真夜中図書館・所蔵図書試用版
アリキリ
沙風吟
「ねえ、今年の冬で世界は終わるって噂、知ってる?」
雨はもうすっかりあがっていた。菱形の葉の先に残る丸い水滴に入り込んだ陽光が屈折し、時折矢のように目を射る。僕は目を細め、それからもう一度、目の前の少女を見た。
大きな瞳を真っ直ぐにこちらに向け、微笑んでくる。魅力的に笑ってみせる方法を知っているのだろう。僕は彼女に判らないように、少しだけ身体を離した。
「聞いたことはあるけど」
ぶっきらぼうに云う。
「それ以上じゃない」
「なあに、それ?」
彼女は少女らしい高い声で笑い、指先で手元の葉を強く弾いた。水滴が細かく割れて僕の顔に飛び散り、僕は苦々しい表情を作ろうと努めた。
「僕等は、そういう馬鹿げた迷信に動揺したりしない。訓練されてるから」
冷たく云い放てただろうか?
少女は、僕の目をじっと見つめた。口許に微笑みを浮かべていたが、いわゆる皮肉な笑いではなさそうなので気にしない。
「あなた、あたしを馬鹿だと思ってるんでしょう」
僕は目を逸らし、肩をすくめる。遊び歩く事しか考えない娘に答える必要は無いだろう。少女は身を乗り出して、更に僕の顔を見つめた。
「じゃあ、頭のいいあなたに質問。もしもよ。それが馬鹿げた迷信でなく、本当の事だとしたら……疑いようの無い真実だとしたら、あなた達はどうなるの?」
からかっている口調などではなかった。正当な質問には、真面目に答える義務がある。
僕は考えた。
つづく
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