Eco System

2008年7月18日

EcoSystemで水槽をセッテイングしたのは2007年7月15日。ほぼ1年たちましたので、その報告と私なりのEcoSystemの解釈を書いておこうと思います。

EcoSystemとは

Leng氏が開発した、MiracleMudという泥質濾材をしき、藻類を繁茂させたRefugiumをシステムに組み込む海水生物飼育法です。
Refugiumの概念は以前よりあり、様々な方法で取り組まれてきましたが、それを商業ベースの「水槽製品」としてリリースされたのがEcoSystemです。
日本ではAMA-Japanが代理店で、今回はその出資者であり、ベルリンシステムなどのナチュラルスタイルを日本に広めたBlue Harborの和田氏にセッテイングしてもらいました。

強制通水システムと非強制通水システムについて

水槽には大きく分けて、濾材を突き抜けるように強制的に通水する方法と、水槽内に水流は作るが、水流は岩や砂に平行に流し、濾材に強制的に水を通さない方法があります。
前者が強制通水システムで、底面濾過方式、上部濾過方式、ドライ濾過方式など様々な形がありますが、濾材に通水させて、そこに住む硝化バクテリアで窒素を硝酸に変える方法と言う意味では同じシステムです。
それに対し、後者は非強制通水システムで、底に止水域を作るプレナム方式(モナコ方式)、スキマーを重要視するベルリン方式、それとEcoSystemなどが含まれます。
なお、もし、プレナムがあっても、スキマーがあっても、Refugiumがあっても、反硝化ボックスが併設されていても、濾材を水流が突き抜ける濾過が働いていれば、それは強制通水システムとなってしまいます。

強制通水システムと非強制通水システムにおいて根本的に違うのは「硝化反応にフィードバック作用があるかないか」という点です。
化学反応でも生物の代謝においても、その系に入ってくるものと出て行くものがあります。
当然ながら、入ってくるものが不足するか、出て行くものが蓄積すると、その反応や代謝は抑制されます。
水槽濾材、砂、岩に強制通水があるということは、硝化反応において原料のアンモニア、亜硝酸が常に多く供給され、硝酸が蓄積しないよう除去され続けるということになります。
この場合、系に入るもの、出るものに抑制がありませんから硝化反応にはフィードバックがかからず、大量の硝酸が発生します。
一方、非強制通水システムでは砂や岩の表面を水が流れますが、内部に原料を運び込んだり、代謝産物を運び去ったりする水流はなく、アンモニア、亜硝酸はゆっくりとした浸透によって砂や岩の内部に運び込まれ、硝化されます。
硝化によって砂や岩の内部に硝酸が発生しても、それは強制的に運び出されませんから、より深部で脱窒により硝酸が処理され、その濃度が下がるまで硝化反応は抑制されます。
すなわち、非強制通水システムにおいては、反硝化により処理された分しか硝化されないというフィードバックが働くため、水槽全体では硝酸濃度が低く押さえられます。
この点が、強制通水システムと非強制通水システムの根本的な違いです。
餌やりの量などによっても水槽の硝酸蓄積は変わりますが、基本的に強制通水システムより非強制通水システムの方が硝酸濃度が低く維持でき、高硝酸をきらうサンゴ飼育には非強制通水システムが適しています。

なお、強制通水は硝化バクテリアが十分発生していれば大量のアンモニア処理に向くので一般的にはサカナを高密で飼育するのに適したシステムです。
非強制通水システムでもサカナを乱舞させるほどの飼育は可能ですが、硝化と反硝化のバランスを取りながらゆっくりサカナを増やしていく必要があります。

Refugiumについて

RefugiumとはRefuge(避難、隠れ家)から来た言葉で、もともと生態学では、氷河期に暖地の生物が比較的高緯度でも海流の影響などで温暖な地帯に逃げ込んで、寒い時代をやり過ごしたその「避難所」を指していました。
一般に単数形のRefugiumではなく、複数形のRefugiaで使われます。
Aquarium界では、1990年代中頃、水槽でのプランクトン発生が重要視されたときに、魚などに食べられないようにプランクトンが避難、増殖できる場所という意味で使われ始めました。
最近、本水槽で飼えない魚の避難所の意味でRefugiumという言葉を使う方がいますが、それは本来隔離ボックス、併設水槽とでも呼ぶべきで、プランクトンを食べてしまうサカナを入れてはRefugium、Refugiaではなくなってしまいます。

