Rambling Topへ

Fountains Abbey 25/Mar,2005

1.24/Mar
・出発前夜
本当は何にも予定が無かったのだが,イースター休暇には誰しもどこかに出かけるというこの国の空気にのまれ,どこかに行かねば..どこかに行かねば...という半ば脅迫めいた心持でいつもの通り突然どこかに行くことに決定.どこに行くかしばらく地図を眺めた挙句に,先輩の「Lake Districtは道がうねうねしているよ」という言葉と,地球の歩き方の「道が曲がりくねっているので運転注意」のコメントに激しく反応.イギリスに来てからこの方,本格的なうねうね道に出会うことが出来ず,かなり欲求不満がたまっていたところ.いかいでか,うねうね.map
行程図

早速宿を取らねばとインターネットでLake District近辺のユースホステル(以下YH)を調べて電話をかけまくるが全く取れない.やはりこの時期,イギリス中が大移動するようである.結局20軒ぐらいかけた末にLake Districtの東のYorkshire DaleにあるEarby YHA,およびLake District南端のArnsideに2泊分の予約が出来た.当初の目論見ではLake District内に2泊しようと思っていたのだが,その周辺を回ることになった.仕方なし.そして地図を開き旅程を検討.Yorkshire Daleに行く途中にAbbey Fountainと,Saltaireという二つの世界遺産があることに気づく.まあ,世界遺産を冠しているぐらいなら行って損は無いだろうと格好の目標に決定.かくして,世界遺産2件,そしてLake Districtのうねうね道を今回の旅のターゲットとすることとした.バイク用の小さな地図はまだ手に入れていないのででっかい地図から必要な分をスキャンしてプリントアウトしたものを用意する.

旅程の決定後,冬の間中整備し続けたSZRに最後の点検を実施.最初はいろいろなところが壊れていたこいつももはや直すところ無し(点検整備記録参照).しかしどうでもいいのだが,リアサスペンションの錆びが気になってワイヤブラシで磨いてみたりしたので,結局車体と荷物の準備が出来たのが夜中の二時であった.旅の前夜に余計な整備で遅くなるのはいつものことである.おかげでリアサスはピカピカ.

2.25/Mar
(1)DerbyからSoltaireへ.


25/Marchの行程
一日目.天気は曇り.気温はそれほど冷たくなく,春らしい温度であった.なんだかんだで8時10分頃に出発.まずはいつも通りA6をMatlockまで出て,さらにPeak District内をBuxtonまで走る.もはや目をつむっていてもいける.Buxton駅で少し休んだ後,さらに北上.A624でGlossop,A628,A616経由でHuddersfieldと一気に駆け抜ける.Peak District内を縦断したことになる.Peak Districtは左右には羊たちがたむろする快速道路(羊注意の道路標識が出たりする).北部は完全にMoorの丘となり,本当に殺風景になる(Peak District参照).ここはどうしてこんなに樹が生えていないのだろう? なんでも15世紀に鉄を作るために樹を切りすぎてイギリス中の森が壊滅しかかったというが,この草しか生えていない平原もそのときに出来たのだろうか.もう少しイギリスの環境史や地理を勉強したいなあと思いつつ常時50マイル/hでの巡航.さらにHuddersfieldからBradfordに抜けるためM62に突入.後にも先にも今回のツーリングではこれが唯一のMotor Way利用となった.


革服のおっちゃん,おばちゃん.タンデムも多い
M62に入ったすぐのところでトイレが我慢できなくなり,サービスエリアに直行.午前10時50分.用を足して中の店で買った不思議なパイ(名前忘れた.なかに黒いジャムの入ったべらぼうに甘いパイ)をかじっていると,爆音とともに革ジャンの一隊がなだれ込んできた.おお,やっぱりこういうやつらはここにもいるんだなあと感心してみていると,なんとライダーはほぼすべて50歳以上程度のおっちゃん,そしておばちゃん.イギリスはバイクが高いせいか,ライダーの年齢も高いのが特徴であり,彼らのように服装もいっぱしである.Tシャツにジーンズという日本の学生風スタイルでバイクに乗ってはいけない雰囲気があり,私もごついバイク用のズボンをこちらで購入した.(全くサイズが合わないので苦労したが)
総じて,イギリス人は何かの趣味,バイクもトレッキングもサイクリングも,とにかく格好は立派.それ専用の服と靴,道具で身を固めてから始めるみたい.なかなか趣味にお金をかけるようである.当然のことながらバイクにノーマル仕様はほとんどいない.みんなやかましい.バイクにお金をかけるとやかましくなるのはここでも一緒.ここからBradfordはすぐそこ.一区間だけでM道路を降りる.

