「ほらー、早く行けって言っただろ」
お父さんが、ちょっとあきれて言いました。
「だ、だって。一番いいところだったんだもん…」
「その気持ち、わかるけど。しょうがないやつだなあ」
「……」
その時、準にも「その時」が来てしまったのでした。興奮のあまり、おもらししてしまったのです。もう限界だったので、ちびった程度ではなく、派手にもらしてしまって、カーペットに大きなシミをつくってしまったのでした。
準はよたよたと、ややがにまた気味に、お母さんのところに行きました。サッカーに興味のないお母さんは、寝室で別のテレビを見ています。
「お、お母さーん」
準は、消え入るような声でお母さんを呼びました。
「どうしたの?。あらっ、まあ!」
お母さんは、準を見てびっくりした声で言いました。
「どうして早く行かなかったの?」
「…だって。サッカーがゴールデンボールで、ぼくは…」
準は言い訳しようと思いましたが、しどろもどろになって上手く言えません。うちでおもらしするなんて、なんだか自分が情けなくなって、涙が出てきました。
「もう、いつもぎりぎりなんだから。パンツ出してあげるから、早く着替えなさい」
準は涙を拭くと、こくりとうなづきました。
準が、濡れたズボンとパンツを脱いで洗濯機に入れようとすると、お母さんが言いました。
「ついでだから、着替える前におふろに入りなさい」
「はぁい」
「準は一番最後だぞ。おふろがおしっこ臭くなるからな」
お父さんが来て、ちょっとからかうように言いました。
「えーっ、そんなぁ」
「ハハハ、冗談だよ。いっしょに入るか?、きれいに洗ってやるぞ」
「い、いいよー。自分でやるから」
準は照れ笑いを浮かべて答えました。
…この出来事は、「準の伝説」として家族の間に長く語り継がれることになり、話題が居間のカーペットに永久に残ってしまったシミに及ぶたびに、準はほっぺを赤らめてうつむくのでした。 |