ライブサンドのバケツエアレーション

 (サンド濾過の解説)

☆実験

 ライブサンドをひいた場合どのくらいの深さで硫化水素発生が始まるか、また、水質への影響を見るためにバケツにライブサンドを入れ、エアーレイションのみで、変化を観察しました。

1)第一回目

A)期間:
6月初旬より3ヶ月

B)使用物:
ライブサンド(CPFarm)
ポリバケツ13リットル
クロナマコ(Halodeima atra?)5cm
ヤエヤマヒルギ(Rhizophora mucronata)の種4本
      
C)設定:
上記の砂を厚さ3.5cm入れる
RO水で作った人工海水を10リットル入れる(蒸発分はRO水で補充)
温度ヒーターで25℃以上にする(8月に29度まで上昇)
エアレーションのみで濾過はせず
室内半日陰に置く

D)結果:
2週間ごとに硝酸、リン酸測定したところ、常にNO3ーN<0.2ppm、PO4<0.1ppmでした。
藻は7.8月は少量の珪藻。シオミドロらしき藻が9月より出現。クロナマコ死亡後2日ほどで繁殖しだしたため、実験中止。
なお、ナマコは表層2mmほどの砂のみ摂取し、それ以上の攪拌は行いませんでした。
砂は不定期に採取、観察。2週間目硫化物の形成無し(底まで)。6週間目砂の深さ3cmで硫化物と思われる砂の黒色変化あり。
終了時、同じく3cmから砂の黒色変化あり、またバケツの底も硫化物でやや黒ずみあり。
海水自体は砂をいじらない限り無臭。砂は下部が少し硫化水素臭あり。    

 

2)第2回目

A)期間:
9月下旬より3ヶ月

B)使用物:
ライブサンド(前回使用した砂の上部を海水で軽く洗い再使用)
ポリバケツ(前回使用した物、底は擦り洗って)
ヤエヤマヒルギ(前回使用した物)
今回はナマコも含め動物は入れず。

C)設定:
上記の砂を厚さ2.5cm入れる
RO水で作った人工海水を入れる(蒸発分はRO水で補充)
温度はヒーターで25℃に設定
エアレーションのみで濾過はせず
室内半日陰、11月からは蛍光灯照明を終日点灯

D)結果:
水質:常にNO3ーN<0.2ppm、PO4<0.1ppm(最後SMARTColorimeterではNO3-N=0.03ppm PO4=0.00ppm)。
砂:終了時に底にも硫化物の形成無し。3ヶ月間、砂の攪拌無くとも投入時の色が表面でも保たれていました。
藻:ごく少量の珪藻が認められたが、ほぼ砂は白色のまま。
(写真参照)

 写真1 11月10日 実験2)を初めてから2ヶ月、少量の珪藻発生は認めるが砂表面は白いまま。ヤエヤマヒルギはヒーターに縛ってある。

 

 写真2 12月18日 実験2)終了時、(3ヶ月目)砂の色は投入時と変わっていない。底にも、1回目に認められた硫化物による黒色物は無し。

 

 

☆考察とサンド濾過の解説

 酸化還元電位はサンド層表面の海水に接した部分の+300mV以上から、下方に向かって徐々に低酸素、電位の低下となっていき、-50mV付近で硝酸還元(脱窒)が始まり、-200mV以下になると海水に豊富に含まれる硫酸イオンの還元が始まって硫化水素が発生します。反硝化参照 
 パウダーサンドにおいては砂の深さ3cm付近で硫化物の形成が認められたことより、このすぐ上は反硝化帯、この3cm以下が硫酸還元域と考えられました。
(なお、硫酸還元バクテリアは砂の層を夜間1mmほど上昇し、照明がつくと下降するという日周性を示すそうです)

 硝酸還元も硫酸還元も求エネルギー反応ですから、そこで得られた酸素で酸化される有機物の量によって反応量が決まります。硫化水素は一般に酸素呼吸する生物にとって有害ですが、極少量が拡散によって硝酸還元帯に上昇する場合は、そこで反硝化反応を促進するエネルギーとして使用され、水質の浄化にプラスに働きます。しかし、硫酸還元域に有機物が大量に持ち込まれると反硝化帯で消費される以上の硫化水素が発生し、水槽生物に悪影響を与えます。

