サンド濾過の酸化還元

はじめに

最近、サンド層を用いたナチュラルシステムが増えてきましたが、砂の中、水槽中で起こる酸化還元反応について整理おく必要があると思いこのページを作成しました。

A 酸化還元の定義

ところで酸化と還元の定義ですが、酸化されるとはその原子、または分子から電子を奪われることであり、還元されるとは電子をもらうことです。
電子を奪うものは酸化剤と呼び、電子を与えるものを還元剤と呼びます。

酸素と化合することは、一般に酸素に電子を奪われることになるので酸化されるといい、この場合酸素は酸化剤です。電子を奪うものはすべて酸化剤ですので、酸素以外にも酸化剤はあります。塩素と化合して塩化物を形成すれば塩素は酸化剤です。また酸素も分子状酸素ばかりでなく電子を奪えればNO-やSO2-なども酸化剤になり得ます。
また、電子の授受から見て水素を奪われることも酸化であり、水素をもらうことは還元と見なせます。

B 深度と酸化還元

砂の層は十分酸素を含んだ水に接した表層より、下方に向かって徐々に酸化還元電位(ORP)を下げていきます。それに伴い以下の反応が起きます。

1)アンモニアの酸素酸化による亜硝酸産生
  NH→NO

2)亜硝酸の酸素酸化による硝酸産生
  NO→NO

3)有機物の硝酸酸化による窒素ガス、亜酸化窒素の産生(硝酸自体は還元されるので硝酸還元反応)
  NO→N、N

  ほとんどのプレナム水槽では1)〜3)までが起こる反応です。(理由は後述・・・@)

4)有機物の硫酸酸化による硫化水素の発生(硫酸還元)
  SO→H

  1)〜4)までが砂を厚く引いた水槽で起こる反応です。(理由は後述・・・A)

5)水素の炭酸酸化によるメタンの発生(炭酸還元)
  HCO→CH

  炭酸還元は動物の消化管、淡水嫌気環境や海水環境では大深度では起こっている現象ですが、水槽内では起こり得ません(理由は後述・・・B)

C 酸化還元電位深度に与える要素

深さと電位に与える影響は、砂の粒子径、有機物の供給量、砂面の水流、砂の上の構造物、砂攪拌生物(ベントス)の量・活動度などがあります。

砂粒子が細かく、マングローブ地帯や干潟のようなシルトだと、深さ5mmくらいでもうすでに硫酸還元が始まり、砂(泥)は青みを帯びた還元状態特有の色になります。

エアレーションのみでポンプ水流無く、ナマコを入れたパウダーサイズのライブサンドでは2週間から1ヶ月で深さ3cmにて硫酸還元が起こりました。
参照:ライブサンドのバケツエアレーション
比較的強い水槽内水流のもとではライブサンド10cm以上で硫酸還元が始まりました。(後述・・・C)

砂の上にライブロックなどの構造物があると酸素含有水の浸透、有機物の供給に影響がありますが、硫酸還元の深度に関しては一概に言えません。

有機物の供給が多ければ浅い深度で硫酸還元が始まります。また、生物活動が激しければ酸素含有水が内部に浸透し深いところになって硫酸還元が始まります。

D 酸化還元電位値

硝酸還元、硫酸還元、炭酸還元はそれぞれ決まった還元電位(負の値)から始まりますが、水槽でよく使われるモニターであるPINPOINTmonitorの値と他の一般的数値には違いがあるようなので、併記しておきます。
なお、PINPOINTmonitorでの値は他文献でも、嫌気濾過槽実測でも下記の値で硝酸還元、硫酸還元が始まったことを確認してあります。

単位:mV、( )内はPINPOINTmonitorの値です。 
 
1)±0(−50〜−200) :NO→N 硝酸還元
(硝酸還元は有機物:炭素+水素、または硫化水素が硝酸により酸化される反応です。) 

2)−250(−400〜) :SO→HS 硫酸還元
(硫酸還元は有機物:炭素+水素が硫酸によって酸化される反応です)
 
3)−500    :CO→CH  炭酸還元
(炭酸還元は水素が炭酸、重炭酸によって酸化される反応です。なお、炭酸還元をおこなうメタン細菌は糖、アルコールなどの有機物はエネルギー源として使用できません。炭酸還元は有機物を原料としては起こり得ません) 