(2)Saltaire

どの路地を覗いても同じ風景
Bradfordの街中(かなりの都会)を抜けて少し行き,Saltaireという街に出る(12時10分).ここは18世紀にSaltという人が作ったMill(紡績工場)を中心に発達した街で,今でもその紡績工場(Salt Mill)とその工場で働いていた人たちの家々が残っている.そしてその家々が当時の様式のままそっくり残っていることから,駅周辺全体が世界遺産として登録されているそうな...
ふーんという感じで写真だけ撮って街は終了.古い路地なんかはイギリス中どこにでもあり,日頃そういう街を歩いているのでなんだか目新しいものはすでに無い.残念ながら古い町並みには目が慣れてしまった.もはやつまらない..しかし普通に日本人が観光に来たのならば,もう少し感慨深いものがあるかもしれんとは思う.ただ,街並みから推測するに,往時(産業革命の時代)はたくさんの人が働いていて,もくもく煙を吐く煙突がいくつも立っていたのだなあ,だけど今はこざっぱりしているなあなどと感じる.

(3)Salt Mill

10ポンド.ホタテの焼いたのとライス,サラダ.
残存しているといってもSalt Millは実は中が改装されてレストランや何かが入った商業複合施設になっている.そしてここで食った昼飯が抜群であった.ホタテの焼いたやつなんだが,イギリスでは海産物は高いし,あったとしてもあんまりおいしく料理されていない.パブでエビを食べてひどくおなかをこわした苦い経験もある.でもここのは大きなホタテを丁寧にフライパンで焼き,ローズマリーか何かのハーブをほのかにきかせていてよかった.イギリス人は時々ハーブを入れすぎて台無しにすることがあるが,ここのはちょうどよかった.これだけでここに来た甲斐があった.この時から,旅行中の昼飯はがんばって土地のものやうまそうなものを妥協なく探してやろうと強く決意する.

(4)Fountains Abbey

世界遺産Fountains Abbey
Saltaireを出て,途中で警官に職務質問にあったりしながらもなんとか15時ごろにFountains Abbeyに到着.ここは1132年に建てられ代々いろいろな人の手に渡り,1539年に見捨てられたそうな.その後,18世紀から再び修理と保存が行われ,1966年に自治体が買い上げてから1986年には世界遺産登録されたそうな.ごちゃごちゃ歴史はあるが,何にも読まなくてもとにかく圧倒的なスケールで歴史がのしかかってくる場所.石と緑と水とで時間を止めてしまったようなところ.写真をひたすら撮ったので,それについてはFountains Abbey参照

しかし,遺跡のいろいろな構造を見ているうちに,地震がないからこんな建物が800年も持つんだろうなあとつくづく思った.地の利と,そういう地震がない国だからこそ思いつく建築であり,今も見ることが出来るほど残っているのだ.残念ながらこのFountans Abbeyは廃墟になってしまったけど,石造りの部分はしっかり残っているし,このような建物はカテドラルや城などの形でこの国にはいくらでもある.日本にもああ古い建築物はあるけれども,多くは木造で,幾度の消失と再建を経験している.世界最古の木造建築として知られる法隆寺は8世紀のものらしいが,大掛かりな修理がたびたび行われている.基本的に構造材も含めた維持管理が必要なのが木造建築である.しかも一度火災が起こると文字通り「消滅」する.しかしこれらの石造りの構造の寿命は,木造のそれよりもはるかに時間に対する抵抗力は強いであろう.たとえ屋根が焼け落ちたとしても骨格は残る.地震以外にこれを突き崩すことは出来ないと思う.でもこの国には地震がない.こうした幾世も不動のままどっしりと存在できてしまう巨大な構造を人間が作りうるという概念は,この国の文化や政治を形成する根底の一部を成している筈じゃないかなあなどと考える.というと,日本のそれは?諸行無常??? Fountains Abbeyを出てからはこうした考察などしながらバイクですっ飛ばしていた.しかし今ひとつ考えがまとまらず.日本とイギリス(西欧を含めた)の比較文化論の取っ掛かりとしてはいいんじゃない?と思ったりするのでいつかまとめてみようと思う.

