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名演5月例会 モスクワ・ユーゴザーパド劇場公演 

夏の夜の夢

作/ウィリアム・シェイクスピア 翻訳/堀江新二 
演出/ワレリー・ベリャコーヴィチ


ほんだまゆみさんのモスクワ観劇記です

 1月19日、モスクワ時間18時ごろ、アエロフロート機は、氷点下2度というモスクワ国際空港シェレメチボ2空港に到着です。私が、ここに降り立つのも2年間の間に、すでに5度目のこと。今回も芝居を楽しみ、ロシア語を学ぶのが目的の旅です。
 
 冬のモスクワは演劇シーズン真っ盛り。町のいたるところには、大小の劇場があり、観客はロシア国民をはじめ、各国からやってきています。国籍だけでなく、とっても幅広い年代層の観客達が寒さなど平気のように、集まっています。俳優・スタッフたちは劇場の数かける2桁から3桁の人数となり、各劇場は毎晩レパートリーを演じています。
 
 2000年秋、名演の例会で観たモスクワユーゴザパド劇場の「検察官」。出演のひとりの俳優に、電流が走り、京都、東京へと追っかけ、ついに彼の本拠地の舞台、モスクワの南西部住宅街の中の小劇場へと通いはじめてしまいました。休日と資金をやりくりし、ロシア語の勉強も始めてのものです。いま私にとって、モスクワはすぐそこの近いものとなっています。
 
 2001年冬は「旅籠屋の女主人」「ジャングルブック」「検察官」を観て、02年は「旅籠屋の女主人」「じゃじゃ馬ならし」を観て、今年は、「夏の夜の夢」「自殺者」「検察官」を楽しみまし
た。いずれもお目当て俳優が出演のものです。
 とくに今年は、5月の例会作品「夏の夜の夢」をモスクワで観るためにと、旅のスケジュールを調節しました。

 ユーゴザパド劇場は120席ほどの観客席。舞台は観客席から、わずか10センチほどの高さが、観客席と舞台の区切りとなっています。舞台で演じる俳優は、すぐそこで、汗を、つばきを飛ばし、すぐ目の前の彼らのすべてが見渡せるものです。
 
 けいこを積んだ俳優はもちろん、音響・照明などのフタッフの素晴らしい仕事ぶりのもと、みんながとても楽しく仕事をしています。俳優が、役になりきって息をして、全身で動く感情を表現しています。目の前でラブシーンを演じているふたりは、本当に愛し合っている、と観客には、見えます。憎しみあっている場面では、あの俳優同士は真実仲が悪いのかとも思われるものです。個々の俳優の個性と役とが、入り混じって、そこに生きているのです。演技が真実ということでしょうか。

 2000年の「検察官」で、オーシップ役を演じた、ガルシュコフさんが私のお気に入り。彼は、幼いころから地域の演劇サークルなどで学び、12歳の時に、役者になることを決め、難関と言われるモスクワ演劇大学へ入学し、ロシア演劇教育をしっかり身につけてきたプロの俳優です。彼をひとりで育てたお母様は「俳優にするために、どれだけ苦労したかしら」と、おっしゃいました。
 
 認められユーゴザパド劇場に就職し、多くのレパートリーを持つ達者な役者です。彼は「役者は『心』です」と言い切ります。昨日は悲劇、きょうはこどものための演目、明日は爆笑劇などというよ
うに、日替わりで役を演じわけるとき、大事なことは『心』をどう演じるか『心」を表現しなければ、役作りができないと言います。私には想像できるような、でもできないような相当に厳しい修練が、必要でしょう。
 
 レパートリーで何度も演じたものも、時にはけいこをし直して、演出の変化もあるでしょう。また、新作づくりも、公演のあいまに同時進行で行うようです。稽古場と舞台がいつも同じ場所で、日本の多くの劇団が悩む、けいこ場所探しなどの心配が一切ないことは、さすがに演劇王国の大事にされている劇場であると思います。
 
 さて、5月に日本へ持ってくる「夏の夜の夢」を本拠地で観た一番の感想は、「芝居って楽しい」。また、「『愛』が舞台の上に溢れている」のも見えました。ぜひこの芝居は、多くのみなさんに観ていただきたいものです。