他分野の文献と水槽関係の文章を比較されるとき、酸化還元電位の表示に置いて、どちらを使っているかお気をつけ下さい。

E 硫化水素と反硝化反応の共役 

硫化水素発生は、一般には「腐敗と同じ意味で水槽生物に悪影響を与えるもの」と受け取られていますが、サンド槽で、下層からゆっくり拡散してくる硫化水素は、必ずしもマイナス面ばかりでなく、大きな利点もあります。

硫黄細菌のThiothrix属の細菌や硝化細菌科のThiobacillus thioparusは硫化水素の酸化でエネルギーを得、イオウ、硫酸に酸化します。       
       HS+1/2O→HO+S、 S+3/2O+HO→HSO 

 この反応で作られた、イオウやチオ硫酸塩はThiobacillus denitrificansが硝酸塩を酸化系とした酸化を行い、遊離窒素を放出します。
        2/5HNO→ 1/5N+1/5HO+1/2O、 1/4H+1/2O+1/4HO→1/2HSO
        (他にも種々の細菌が働いていると思われます)
 
すなわち、ゆっくりと上方へ拡散する硫化水素は反硝化反応を助ける面もあるのです。これが、サンド層下部に閉じこめられ制御された硫酸還元反応(硫化水素発生)の利点です。大量の有機物で生じた水中内に漂い出す硫化水素発生:腐敗とは異なるものです。

ちなみに、硫黄細菌は、夜上昇し、昼下降するという日周性垂直移動を行います。

F ライブサンドによる硫酸還元

後述・・・ACの解説です。
数年間、砂を直引きして維持されてきた、2つのベルリンシステム水槽の砂をゆっくり除去し、どの構造の下でどのくらいの深さから硫酸還元が始まっているかを調べてみました。

水槽の条件、状態は以下のようなものです。
餌やりは、片方は数年間無給餌、もう片方はごく少量の給餌です。砂はライブサンドを薄いところで10cm弱、厚いとこころで14〜15cmです。
上の構造物(砂表面の状態)は無構造物:何も置かず光と水流が十分にある面積が1/3、ライブロックの下になっているところが1/3、ライブロックは置かれていないがライブロックの日陰になっている(水流はある)ところが1/3です。

硫酸還元は砂が青みを帯びた黒色化してきますので、発生時点が分かります(また、臭いでも)。水槽下面など構造物は硫化水素が発生している砂に接している場所は黒色化しているので分かります。

結果は浅いところでは3cmくらいから砂の黒色化がはじまり、7〜8cm付近が最もふつうな硫化水素発生開始深度でした。最深部の底においては面積の約2/3が黒色化していました。(最深部でも1/3は硫化水素発生がなく、硫酸還元黒色部、非硫酸還元白色部は混在していました)

砂の厚さと構造物に関しては、10cm弱で水流の強い水槽手前、数cmは非硫酸還元部位でしたが、10cm以上の厚さのある部分では、上部の構造と硫酸還元の成立とは無関係でした。
ライブロックを置かれたところも、硫酸還元されていない部分があり、上に構造物が無くても比較的浅いところから硫酸還元が始まっている場所もありました。
おそらく、上に岩があれば酸素含有水が浸透しにくく嫌気になりやすいでしょうが、有機物の供給は少なく、こちらは嫌気になりにくい条件となり、この両者が拮抗するためだと思います。
上記の現象は、2つの水槽とも認められました。

上の写真は砂を除去した水槽下面です。砂除去後掃除をし、また二日ほど経過していますので、やや黒ずみはは薄くなってます。上記しましたが、砂除去直後は黒色砂に接する部分はエンビボード、パイプとも硫化水素で黒ずんでいました。また、黒ずみはまだらに存在していました。黒色部はおよそ2/3の面積です。

これら、硫酸還元のエネルギー源は砂に生えた微少藻類、上方からのデトリタス中の有機物が、砂の生物(ベントス)によって、硫酸還元電位の深度まで運ばれて起きていると考えられます。
なお、デトリタスの重量のおよそ1%が有機物です。また、自然界の砂場はそのすなをコーティングする光合成性細菌により、単位面積あたりの炭酸同化量は熱帯雨林、珊瑚礁に匹敵するそうです。

