アトピー性皮膚炎 

 アトピー性皮膚炎は本来小児の湿疹で、再燃を繰り返すものの年齢とともに自然治癒する疾患であったが、患者の増加、難治性、成人型への移行が問題となっている。 アトピー性皮膚炎の詳細な原因については、まだはっきりしていないが、表皮のバリアーの破綻による抗原進入の増加と感作、それによる炎症増悪、同時にアレルギー炎症によるバリアーのさらなる破壊、という悪循環が考えられており、本症の臨床像、治療の理解に役立つ。

 

A 臨床症状

 アトピー性皮膚炎の皮疹は、乳児期から幼小児期、成人期へと年齢とともに変化していき、皮膚科以外に小児科やアレルギー科など他科でも診療されているため、1994年日本皮膚科学会よりわかりやすい診断基準が発表された。 この診断基準にそうと、(詳細は成書を参考にしてください。)

1)掻痒 (過敏性、易刺激性、バリアー異常)
  夕方から夜間に強くなり、時には睡眠が妨げられるほどである。
 
2)特徴的皮疹と分布
 皮疹は湿疹病変(急性病変、慢性病変)
 分布(左右対側性、年齢による特徴)

 乳児期:前額、頬部から耳前部にかけ、湿潤性紅斑(ジュクジュクした滲出液のある赤い斑点。)、丘疹(ぽつぽつした皮膚から盛り上がったもの。)、鱗屑(ふけ様な皮膚の剥離)、痂皮(かさぶた)を生じ、多くの掻破痕を伴う。しばしば体幹、四肢に下降。

 幼小児期:湿潤性が減り、乾燥性となり、四肢関節部、頚部、体部などでは著明な苔癬化紅斑(皮膚のきめが荒くなり、硬い感じ)を呈し、掻破痕、痂皮も目立つ。耳切れや前額部の苔癬化もこの時期におこりやすい。

 思春期、成人期:上半身に皮疹が強く、苔癬化紅斑がさらに拡大し小児期に比べ痒疹性丘疹(虫刺され様なしこり)が目立つ。掻痒、皮疹が長期に持続するため、二次的な浸潤、肥厚、色素沈着、色素脱失などを伴う。

3)慢性反復性の経過(しばしば新旧の皮疹が混在する。)
  定型的皮疹が乳児では2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上続いたらアトピー性皮膚炎と診断する。
 

 B 検査

1)家族歴、既往歴、合併症
  気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、蕁麻疹の頻度が高い。

2)一般血液検査 病勢の把握に必要となる。

a)末梢血好酸球
 皮膚症状の増悪時に増加する。
 
b)血清LDH
 アイソザイムのLDH5が湿疹病変の範囲を知る目安となる。

c)血清IgE
 アトピー性皮膚炎で罹患期間が長くなると病勢に比例して高くなる。

3)増悪因子検索に必要な検査

a)スクラッチテスト 即時型反応のアレルゲンの検出
 アレルゲンを皮膚の上に滴下し、細い注射針で傷をつけアレルゲンを真皮内に吸収させる。通常は15分後に判定する。

b)皮内反応
 皮内試験用のアレルゲン試薬を皮内注射器で皮内に投与する。

c)RAST
 アレルゲンに対する特異的抗体 ( IgE)の検出

d)パッチテスト
 アレルゲンの検索

e)食物誘発試験
 食物アレルギーが増悪に関与しているか検討

C 治療

1)悪化因子の除去

a)アレルゲンの代表であるハウスダスト、ダニの増加を抑制する。こまめな掃除、防ダニ製品の使用、空気清浄機の使用、冷暖房機のフィルター掃除、湿温度調節。

b)食餌抗原については、摂取後に明らかな悪化がある場合に関して制限。5〜6歳ごろまでには食餌アレルギーはかなり少なくなる。

c)ストレス、睡眠不足、アルコールの摂取、感冒の罹患、過度の運動、等々による悪化が見られ、これらを避けるようにする。

2)スキンケア

a)皮膚の温度調節や汗へのケア
 汗をかいたり、急に体温が上がると痒くなるため、室温と外気温の差を少なくし、熱いお風呂には入らないようにする。夏場には汗をかいたら早めにシャワーを浴びる。皮膚の清潔のためには石鹸、シャンプーの使用が必要であるが、低刺激性のもの(ベビー石鹸やアトピー用のもの)が良い。洗う際には柔らかめのタオルか、手のひらで十分泡立ててなでるように洗い、決してごしごし擦らないようにし、すすぎは十分にする。

b)化粧品、保湿剤
 皮膚バリアー保護の目的で乾燥傾向の強い場合、保湿力のある外用剤として尿素剤、吸水軟膏、ワセリン、ヘパリン類似軟膏、ヒアルロン酸、コラーゲン、スクアラン含有製品などを使用する。皮疹が落ちついているときこそ必要である。保湿作用を持つ入浴剤も有効である。
 香粧品は顔面の保湿効果を持ち有用なこともあるが、香料、色素、保存剤、界面活性剤による接触性アレルギーや刺激反応を引き起こし皮疹を悪化させることもある。パッチテストなど行ないながら、低アレルギー性化粧品(無香料、低刺激性)の使用する。

3)外用剤

a)ステロイド剤
 皮疹の炎症を止めるために、必要不可欠の治療薬である。ステロイド外用剤は薬剤の皮膚吸収力、反応力により五段階のランクに分けられている。症状の程度、皮疹の発生部位、年齢によりステロイドの種類を選択する。重症の場合にはvery strong以上の薬剤選択もありうるが皮疹の改善に伴い、弱いステロイド剤に変更が必要であり、皮疹の状態を見ながら強弱の外用剤の使い分け、ステロイド剤の副作用の発生を防ぎ、さらに皮疹が軽快したら、非ステロイド剤や保湿剤への移行、併用となる。症状が悪化しているのにステロイド剤の副作用を恐れるあまりの使用拒否は、かえって皮膚へのダメージが増すばかりである。 

b)非ステロイド消炎外用剤
 皮疹の状態が軽症の場合、あるいはステロイド剤が使用できない場合の補助療法として使用される。まれにアレルギー性接触性皮膚炎や薬剤性光線過敏症が見られることもあり、注意が必要である。

c)その他の外用剤、保湿剤 前記参考

4)内服剤、全身療法

a)抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤
 掻痒をとめる作用を有する抗アレルギー剤を用いることが多い。重症あるいは中等度の場合は症状が落ち着いてもある程度継続内服が必要である。

b)漢方薬
 十味敗毒湯、小柴胡湯、消風散、白虎加人参湯等々が使用されている。

c)皮膚の細菌や真菌に対して抗生剤、抗真菌剤が投与されることもある。