Aiptasia セイタカイソギンチャク


 

初めに

 NaturalSystemなどサンゴなど熱帯無脊椎を飼育する水槽で、一度進入されたら、その増殖力に手を焼く困った生き物に、Aiptasia(セイタカイソギンチャク)があります。
 この厄介者のイソギンチャクは以前、ある雑誌で「カーリー」と紹介されてから、そう呼ぶのが広まってしまいましたが、これは別のイソギンチャクに付けられた名前で誤用です。初めに、そのことについて触れておきたいと思います。

 Aiptasia属のイソギンチャクは英名GlassAnemone RockAnemoneで、 和名はセイタカイソギンチャクです。一方名前が誤解されたイソギンチャクにBatholomea annulataがあります。この英名はCurley-cueAnemoneでカールした玉突き棒(触手)のイソギンチャクの意味です。Batholomea annulataは名前通り、触手がカールしていて白い輪状模様があります。
(THE REEF AQUARIUM vol.2より。以下THE REEF AQUARIUM:TRAと略)
 Aiptasiaも縮んだときにやや触手がカールしたり、薄い縞模様が見える個体がありますが、AiptasiaBatholomea annulataはTRA vol.2のp370、371を見る限りはっきりと区別できます。
 日本で、「カーリー」と呼ばれているイソギンチャクは今まで見た写真、水槽では全てAiptasiaセイタカイソギンチャクでBatholomea annulataは見たことがありません。通称といえど誤用に基づいた名前は混乱のもとですので、真のBatholomea annulataが輸入されたときは別として下の写真のイソギンチャクはAiptasiaかセイタカイソギンチャクと呼ぶのが望ましいと思います。

Aiptasia sp セイタカイソギンチャク」、右は大きめの個体、左は破片から発生した小さめの個体。この写真の個体はやや色が薄いがもう少し濃色の個体も多く、触手はより長いのが普通。

 Aiptasiaについて書かれた本では、以下の3種名がありました。
  Aiptasia pallida TRA vol.2
  A.pulchella TRA vol.2
  A.insignis 「日本海岸動物図鑑」

 この3種の見分け方はわかりません。ただいずれのAiptasiaも水槽内、富栄養化した海ではきわめて旺盛な繁殖を示します。取り去ろうとピンセットで摘んだとき、破片が飛び散れば、その破片からでも増殖し、残った根本からも容易に再生します。放置しておくと、ひとりで移動し(時に水流に乗って移動)元の位置に残した少しの組織からも再生して増えます(まるで癌細胞の転移のようです)。餌も手には入ればよく食べ、餌がなくても褐虫藻と共生しているため成長できます。光の強弱に対しても順応性が高く、メタルハライド直射下でも日陰でも定着成長します。
 刺胞毒はミドリイシなどのハードコーラルより一般には弱いですが、ほとんどのソフトコーラルよりは強く、スターポリプの絨毯などに進入すると、周りのスターポリプは開けなくなり、やがて衰退します。
 繁殖力の強さ、取り除くことの困難さより、Aiptasiaは水槽の「ペスト」と呼ばれています。

対処法

1)入れない
 一番大事なのは、水槽に進入されないということです。幸い、未だAiptasiaに水槽が汚染されていない人は、写真や、一番良いのは実物を見て、Aiptasiaをよく覚え、それの付いている岩や、サンゴを自分の水槽に入れない事です。また、念のため、Aiptasiaの存在する水槽からはたとえ買う対象には付いていなくても、購入しないことです。 Aiptasiaは肉眼では見えない小片からでも再生することを忘れずに。
 もし、気づかずに買い、水槽に入れてからAiptasiaに気づいたら、その購入物ごと廃棄して下さい。私がAiptasiaに進入されたとき、サンゴを捨てるのに忍びなく、Aiptasiaの付いているところとその周りを十分に熱湯につけましたが、なんと2,3ヶ月後にそこの部分からAiptasiaは出てきたのです。岩の奥に潜んでいる眼に見えないAiptasiaは長時間煮る、薬品に付けるでもしない限り殺せません。

2)Aiptasia食の魚を使う。
 ヤッコ、チョウチョウウオのほとんどはもしAiptasiaが食べ物だと気付きさえすれば食べてくれます。ただ、サンゴにも手を出す可能性があります。
 チェルモン(Chelmon rostraus)は比較的サンゴよりAiptasiaを好みます。ただ、私の経験では、チェルモンは餌付きが難しいサカナでAiptasiaを食べるようになるのは数匹に1匹です。一般にサカナは幼魚の方が餌付きやすいですが、チェルモンはやや大きめの個体でないと餌付く前に体力がつきてします。Aiptasiaを食べるようになったチェルモンは大きめのAiptasiaを食べ尽くすと小さいものを襲わず、今度はサンゴの捕食者になってしまいました。ハナガタ、ヒユサンゴなどはすぐむしられます。
 アズファー(Pomacanthus azfur)の幼魚も試しましたが、サンゴにてを出すようになってしまいました。(アズファーとAiptasia
 残念ながら、サンゴを害さないAiptasia食のサカナはいないようです。

3)エタノール注
 純エタノールを注射器でAiptasiaに注射して殺す方法です。注射法一般に言えることですが、うまく体腔内に注入しないと効果がありません。エタノールは薬液として効果的ですが、300リットルの水槽で10ml以上使うと次の日から2,3日軽い水の白濁がありましたが、水槽生物には異常は見られませんでした。