G 炭酸還元

炭酸還元は海水水槽内では起こり得ませんが、地上でのメタン発生、海底のメタンハイドレートの源として重要ですので、ここで触れておきたいと思います。

先にもふれましたが、メタン細菌によるメタン産生は水素分子が無ければ生存できません。メタン細菌は糖、アルコールなどの一般の有機物が利用不能なためです。これは細菌学的にも常識ですが、化学反応のエネルギー収支を見ても分かります。
以下の熱化学式は読み飛ばされて結構です。

なお、結合エネルギーは、C-H:87.3、C=O:142、H-H:103.4、H-O:110.2 Kcal/molとしました。

1)炭化水素から水素を手に入れて炭酸還元を行う場合
 a)必要エネルギー
   8H:(87.3×4)×2(炭素から還元に必要な水素の切り出しに必要なエネルギー)
   CO2→C、2O:142×2
   小計 982.4Kcal/mol
 b)得られるエネルギー
   C+4H→CH:87,3×4
   2(O+2H)→2HO:2×(110.2×2)
   小計790Kcal/mol

1b)−1a)=-242,4Kcal/mol・・・エネルギー収支がマイナスです。・・・(イ)

2)水素分子があるところでの炭酸還元
 a)必要エネルギー
  4H→8H:103,4×4
  CO→C、2O:142×2
  小計697,6Kcal/mol
 b)得られるエネルギー
  C+4H→CH:87,3×4
  2(O+2H)→2HO:2×(110.2×2)
  小計790Kcal/mol

2b)−2a)=92,4Kcal/mol
  小計790Kcal/mol・・・炭酸還元はエネルギー効率が悪いですが一応プラスです。・・・(ロ)

(イ)(ロ)より、有機物(炭化水素)を原料とした炭酸塩還元は成り立ち得ません。

消化管内で発酵を起こす牛や淡水汚泥では、糖やアルコールから水素生成菌が分子状水素を作ります。(水素生成菌はメタン発生はしません)
この水素を利用して牛の消化管や淡水汚泥ではメタン産生菌が炭酸還元によるメタン産生を行います。
メタンは二酸化炭素より温室効果が高いため、地球上の全草食動物から発生するメタン、有機汚泥が溜まった淡水域から発生するメタンは地球温暖化にとって見過ごすことのできないファクターになってます。

ただ、幸いなことに海では、浅い有機物の多い海底ではこの炭酸還元が起こらず、深海底の地下深くでしかおこらないので、メタンハイドレートとして、いったん海底地層に蓄積されて、すぐには出てこない仕組みになっています。

どうして、浅い海底では有機物があっても炭酸還元が砂や泥の中で起こらないのでしょうか?
それは、海水は2650ppm(28mM:ミリモル)もの大量の硫酸イオンを含むためです。Dで書いたように硫酸は炭酸より酸化能が高く、還元されるべきもの(有機物や水素)があると炭酸還元より硫酸還元のほうが容易に起こるためです。硫酸イオンが5mM以上あると硫酸還元、硫化水素発生のみがおこり、炭酸還元、メタン発生は起こりません。

上記の理由で、海水水槽ではどんなに砂を深くしても有機物を多くしても硫酸還元止まりで、炭酸還元は起こりません。
硫酸イオンが大量にあるところで炭酸還元が起こると考えるのは、ガソリンをかぶった石炭を、ガソリンに火を付けず石炭のみに火を付けようとするようなものです。上記が・・・Bの理由です。

では、深海底の地下で深くではどうやって炭酸還元が起きているのでしょうか?
まず、必要な水素は地下深く浸透した水が高温岩体にふれて物理的に酸素と水素に分かれ、酸素はそこで酸化に使われ、水素のみが上方へ向かう、またははやり地下深くの高温部で有機物が分解され水素が発生し上方に向かう、などの起源が考えられます。
上方の海底に向かった水素は、もっと上で硫酸イオンが使い尽くされて、重炭酸が豊富になった地下水に出会います。ここで水素と重炭酸、炭酸による炭酸還元、メタン発生が起こります。
このメタンは、さらに地殻を登り、途中で一部、硫酸還元、さらに上部で硝酸還元に使われ、残りが海底地下に達します。深海底は低温、高圧環境ですので、メタンは水分子に取り囲まれ、シャーベット状のメタンハイドレートになり、深海底地下のやや浅いところに蓄えられます。

