反硝化(脱窒:Denitrification)

 反硝化(脱窒)とはPseudomonas属などの細菌によって、硝酸NOを窒素N、亜酸化窒素NOなどのガス体に変えて水槽から除去させる反応です。リーフシステムでは、反硝化が硝化反応で生産される硝酸を上回るため、自然界のサンゴ礁域に近い低レベルの硝酸濃度、貧栄養海水が達成されます。

A)ライブロック、ライブサンドによる反硝化

1)硝化反応:
 好気的な岩表面では、アンモニア、亜硝酸が酸素を消費して硝酸に変わるいわゆる硝化反応が起きます。ここで酸素が消費されて、その下面には細菌のバイオフィルムに包まれた、嫌気層が出現します。

2)反硝化反応:
 酸化還元電位:Redoxが−50〜−200mVの嫌気層では、水流によって運ばれてくる炭素源(サンゴの生産するワックス、藻類の光合成成産物)を、硝酸から取り出した酸素を使って、酸化してエネルギーを生み出す、反硝化反応が成立します。

3)硫酸還元:
 酸化還元電位が−200mVを下回ると、こんどは硫酸イオンから酸素を取り出す、硫酸還元による硫化水素発生が始まります。しかし、ライブロックでは、ここまで運ばれる有機物は少ないので、この硫酸還元は活発ではなく、生じた少量の硫化水素も好気表面で、再び硫酸イオンに戻されます。(ライブサンドの場合は、下に有機物が多く進入する構造だと、嫌気層に大量の硫化水素が生じることがあります)

 水流が良くあたるライブロックの面積が広いほど、その下に広がる反硝化層も大きくなります。この反応が、ライブロック、ライブサンドにおいて行われれば、岩表面の硝化反応で生み出される硝酸産生を反硝化反応が上回って、水槽中の硝酸濃度は低く保たれます。(ライブサンドを使用する場合は、好気表面を確保するため、岩は半分以下の面積にのみに置くか、岩を小石で持ち上げ、下に水流を遠さなければなりません。)

 しかし、ウェット、ドライ濾過など硝化反応のみが行われる濾過システムが組み込まれている水槽では、なかなか硝酸は下がってきません。リーフシステムの場合は原則的に、従来の好気のみの濾過システムは設置しません。 

B)嫌気槽を用いた反硝化

 反硝化のみを行わせる嫌気層で、硝酸低減を計る方法もあります。密閉された嫌気槽に海水を導き、ここに人工的に炭素源を加えて、この炭素源を硝酸中の酸素でバクテリアに酸化させ、硝酸をを窒素ガスに変える方法です。ここで大事なことは、酸化還元電位Redox値を必ずモニターし、流水量と加える炭素源量のコントロールによって、−50〜−200mVに調整しなければなりません。
(流水量を増やせば、酸化還元電位は上昇し、炭素源を多くすれば電位は下がります。)

 −50mVより好気的だと、硝酸還元がほとんど働きません。また、−200mV以下にしてしまうと、上で述べた硫酸還元による硫化水素の大量発生を招いてしまいます。

 しかし、うまく維持できると大量の硝酸を処理できるため、餌やりの多い水槽の硝酸処理には向いています。また嫌気槽を設置したばあいは、リーフシステムの時と異なり、必ず強力な好気濾過を備え付け、嫌気槽からもどってきた水を好気濾過に通してから、本水槽に戻さなければなりません。決して、低酸素水を直接生物にあててはいけません。

 嫌気槽には処理海水の連続注水式と、間歇注水式があります。連続法ではゆっくりと海水を導き、炭素源として、乳糖を入り口で加え、出口近くで酸化還元電位をモニターします。

 私は、間歇式をオウムガイ水槽に取り付けています。本水槽200リットルに対し70リットルの嫌気槽を取り付け、本水槽に戻す前に、オゾンを曝気する小水槽を途中に組み込んでいます。
 嫌気槽には、1日2回30リットルずつの海水を取り込み、酸化還元電位を約−100mVに保つため、流入ごとに0.3mlのエチルアルコールを加えています。また、短絡回路を独立した小モーターで作り、内部攪拌としています。この事により、反硝化細菌が、70リットルの培養槽で脱窒を行うことになり、大量に硝酸を消滅させることができます。定常運転では、30リットル3ppmの硝酸(0.7ppmの硝酸体窒素)が数時間でほぼ0ppmになります。

 ここで注意が必要なのは、大量の硝酸を処理できるが、当然ながら餌をたくさん与える水槽では、リン酸は大量に残るという事です。私は、リン酸吸着剤を使用して対処していますが、嫌気槽を用いたシステムは、ミドリイシなどの好日性サンゴの飼育には向かないと思います。こちらは、ライブロック、ライブサンドを使ってより自然に硝酸処理を行うべきだと思います。
 しかし、魚、オウムガイ、陰日性サンゴのみを飼育する水槽では良いシステムです。(私のオウムガイ水槽には、カワリギンチャクを同居させていますが、薄暗いせいもあり、サンゴ水槽にいたときより元気です。)
 ある水族館では、ラッコの飼育に嫌気槽を使用しているそうです。


C)Plenumにおける、硫化水素と反硝化反応の共役

  Plenumなどにおいて、下部止水槽からゆっくり拡散してくる硫化水素は、必ずしもマイナス面ばかりでなく、利点もあります。
硫黄細菌のThiothrix属の細菌や硝化細菌科のThiobacillus thioparusは硫化水素の酸化でエネルギーを得、イオウ、硫酸に酸化します。       HS+1/2O→HO+S、 S+3/2O+HO→HSO 

 この反応で作られた、イオウやチオ硫酸塩はThiobacillus denitrificansが硝酸塩を酸化系とした酸化を行い、遊離窒素を放出します。        2/5HNO→ 1/5N+1/5HO+1/2O、 1/4H+1/2O+1/4HO→1/2HSO
 
 すなわち、ゆっくりと上方へ拡散する硫化水素は反硝化反応を助ける面もあるのです。これが、Plenumの利点です。
 ちなみに、硫黄細菌は、夜上昇し、昼下降するという日周性垂直移動を行います。