 底砂による水質浄化は、有機物の量と砂及び有機物を移動させる方法と量にかかっています。従来のサカナ大量飼育に向かないのは当然です。多量の糞が掃除されにくい砂の層に貯まり大量の硫化水素を発生させ、海水の腐敗という最悪の状態も考えられます。リーフアクアリームにおいては、砂をかきまぜる生物の選択と砂の層をどういう組立にするかという事がその有益性を決めると思います。

A)生物

a)細菌: 硝酸還元、硫酸還元は硝化細菌科、イオウ細菌科のバクテリアが砂と一緒に持ち込まれ、やがてそれぞれ適したゾーンで増殖していくと考えられますが、増殖し十分な機能を営むにはある程度の時間がかかるため、毎日多量の砂が移動する環境ではそれぞれの細菌群に適した酸化電位が変動し細菌叢が成立できない状態も考えられます。

b)線虫類: 寄生者として有名な線虫ですが、自由生活を営む種は1mmほどの大きさです。細菌、原生動物の捕食者として、砂、有機物の移動者として、自然界では重要な役目を果たしています。好気的環境を好むもの、微好気的環境がよいもの、嫌気状態にも耐えられるものなど生息条件もさまざまで、種数も莫大な数がいると推測されていますが、まだあまり研究が進んでいません。水槽中のライブサンドにはあまり観察されませんでした。外国では線虫をわかし、砂掃除のヤドカリなどとセットにしたライブサンドが販売されているようです。この生態系ピラミッドの2段目をなす線虫類生物相の確立が砂による水槽浄化のキーポイントになるかも知れません。

c)肉眼的大きさの生物: 今回の実験2)では貧栄養と照明が強くなかったため、3ヶ月間も藻類の繁殖は目立ちませんでしたが、強化照明下で砂が固定されてしまうと、どうしても表面に藻が繁殖してきます。特に、線虫類など中間の大きさの生物が少ない環境ではこの傾向が強く出ます。表面の砂2mmほどを始終食べてくれる小型ナマコ、砂粒を一つ一つきれいにしてくれる草食の小型ヤドカリ、砂を部分的に上下攪拌してくれる小型ハゼなどは砂を入れた水槽には必須の生物だとおもます。しかし、水槽全体の砂を1日で動かしてしまう大型のサカナは細菌叢確立には不向きだと考えます。

 

B)砂の構造

 パウダー状の砂から1cm近くの砂までさまざまの砂があり、また砂を単層で敷くものから下部に止水層(Plenum)を組み込んだものなど様々な方法があります。Plenumも本水槽に設置する場合やサンプ槽にもうけるときもあります。Plenumは下部で横方向の水の動きを自由にし、ここの還元電位を一定にする働きがあります。

 Plenum組み込みの三層構造とする場合は、以下のような構造とします。

a)下部3,4cmに塩ビパイプなどで支えられた水が横方向に移動できる空間を作ります。砂、ライブロックの全荷重がかかるので、たくさんの柱か、直径3,4cmのパイプを水が動ける配置で、たくさん横倒しに置きます。ここには砂を入れず、パンチボードで上を仕切ります。ここが止水層(Plenum)となります。

b)中部3cmは粗めのサンゴ砂を入れます。この上はパウダー状の砂が落ちないスクリーンを張ります。このスクリーンは上部の砂の落下と水槽生物の進入を防ぎ中部以下の嫌気水と上部の好気水が混じらないようにします。
 なお、中下部は遮光が必要です。嫌気水に光が射し込むと非酸素発生型光合成が起こり、Plenumに有機物が産生され、これによって思わぬ大量の硫化水素発生を招く危険があるためです。

c)上部は3,4cmにパウダー状か、細かめの砂を敷きます。大きめの砂を混ぜても良いと思います。
 シャワーパイプなど水槽下部に水の噴き出し口がある場合は細かい砂が飛ばされないようにその周囲は大きめのサンゴ砂を多くする必要があります。
 サンプに作る場合は水の落下の勢いで、好気水が下部に進入しないよう落下部にあてがいをおいた方がよいと思います。
 本水槽に作る場合は濾過機能を期待するなら、ライブロックで半分以上砂表面をふさがないようにしなければなりません。ライブロックが多い場合はロックに「下駄」をはかせる必要があるかも知れません。

 サンドが主体となったリーフシステムはこれから改善されていく余地が沢山あると思います。