もし、海水面が下がったり、海底の温度があがればメタンハイドレートは一気に気化し、大量の温室効果ガスが大気中にもたらされます。
地球の歴史に、このような事態に至ったことが過去にあるようです。

ちょっと水槽から話がそれてしまいました。

なお、嫌気濾過槽に硫酸還元が始まっても、有機物を投与し続ける実験を行ったことがあります。大量の硫化水素が発生しましたが、ORPは-420付近で下げ止まり、メタン発生などはありませんでした。硫酸イオンも酸化剤の一種なので、それが存在するうちはこれ以上の電位低下は無いのでしょう。硫酸イオンが無くなれば?(水槽内ではあり得ませんが)・・・それはもう海水ではありません。

H プレナムでの還元とプレナム水

数年間無給餌であったプレナム水を不定期に採取し、硝酸、亜硝酸、リンを計ってみました。
亜硝酸は検出されず、硝酸はNO-N:≦0.03ppm、PO-P:0.00ppm(常に)、でした。
また、1999年頃よりモナコシステムが流行り、サカナに給餌している水槽も多いようですが、そのような水槽で1年に以上経過したプレナム水も、ホビー試薬ですがほとんどが硝酸は検出感度であったようです。

これは当然で、硝化反応が起きている十分な厚さの砂の下にあるプレナム空間に硝酸が高濃度に溜まることはありません。、もし、高濃度であったら、硝酸は酸化力を持ちますから、還元電位が十分に低くなることはなく、それはプレナムではありません。
硝酸がとんでもない高値が報告されたら、計測ミスを疑うべきです。
プレナムは給餌が多い場合はリンが蓄積することが考えられますが、その場合でも硝酸蓄積はあり得ません。

なお、プレナムやプレナム周囲の砂に硫化物形成はありませんでした。
プレナムは電位を平均化する性質があります、それもプレナム直上の砂で最も電位の高いところの影響が強く出ます。Gでも触れましたが、サンド層を作った場合、硫酸還元はまだらに起こります。このうちもっとも電位の高いところがプレナムの電位となれば、プレナム、プレナム周囲の砂は硝酸還元止まりで、硫酸還元までは至らないことが多いと考えられます。
これが、後述・・・@の説明です。
なお、面積の小さいプレナムやデニボールなどの有機物を添加した場合は硫酸還元が起こることもあります。また海草類など植物を入れると、周りの砂中の酸素を植物が吸収するため還元電位が浅いところで低くなる傾向になります。

I モナコシステムについて

プレナムが世界に広がったのはモナコ水族館が、「モナコ水槽」として展示、パテント販売したことが大きく寄与したと思われます。モナコシステムについて、推測を交えてお伝えします。
なお、推測というのは、モナコ水族館は秘密主義のところがあったり、あとで、「実は・・・していた」というジョベールさんの話が漏れてくる、というような展開があったためです。

1980年頃のモナコ水槽は砂を1メートルもひき、当初はプレナムも設置していなかったようです。水流と砂厚引き水槽が初期モナコです。
1メートルもの砂をひいたのはどのくらい深くすれば十分な硝酸還元のための嫌気化が出来るか分からず、できるだけ厚く引いたのと、厚いほど砂からのカルシウム供給が多いためのようです。
その後、徐々に薄くしていっても硝酸コントロールは付いたようです。
ただ、どのくらいの厚さの時、プレナムを組み込んだか不明です。
砂を減らした水槽を作っても、厚いときのものはそのまま維持していたようです。
ただし、作った水槽が全て成功した訳ではなく、江ノ島水族館にモナコを作った当時でも、うまくいくかどうかは保証の限りではない、というレベルだったようです。

プレナムを組み込んだのは、そのことにより、硫酸還元が起こらなくする、というのが最も大きな目的であったかもしれません。なぜなら、当時、硫化水素を発生させることは水槽生物に良くないことと考えられていたからです。

