登場人物は二組の中年夫婦、工務店の社長の父親と娘、その恋人清一、そしてかつて清一の父親に裏切られたという地主の安藤直治。
ものがたりは一九九六年夏、名古屋から車で四時間ほどの山あいの町での出来事です。
島尾毅は妻の絹子と東京から空気のきれいなこの土地へ移住して十一年。地元の工務店に勤めています。そこへ絹子の叔母で絵本作家の叶里子が夫の大手家電メーカー部長の秋夫との定年後の住みかにと、近くに湧き水のあるログハウスを建てたのです。
ログハウスは島尾毅の勤める地元工務店の社長の娘芳子が設計をしたものです。その芳子は若いコック清一とともに湖畔のレストランをつくるという夢を中学時代から持っていました。
そこへ地質調査会社が資材置場のためにこの平和な山あいの町の谷間をそっくり高値で買収したいという話しが起こります。
芳子との夢を早く実現したいコックの清一は親ゆずりの土地を高値で処分したいと仲介を買って出ます。地主の中心人物はかつて農事組合をやっていてゴルフ場の土地買収問題で清一の父親に裏切られた という安藤直治です。
ところが資材置き場とはまっかな嘘、目的は産業廃棄物の最終処分場の建設でした。しかもそれは叶のログハウスの近く。おりしも東京では叶の勤める大手家電メーカーの有害物質たれ流しが明るみにでます。引責辞任をよぎなくされた叶は定年をまたずにこのログハウスへ引っ越しとなります。
処分場の建設をめぐって人々の思惑は入り乱れ、平和な町は対立と不信と暴力にかきまわされます。
島尾家の夫毅は経済効果も視野に入れながら申し分のない処分場をつくらせようと心をくだき、絶対反対の妻絹子と対立します。叶夫婦はともに反対で一致していますが、藤田工務店では建設協力を前提 に下請の仕事をもらった父に娘は反発。娘芳子の恋人清一は夢の実現の為賛成。地主の安藤直治はどうせ売るならこの機会に少しでも高く売って、その金を息子夫婦への手土産に土地を離れる決心をしま す。
夫は産業廃棄物業者の手先になっているのではないか、絹子は夫の行動が歯がゆくて大喧嘩。
ついに島尾夫婦は別居となり、叶秋夫は反対派のテロで重傷を負い、藤田工務店の親娘はけんか別れ、若いカップルは婚約を解消し、清一は大阪へ芳子は設計士として反対派の人たちと地域のためになる仕事をしていこうとします。
反対派のテロに一番最初に怖がって逃げると思われた主婦である絹子、里子たちがたちあがります。
芳子もふくめた女たちの知恵と勇気との粘り強いたたかいが始まります。
『湧きいずる水は』は『橙色の嘘』『センポ・スギハァラ』などの作品で演劇鑑賞会でもよく知られ、今もっとも注目を集めている若手作家の一人、平石耕一氏がはじめて民藝のために書いた作品です。
平石耕一氏は社会的、歴史的事件への関心が幅広く、ボスニア戦争をあつかった『ホームワーク』松本サリン事件報道の『ニューズ・ワーク』など極めて今日的な社会問題を常に家族の視点から描く中で この作品では産業廃棄物の処分場をめぐって公害の問題が前面におしだされますが人間はそれに立ち向かうたくましさをもっています。
いまや地球の肺である緑が失われ、血管である河川、巨大な胃袋である海は汚され、末期的な症状で す。良かれと思ってやってきた今までの生活スタイルと文化そのものをもう一度立ち止まって考えてみ る必要があるのではという作家平石耕一氏の思いが伝わってきます。
人間を信じる作家の暖かいまなざしはいつもさわやかな終幕をむかえます。
作………………………平石 耕一
演出……………………高橋 清祐
装置……………………深川 絵美
照明……………………秤屋 和久
衣裳……………………金田 正子
効果……………………岩田 直行CAST
島尾 毅(藤田工務店不動産部部長)…………………伊藤 孝雄
絹子(毅の妻)………………………………………日色ともゑ
叶 秋夫(大手電器メーカー川崎工場製造部部長)…梅野 泰靖
里子(秋夫の妻、絵本作家、絹子の叔母)………水原 英子
藤田福美(藤田工務店社長、芳子の父)………………三浦 威
芳子(藤田工務店設計部、建築士)………………千島 楊子
吉岡清一(観光ホテルコック、芳子の婚約者)………宮廻 夏穂
安藤直治(農業)…………………………………………里居 正美
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最終更新日 2001/04/18