(5)Earby YHA
Fountains Abbeyを16時30分に出てからはB6265を西に急ぐ.そろそろ日が暮れてくる.なんとか日があるうちに今晩の宿に着かねば,と半ば必死.文字通り沈み行く夕日との競争.Yorkshire Daleの南端をかすめ,夕日に沈むMoorはやたらきれいなのであるが,必死な下命は写真を撮る余裕などなく突っ走る.突っ走る間もいろんなことを考えるものだがみんな頭の中に浮かんではすぐに風にちぎられて消えていく.走っているとそういうもの.そうこうしているうちにYorkshire Daleの玄関口と地球のxき方にも書いてあるSkiptonに到着.しかし地図だけ確認してすぐさまSZRにまたがる.ホンとはここも見るべきものが多いんだろうなあと若干後ろ髪を引かれる.SkiptonからA56を少し南に行くとEarby.そう,ここが今日の宿.


Earby YHA
17時半到着.Fountains Abbeyから45マイルを1時間で走ったことになる.時速は80km/h弱.日本では県道クラスのB道路の制限速度がここではちょうどこのくらい.やはりイギリスではペースが速い.
日本では何度も使ったことのあるYHだが,イギリスでは初めて.SZRを停めて若干緊張しながらとてもわかりにくい入り口から中に入る.中には気のいいおっさんがいて,「Oh,I'm expecting you!」などという.気のいいおっさん.その場でイギリスのYH会員に登録してもらい,部屋の番号を教えてもらう.また,夕食は勝手にYHのキッチンを使って作る仕組み(Self Catering)なので,近くにあるスーパーの場所を聞き出す.(この仕組みはイギリスでは一般的のようで,食事が出るYHでも立派なキッチンが開放されているようだ.オーブンや電子レンジもある.全部ある.) 狭い階段におののきつつ重い荷物を持って部屋に入る.


Earby YHAのベッド
17時半到着.Fountains Abbeyから45マイルを1時間で走ったことになる.時速は80km/h弱.日本では県道クラスのB道路の制限速度がここではちょうどこのくらい.やはりイギリスではペースが速い.
日本では何度も使ったことのあるYHだが,イギリスでは初めて.SZRを停めて若干緊張しながらとてもわかりにくい入り口から中に入る.中には気のいいおっさんがいて,「Oh,I'm expecting you!」などという.気のいいおっさん.その場でイギリスのYH会員に登録してもらい(15ポンド),宿代を払い(13ポンド),部屋の番号を教えてもらう.また,夕食は勝手にYHのキッチンを使って作る仕組み(Self Catering)なので,近くにあるスーパーの場所を聞き出す.(この仕組みはイギリスでは一般的のようで,食事が出るYHでも立派なキッチンが開放されているようだ.オーブンや電子レンジもある.全部ある.) 狭い階段におののきつつ重い荷物を持って部屋に入る(写真).見たところ,全然日本のYHと一緒.立て付けの悪い2段ベッドがいくつかおいてあるだけ.テレビは無い.あんまり雰囲気が一緒なので若干落胆.他に誰もいないし,おなかもすいたのでとりあえず教えてくれたスーパーに行って晩飯を購入.夕食用にDerbyの中華食材屋で買った日清のCup Noodle(辛いSea Food.日本には無い)があるのだが,それだけではあんまりだしキッチンも使ってみたいので,Tikka Masalaソース漬けのツナ缶とコールスロー,ベーグル,そしてSteak and Kidney Pieを購入.オーブンでしっかりPieを焼いてようやく晩飯.ビールなど飲んでしかるべきかも知れないが,一人のバイクツーリングでは寝る前にしっかり明日のプランニングをしておくのが極度の方向音痴の下命の課題であるので,意識と脳力を高レベルに保つべくビールは厳に飲まない.第一,体が冷え切ってて寒い.
さて,飯食って部屋に戻ってくると,違うベッドには130kg超級と見られる巨漢がこともあろうに裸(正確にはパンツははいていた.でも下命には肉しか見えなかった.)で横たわっていた.ただでさえ建てつけの悪いベッドなのに...なんでもManchesterから来たというドイツ人.この巨漢にして自転車で来たという.20マイルほど走ったそうな.よくやった.その体で20マイル走っただけでもえらい.明日もがんばって体を絞るように.それからベッドは壊れやすそうだから慎重にのっかるように.