1メートル砂水槽も水量、砂に比しサンゴが少なかったためか初期はカルシウムが十分だったようですが、石灰藻が増えてくると、カルシウムがさがり、石灰藻対策としてウニを積極的に使用したようです。
10年前、ベルリンはウニ退治・石灰藻保護主義で、モナコはウニ導入・石灰藻退治主義だったのは、カルシウム問題が大きかったようです。
その後、カルシウム添加はしていないと行っていたモナコ水槽も密かにkalkwasserを添加するようになっていたようです。
また、連続換水も水槽によっては行っていたのはご存じと思います。
特許に基づいて、他の水族館にアドバイスするときは、この時点でも無換水、無添加を指導していたようですが。

この時代のサンド濾過は硝酸塩などの栄養塩問題では厚くても薄くしてもあまり変わらないが、カルシウムの砂供給量に違いがあった、という事になるかと思います。
ただ、そのカルシウム供給も十分ではなく、添加が将来必要になる、というというレベルだと思います。
(1メートルの砂を引くより、カルシウムリアクターをつけた方が良いとおもいますが)

最近、プレナムを設けず、砂を極端に厚く引く水槽を見かけますが、これはモナコの発展型でなく、初期に返った形です。なお、サンド濾過はパウダーやライブサンドを使用するなら、15cm程で良いでしょう。それ以上厚くしても意味がありませんし、前記したように海水水槽では砂をどんなに厚くしても炭酸還元は起こり得ませんから。

J 砂について

最近、サンゴ砂で、特定の機能をうたった商品が出回っています。その名前や説明で誤解を抱いている方からのメールがいくつか来ましたので、サンゴ砂について、その性質をいくつか触れておきたいと思います。

砂の性質は、1)結晶型、2)粒状径、3)不純物、4)付着生物の有無、に分かられます。

1)結晶型
サンゴ砂の主成分は炭酸カルシウム:CaCOでできていますが、炭酸カルシウムの結晶には次の3種があります。
Vaterite(バテライト)
Calcite(カルサイト:方解石)
Aragonite(アラゴナイト:アラレ石)

サンゴは主としてアラゴナイトでできており、貝などはカルサイトが多く含まれています。それらでできたサンゴ砂は主としてアラゴナイトで一部カルサイトが混じっています。
(注、アラゴナイトとはあくまで一般化学名です。アラゴナイトという特殊性能の砂があるわけではありません)
また、アラゴナイトは非常にゆっくりと安定なカルサイトにかわって行きますので、石灰鉱山から採取された石灰岩は起源がサンゴでもカルサイトになっていることがあります。

2)砂直径が1mm以下のパウダーから3,4cmの大きさのサンゴ砂まで種々あり、その混合したものもあります。
砂直引きに使用するものはパウダーから1,2mmまでの大きさが良いと思います。

3)不純物には、リン、マグネシウム、ストロンチウム、その他の微量元素があります。
リンは少ない方が良いですが、その他はいくらか含まれていた方がサンゴの成長に寄与します。
ただし、マグネシウムなどはその供給源として見た場合、サンゴ砂にはあまり多くは含まれていないようです。

4)付着生物の有無とは、乾燥砂か、ライブサンドかという意味になります。
ライブサンドは自然の海から、または、自然の海に長く漬けて、砂粒子にバクテリアをコーティングさせ、また線虫類などのベントスを含んだ砂です。
特に嫌気性多細胞生物の導入にはライブサンドは不可欠です。
(最近、嫌気状態でも嫌気性細菌ばかりでなく、真核生物や多細胞生物まで棲んでいることが分かりました)
サンド濾過には、好気性から嫌気性の生物が住み着き、有機物の分解、輸送をやってもらう必要がありますので、表層の一部または砂すべてがライブサンドであることが望ましいです。
ただし、ライブサンドはライブロックよりデリケートで、海からあげてなるべく早く水槽に導入する必要があります。また、大量に入れた場合、亜硝酸などの水質チェックも必要でしょう。
ライブサンドは種々のバクテリアがいますので、サンゴ導入はスキマーの泡が立ってから、スキマーの無い水槽なら水が透明になってからが安全だと思います。(ライブサンドは他の砂よりずっと早く透明になるので、それほど待たないと思います。)
輸送や岩組などで眼には見えなくても細かい傷が付いたサンゴの感染症を防ぐためです。なお、砂の追加はサンゴが入ったままでかまわないでしょう。