EcoSystemでは、このRefugiaにMiracleMudという泥を敷き、海藻類を24時間照明で繁茂させ、プランクトンの増殖、Mudからのミネラル分供給を目指しています。
24時間照明は、本水槽消灯後の夜間におけるpH低下を防ぐことと、暗黒時に藻類から放出される黄色物質をなるべく出させないためという目的があります。

藻類について

Refugiaに藻類を繁茂させる目的は、リン、硝酸の吸収、胞子放出などの植物プランクトンの供給、およびそれを餌にする動物プランクトンの増殖と本水槽への供給、ミネラルの放出などがあります。
窒素の吸収がよい藻類としてRefugiaに望ましい海藻にChaetomorphaの海藻があげられています。Caulerpa属の海藻はいったん吸収した栄養塩を再放出する傾向があるので望ましくないとされています。EcoSystemには本水槽に海藻が戻らないための防止帯が設けられていますが、最初入れたウミブドウ(Caulerpa lentillifera)には、本水槽に進入されてしまいました。今後、その除去に手を焼くかもしれません。

私はウミブドウは除去し、コサボテングサHalimeda incrassata)を入れました。
鉄は一般植物においては鉄(U)がよく吸収されます。Mudの嫌気部分には鉄(U)が多く、植物の根、あるいは仮根がMudの中に伸びると、鉄がよく吸収されるようになります。その結果、水槽自体にも鉄を中心としたミネラル供給が増えるので、比較的よく仮根をMud中に伸ばすサボテングサを選んだのです。

なお、サボテングサの仲間ではコサボテングサが比較的低照度でも成長するので、蛍光灯のみの照明であるRefugiaに適していると判断しました。
ほかに、紅藻類数種、緑藻のミル(Codium fragile)も入れてあります。

ただ、プランクトンの足場としてはChaetomorpha属のような密集した藻類の方が望ましいかもしれません。
Refugiaに入れる藻類は現在模索中です。

Mudの成分

Mudには鉄を始め、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、珪素、ナトリウム、ストロンチウム、などのミネラルが含まれていますが、リンも含まれているようです。
後述するように、私の水槽は非給餌水槽ですが、立ち上げ後、半年ほどPO4-Pが0.01〜0.03ppmほど検出されました。これはMudからの放出と思われます。
半年以後は検出されていません。
なお、開発者のLeng氏はごく少量のリンは水槽維持に必要と考えているようで、Mudに少量のリンが含まれていることは認めていました。 


本水槽の底砂

Leng氏は本水槽には底砂をひかないか、ひいても1.5cm以下でいつでも吸い出せるようにしておくのが望ましいとしています。
厚い砂は、デトリタスの蓄積、ひいてはリンの放出源になること、また硫化水素の発生で水槽への悪影響を恐れてのことと思います。

しかし、私はライブサンドで約5cmの砂を本水槽にひいています。
私の水槽の場合、無給餌なのでリンの蓄積がされないこと、また砂の上に十分な水流が流れていれば、砂中の酸化還元電位の層序は保たれ、水槽中に硫化水素が漂い出したりしないことは過去の複数の水槽、実験でも確かめられていると考えるからです。
逆に、砂の深部で起こる硫酸還元による硫化水素発生はその上の層で行われる脱窒反応を促進し、有益であると思います。cf:反硝化
砂の上につもったデトリタスは砂中の生物によって砂の深くに運ばれ、そこで有機成分はエネルギー源として消費されますが、これも硫酸還元が起こっている砂層があった方がより有効に消費されます。
なお、ファインサンドの場合、およそ砂厚3cm以上の深さから硫酸還元は始まります。
ただ、餌やりが多い場合、デトリタスにリンが多く含まれ、シアノバクテリアの温床になることは考えられます。
給餌量とスキマーなどの除去能のバランスを考えるべきです。