Jet Engine1
ふうふういっている巨漢を残してシャワーも浴び,一息入れるために階下のリビングへ.何人かの宿泊客がいる.互いに不干渉.さらりとしていて疲れているときはこの方がよい.YHにはそれぞれ蔵書と呼べるものがリビングにあって,その土地土地の名勝などに関する書籍があるものだが,このYHにはそうしたもの以外にも子供向けの絵本や小説などがたくさんあった.Family向けの部屋がほとんどのYHにあるイギリスではこうした子供対策も重要なのかなあとめくっていくと,なんか1950年版とか,1940年版とか,とんでもなく古い.1940何年のクリスマスにだれそれへと,贈り物に使われた歴史まで裏に書いてある.うむ,この辺もイギリス的だなどと変に感心.その子供用の絵本の中で比較的新しい(25年ぐらい前のもの)”How Things Work?”という子供にいろいろな機械の仕組みを説明する絵本をめくっていると,ジェットエンジンが出てきた(左の写真).この機械からは逃れられないし多少知っているつもり.軽い気持ちで中身を説明する紙をめくりあげてみる.


Jet Engine2
すばらしい.軸方向に一直線なファンは周方向に空気をかき乱すには最適.その後ろのコンプレッサーはおそらくディスクしかなく(部品点数の削減),半径方向の隙間が非常に大きい(ここでバイパスか?).さらにいうなれば5段あるように見えるディスクの厚みは極限まで薄く軽量化されている模様.燃料パイプはまさに自動車のそれとそっくりな上に極太(燃料の大量供給?).コンプレッサーに比べて格段にぶ厚いタービン(高強度化か?).圧巻はナセルと,コンプレッサー,燃焼器,タービンまでがひとつのケースに収められていること.千度以上の温度を持つ燃焼ガスと壁一枚.極限まで部品点数の削減が進んでいる.よほど高度な材料技術と緻密な計算,工作精度が無いとこうはなるまい.すばらしい.

この本のほかにも「Heidi,Grew Up」,「Heidi,and Her Children」というアルプスの少女ハイジが大人になった話とその子供(父親はもちろんピーター)の小説を発見しこれにも少なからず衝撃を受けた.大人ハイジの物語があるのを私は知らなかった.挿絵のハイジは立派なLadyである.そして子供が二人もいる.彼女は永遠の少女だと思っていた.

興奮冷めやらぬまま部屋に戻ってみるといつの間にかすべてのベッドが埋まっていた.若い人と中高年が半分半分.夫婦で連れ立ってきている中高年も多く,食堂もにぎわっていた.そういう夫婦も寝るときは男女別の部屋になる.日本だと学生が多いのだが,中高年の割合も非常に高い.イギリスのYHはとても幅広い年齢層に利用されているとみた.
巨漢はどうやら服を着たようだが,ベッドに横たわってやはりふうふうふうふう言っていた.いびきかいつもそういう息をするのかは判別できなかった.この後,明日のルートを考え,安らかに就寝.

(二日目に続く)

Rambling Topへ