なお、ここで、砂のバッファー能(KHの高さ)について試薬測定で誤解を抱いている方がいらっしますので付け加えておきます。
KHは測定する海水に酸を加え、pH4.8まで低下させる酸の量でバッファー能を示します。
もとの海水に含まれていた重炭酸は酸:水素イオンを吸収してを中和します。これが緩衝能:バッファー能です。
(H++HCO-→HCO
ここで注意が必要です。もし、サンゴ砂やパウダーを加えて、懸濁状態で計ったらどうなるでしょう?
懸濁状態はイオンではなく、あくまで沈殿状態です。KHで計る重炭酸イオンではなく、細かい炭酸カルシウムが溶けずに漂っているだけなのですが、これをKH試薬で計るとKHが非常に高く測定されてしまいます。
その理由は、KH試薬は酸なので、計っているうちに環境が強く酸性になり、浮遊している炭酸カルシウムが溶解して重炭酸を放出するためです。これで、高くKHが出ても、元の海水でKH(重炭酸)が高いわけではありません。ただ、酸で炭酸カルシウムを溶かしただけなのです。
あるサンゴ砂やパウダー砂、あるいは人工海水を溶かしたばかりの海水で、「ほらこんなにKHが高い、バッファー能が高いんだ」という方がいますが、これは誤りです。
何十倍も高いKH能を示すサンゴ砂はあり得ません。

K カルシウム溶解

自然界では、どうやってサンゴなどに吸収された海水成分のカルシウムや重炭酸を補給しているのでしょうか?
サンゴ砂からの溶け出し、サンゴを骨格ごと食べるベラなどの消化管内での酸による炭酸カルシウムの分解などが有名です。

他には雨水に空気中の二酸化炭素が溶け、それが石灰岩を溶かして海に入るコースがあります。これは、元は珊瑚礁ですから、長い時間をかけたカルシウムの循環と言えましょう。

もう一つ重要なカルシウムのリターンコースがあります。
浮遊生成物でもカルシウム骨格を持ったプランクトンは膨大な量、海に存在しますし、死ねば深海に向かって沈んでいきます。また、水槽中のデトリタスに相当するような物質も沈んでいくことでしょう。
ところで、浅海域はカルシウムは飽和状態ですが、深海部ではカルシウムは飽和していません。このため、深海生物は浅いところに棲むものに比べてカルシウム骨格を持つものが少なくなります。
深海ではカルシウム濃度が低いのでしょうか?いいえ、そうではありません。深海の方がやや高いくらいです。これは、海水のpHが異なるためです。
表層域ではpH8.3くらいのアルカリ性の強い海水ですが、上で書いたプランクトンなどが死骸、マリンスノーが光の届かない海に落ちてくると、もうその栄養素はプランクトンの再生に使われるより分解される方が多くなります。マリンスノーの有機物は水中の酸素で酸化され、水と二酸化炭素に変わります。この二酸化炭素のため、深層海水はpH8.0やそれ以下にpHが低下します。
二酸化炭素上昇、pH低下の結果、カルシウムはより多く溶けられるようになり、飽和度は下がりますが、濃度自体はあがり、重炭酸イオンも増えます。ちょうどカルシウムリアクターと同じ反応です。
また、有機物中の窒素、リンは硝酸塩、リン酸塩となって、深層海水の成分となります。
この深層海水が湧昇流などによって、表層にもたらされると、含んでいたカルシウム、重炭酸、硝酸、リン酸などが光合成生物、石灰化生物に利用されます。
このような、浅海-深海循環もあります。

水槽ではどうでしょう?
ハードコーラルがぎっしり入れられている水槽では、カルシウムや重炭酸(KH)を消費する生物は自然界よりたくさんいることになります。
一方供給側はサンド層以外にはいません。サンゴ食魚、鍾乳洞、深海流は水槽にはありませんから。
鍾乳洞、深海流など大きな循環でのカルシウムと重炭酸供給は、二酸化炭素を添加して炭酸カルシウムをカルシウムイオンと重炭酸イオンに変えるカルシウムリアクターが原理的に最も近い代用となると思います。
すなわち、カルシウムリアクターは水槽に取り付けた不自然な機械では無く、地球の鍾乳洞、深海流の水槽内での再現なのです。

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