スキマー

今回の水槽は無給餌水槽のためスキマーは設置していません。
しかし、給餌を行う方の場合、やはりスキマーがあった方がよいと思います。
ただ、EcoSystemではスキマー設置の場合でも1日数時間のみの間歇運転を進めています。
これは、折角のRefugiaからのプランクトンを漉し取られないようにするためです。
 

カルシウム、KHについて

カルシウム、KHの補充は今回の水槽でも、使い慣れたカルシウムリアクターを使用しています。
ほかに、Balling Methodという添加剤による新しい補充法がEcoSystemでは推奨されています。
EcoSystemに限りませんが、Balling Methodはカルシウム、マグネシウム、KHの維持に添加剤を使う手法です。
調整された海水に、3種の添加剤を、カルシウム、マグネシウム、KHを計りながら加えていきます。
私は、まだ使用したことはありませんが、サンゴの維持には実績があるようです。
ただ、リアクターではKHをモニターしていれば、ほぼコントロールできますが、Balling Methodではそれに加えて、頻回のカルシウム、マグネシウム測定が必要です。
多少の問題は、KHに比べて、カルシウムとマグネシウムは分離して正確に計るのが難しく、測定キットでばらつきが大きいことです。
私は、リアクター使用者で、カルシウムやマグネシウムはたまに測定するだけなので、検査機関に外注するのですが、専門の機関に頻回に測定を依頼するのは経費的に難しいでしょう。(1回1測定数千円)
Balling Methodを使用する場合は、検査試薬の癖を覚えて、サンゴの状態と照らし合わせて、その簡易試薬を使いこなす必要があると思います。
測定の労を厭わなければ、リアクターより省スペースで、初期投資の少ないカルシウム、KH維持法と思います。

なお、以前はサンゴの成長速度重視でKHを12以上など、非常に高めに維持するケースが多かったのですが、KHが高すぎるとサンゴの成長がいびつになったり、RTNが出やすい傾向があるので、今7〜8と自然界に近い値に維持しています。

照明

1KWを遙かに超えていた以前の照明より減らし、コーラルグロウ250W3灯のみの照明です。
これ以上の強化照明にすると、グリーンなどの蛍光サンゴの色が飛んでしまうので、やや抑え気味です。
なお、照明を抑えると、色素色のブルーやピンクが好く発色しない問題がありますが、上記の照明量で、硝酸、リン酸を極度に抑えると、黒ずみの抜けた鮮やかなブルー、ピンクの色が維持できます。
無給餌水槽にしているのは、栄養塩を下げて、適度な照明で蛍光色、色素色の両立を図る目的もあります。
また、適正KHと低栄養塩はサンゴの成長も制御しやすくなります。

サカナ

無給餌水槽ですが、水槽にはオヨギイソハゼ(Eviota bifasciata) 18匹、キンセンハゼ (Amblygobius hectori)1匹、スポッティドマンダリン(Pterosynchiropus picturatus)1匹を入れています。
これらは、水槽発生生物で維持されています。
このほかに小さなヤッコなら、無給餌でも維持できそうですが、LPSへの食害が懸念されるため入れていません。
ハナダイ、ハギは長期維持できませんでしたが、Refugiaプランクトンが増えたら再チャレンジしてみようかと思います。

(追記:7月29日、2ヶ月以上行方不明だったハナゴンベ(Serranocirrhitus latus)が、室内灯を消す直前にひょこっと出てきました。
背肉もしっかりとしていましたので、Eco水槽は少なくとも一匹のプランクトン食ハナダイを飼育できるようです)

水槽スペック

最後になりますが水槽設備のまとめです。

水槽サイズ;幅115cm、奥行き60cm、高さ73cm、ガラス厚15mm
水槽台;高さ80cm、塩ビ製、サンプ一体式
水槽照明カバー高さ85cm
海水量;460リットル
使用海水;ニチアク、島の天然海水(表層水)、週20リットル換水
照明;MT250W コーラルグロウ3台
リアクター;Knop、HD pHセンサーで制御
クーラー;ゼンスイZC-1000E
RO水補給は水位センサーにてスレージタンクより給水
吸着剤として、カーボン、リン酸吸着剤使用;週1回交換

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