 ストーリーがどうの、舞台づくりがどうの、あの役者がどうの、などは、観てのお楽しみといたしましょう。
 でも、ちょっとだけ。森の妖精たちはどっきり裸?職人たちは、有名ベテラン俳優たちが、「下手くそ素人芝居」を演じるその巧さ。ガルシュコフさんも演じる男女ふたりずつの絡み合いは、ちょっとやきもちが焼けるようなもの…。

 ロシア語せりふがわからない。それは当然のことと割り切ってください。もちろん専門家などお分かりになる方は十分楽しんでください。ロシア語が分からないと、割り切って舞台に目を凝らすと、せりふが見えてきます。イヤホンガイドをはずして、耳を澄ますと、俳優の語るロシア語の響きが、心地よくなってきます。

 「夏の夜の夢」」は世界中で多くの劇団が演じます。演出の工夫のひとつが「惚れ薬」かな?と私は思います。眠っている間に、まぶたに塗られ、目をあけて始めてみたものに惚れてしまうという「不思議恋草」=「惚れ薬」をユーゴザパド劇場はどのように演出しているでしょうか。この場面をどうかお楽しみにしてください。私は「エッ〜〜、そうやってやるのか」と感動してしまいました。
 
 今年のモスクワでは、ユーゴザパド劇場だけではなく、こちらも人気劇場の「フォメンコ工房」へも行ってきました。昨年はじめて日本公演を行い、ヨーロッパ各国でも大人気の劇場の役者も、すばらしい演技力です。2本の柱の影で男女が、手の演技で語る芝居は、ちょっと鳥肌ものです。フォメンコ工房の人気俳優とも日本公演の折、お友達となり、モスクワで再会し、日本での感想などをお聞きしました。

 「日本のお客さんは静かですね」。という彼です。モスクワでは、カーテンコールでは、拍手が鳴り止まず、花束やプレゼントが俳優に寄せられています。「ブラボー」と声もかかっています。俳優も、演技を終えた緊張が解け、花束でも受け取るときは、『素』となってうれしそうです。
 
 さて、モスクワといえば、10月末に起こった、チェチェン勢力の劇場占拠事件。その現場へ車で行ってきました。モスクワ中心部のクレムリンからもさほど遠くない、ドブロフカ ミュージカル劇場です。いま、あの事件を物語るのは、劇場広場前の花束だけのように、すっかり静かな場所となっていました。劇場前にお花を捧げたかったけれど、町のあちこちに花屋さんがいっぱいあるモスクワなのに、ここへ行く途中では、花屋さんに出会わずでした。「仏教の国の人」と呼ばれている日本人らしく、両手を胸の前でしっかり合わせて、哀悼の意を表してきました。=写真はそのときのもの=

 モスクワ市内のあちこちには、あの事件のミュージカル「ノルドオスト」(北東)の宣伝看板が新しく掲げられています。ミュージカル劇場前の大看板も新しくなり、2月はじめから再演されましたが、看板はもとより内容も少し変わっているようだと伝わっています。
 今度はこの「ノルドオスト」もモスクワで観たいもののひとつにいたします。
 
 まもなく、5月、遠路はるばるモスクワからやってくる、ユーゴザパド劇場を心待ちにしています。俳優ガルシュコフさんも「日本へまた行けることは楽しみで、うれしいよ」とのことです。そろそろ会場の大きさや時間を考えた、日本版の「夏の夜の夢」のけいこがはじまるのでしょうか?東京などでは、モスクワで大人気の「巨匠とマルガリータ」と「かもめ」も、演じられます。大勢の俳優やスタッフを大歓迎でお迎えして、素晴らしい舞台に感動したら「ブラボー」って言いましょうね。

 冬のモスクワの外は厳しい寒さです。道は凍りつき、大の男達でも滑っています。しかし建物の中はどこも暖かく、どこでも湯がたっぷり出ます。さすがに天然資源の豊富な国です。
 暖かい劇場へ、寒い外から入ってきてホッとして、毛皮のコートを預けて、思い思いに開演時間を待ち、思い切り芝居を楽しむ観客たち。人生の全エネルギーを注ぎ、熱く燃える演技で魅了してくれる俳優たち。劇場は両者が楽しみあって、新たなエネルギーを生み出す場所となっています。

 私もモスクワ演劇への「惚れ薬」を塗られたようです。まだまだ、もっとモスクワへ通います。今度はあなたもいかがですか?ステキですよ。
 でも、モスクワに行かなくとも名古屋とその近郊で、素晴らしい舞台に、まもなく会えます。ぜひ、おいでくださいね。

  

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