり、ニューマン・アンドロイドを含めた人口増加抑制政策が執られているが、それでも十分とはいえない。
さらに、ナチュラルフードに比べて、栄養面ではともかく、味の面では数段落ちるパック(合成)フードは人々の評判が良いとは言えない。7年もの間、宇宙を旅し、ようやく辿り着いた新天地に降りる事すら出来ない人々の不満を少しでも和らげるために計画されたのが、今回のナチュラルフードプラントの建設計画だ。
計画の第1段階としてセントラルドームの森周辺及び、ガル・ダ・バル島の海洋調査が行われることとなった。食料の生成をするためのプラントを建設する前に、現地で食料の原材料を確保することが出来るかというのが調査目的の1つ。
そして、いまだに一部の地域では異常フォトンが検出されおり、こういった地域で作られる食料は危険ではないかというのが大方の見解となっている。そして、この異常フォトンが発生している地域では、多く場合、原生生物の凶暴化現象や、アルタードビーストが目撃されており、プラントを建設しても安全に運営できないことは簡単に予測できる。こういった危険が無いかという点も今回の調査依頼に含まれている。
「さて、早速、始めるとするか」
そういってヒキガネは自分の左腕に付いた通信装置を操作し、いくつかの装備と機材を呼び出す。この通信装置はパイオニア2や他のハンター達と音声やメールで通信することはもちろん、予め登録しておいた装備などをパイオニア2から転送してもらうことが出来る小型のトランスポーターの役割も果たしている。登録数は30品目とギルド規定で定められてるが、これのおかげで重たい銃器や武器を持ち歩くこと無く地表で活動できる訳だ。
ヒキガネにならうようにミナト、ダック、賢者の3人も各々準備を始める。
「まずは、手近なところから始めようか」
「ダックは浜の砂を採取を頼む、間隔をあけて幾つか採っておいてくれ」
「OK。まかせて」
「ミナトは海水の採取、賢者は近隣の昆虫と植物の採取を頼む」
「はい、とりあえずは浅瀬の海水だけでいいですね」
「ああ、それでいい」
賢者は寡黙にフォトンネットと昆虫回収用ボックスの準備をすると、海岸線の密林の方向へ歩いていく。大柄なヒューキャストが虫取りアミと籠をもって歩くさまは中々こっけいな姿であったが、彼自身は大真面目だ。
3人がそれぞれのサンプル種集をしている間にヒキガネは海中調査のための準備と装備の点検を進める。
海中といっても深海を潜るわけではなく、せいぜい20m程度の深さだ。とはいっても素潜りするわけにも行かないので人工エラと水中ゴーグルを装着しての調査となる。
各装備を点検し終わった頃にサンプル採取をしていた3人が戻ってきた。
集められたサンプルは後にラボに引渡され、この辺りの環境に化学汚染や異常フォトンが発生していないかの調査に使われる。
「さて、これから海中の調査に入るわけだが、もう一度目的を確認しておくぞ」
「確認なんて、しなくても平気よ。要は食べられそうなものを採って来いってことでしょ?」
「あぁ、そうだが、念のために再確認しておこう」
「食料として扱えそうなものの採取だが、対象は主に魚介類だ。この役割は俺とミナトで行う。賢者とダックは周囲の警戒を頼む」
一同が頷くのを確認して言葉を続ける。
「島内と海底プラントは他のハンター達が調査を終えて、様子は大体わかっている。だけど海中に関しては未踏のままだからな。十分に注意が必要だろう。通常時の連絡は端末からのメールで行おう。それ以外の緊急事態が発生した場合には昨日決めたように省略コードで連絡をする。コードはみんな覚えているよな」
「ヒキガネが一番忘れそうじゃない」
「まぁ、そういうなって。もう一度確認するぞ。“ヤバイ”が1、“至急集まれ”が2、“逃げろ”が3」
ダックが言葉を続ける
「“ヒキガネのアンポンタン”が4」
思わず吹き出したミナトをヒキガネが恨めしそうに見つめる。
「まぁ、俺がアンポンタンかどうかは仕事が終わったあとに酒でも飲みながらじっくり議論することにしよう」
その言葉を合図に4人が水中用の装備をそれぞれ装備し始める。
「準備はいいな。いまさらカナヅチだなんて告白はないよな。よし、それじゃ、いざ海底の世界へ」
海底葬送曲
〜序章〜