4)過マンガン酸注
 強力な酸化剤である過マンガン酸を注射して殺す方法です。過マンガン酸はRedox Plusの商品名で販売されています。この方法を開発したのは森川英樹さんです。詳しくは森川さんのHPをご覧下さい。http://www.teleway.ne.jp/~morikawah/ridaiptasia.htm
 
5)水酸化カルシム注
 アルカリは蛋白溶解作用があるのでこれによりAiptasiaを殺傷する方法です。水酸化ナトリウムや水酸化カリウムはその陽イオンが水槽に蓄積されるのに対し水酸化カルシウムはKalkwasserとして水槽に入れるくらいですので一度に大量でない限り無害です。ただし、エタノール、過マンガン酸注にくらべてAiptasiaを殺す力はあまり強くありません。

6)Stop Aiptasia注
 水槽に無害なAiptasia退治の薬品として販売されています。成分は唐辛子の辛み成分であるカプサイシンです。高濃度のカプサイシンは粘膜傷害作用があるので、それを利用するものと思います。また、重金属などは含みませんので、使った分、漏れた分はやがて水槽内で分解されてしまうでしょう。
 ただ、効果の程は、私は使用経験がないのでメールからの伝聞のみ書いておきます。
 振りかけただけでは、一時小さくなるだけで殺せないそうです。注入した時もすぐ死ぬという効果は無かったそうです。量と濃度の問題かも知れません。

7)吸引
 私が一番使いやすかった針は金属針より20Gの静脈留置針(長いプラスチック針)でしたが、吸引に強い陰圧が必要で、2.5mlシリンジでは吸えましたが、5mlシリンジ以上では吸い切れませんでした。また、岩のくぼみに引っ込んでしまったのは手を出せませんでした。

8)ペパーミントシュリンプ
 ペパーミントシュリンプと呼ばれているエビには2種類があります。
a)Rhynchocinetes uritai サラサエビ
 TRAでは「Aiptasiaを補食するがサンゴにも手を出す。」とされていますが、私が数匹を水槽に入れたときには、サンゴにも手を出さない代わり、Aiptasiaも食べてくれませんでした。
b)Lysmata wurdemanni
 ホワイトソックスやスカンクシュリンプを含むLysmata属のエビです。このエビはTRAでは「クリーニングシュリンプでAiptasiaを食べてくれない」となっていますが、うちに3匹入れたとき、Aiptasiaを食べてくれたのはこちらの方のペパーミントシュリンプでした。Lysmata属の中ではこのエビは小さく他のLysmata属のエビ、特にスカンクシュリンプと一緒にすると補食されてしまうそうです。また、甲殻類のシャコや補食性の強いサカナにもやられてしまいます。そのためか、夜行性が強く水槽照明を消しても、時に岩の陰に見えるだけであまり出てきません。
 私が入れたのは3cmほどのやや小さめのLysmata wurdemanniでした。入れた当初ほとんどAiptasiaが減った感じがしなかったのですが、投入後1ヶ月ほどで小さいAiptasiaはぐっと少なくなりました。たまたま、Lysmata wurdemanniAiptasiaを襲ったのを目撃したときは、大きめのAiptasiaは少しひっぱてみるだけでしたが、小さいAiptasiaに対しては小片をちぎり取っていました。1回に2,3回アタックをかけ、他のAiptasiaに移っていきました。このような攻撃を毎晩繰り返した結果、小さいAiptasiaが消滅していったものと思われます。Lysmata wurdemanniAiptasiaをちぎる様子は、スカンクシュリンプが人の手をクリーニングする時に軽く摘むように引っ張りますが、その様子とそっくりでした。
 4cmほどの大きめのLysmata wurdemanniは大きいAiptasiaをやっつけてくれたという報告もあります。いま、Aiptasiaの生物的コントロールでは日本で手に入るLysmata wurdemanniを使用するのが、時間がかかりますが、最も効果的と思われます。

Lysmata wurdemanni 
模様はキャメルシュリンプにやや似ていますが、吻端の構造はRhyncocinetes属とは異なりLysmata属です。
Rhyncocinetes属は他のエビと異なり額角の根本に関節があり、吻端を動かすことができます)

9)Aiptasia食のウミウシを使う方法
 TRA vol.2p426,427で紹介されているAiptasiaを補食するウミウシBerghia verrucicornisは養殖が可能になったという事で日本にも供給されるようになるかと期待していましたが、1999年6月現在、日本では販売されていません。同属のウミウシにBerghia japonicaヤマトワグウミウシというウミウシがいます。西日本の藻場にいるそうなので見つけた人はAiptasia退治に試されてみてはいかがでしょうか?
参考に森川さんから頂いたBerghia verrucicornisの写真を載せておきます。

Berghia verrucicornis(森川氏提供)

最後に
 Berghia verrucicornisが入手難の現在、Lysmata wurdemanniを入れAiptasiaの数のコントロールを計り、大きなAiptasiaは人力で組織を散らさないように取り除くというが最善ではないでしょうか?

 私のAタンクで大きい物が数十、岩やスナギンチャクの隙間にびっしり付いた極く微少な物も入れると、推定1000個体ほどもいたAiptasiaLysmata wurdemanni投入と人力での吸引、薬品注で見かけ上3ヶ月で10個体ほどになりました。ここで(5月中旬)ライブロックの総入れ替えをし、ソフトコーラルの移植、ハードコーラルの隔離検閲後の再投入により、Aiptasiaは現在(6月12日)のところいなくなりました。しつこいAiptasiaのことゆえ、もう2,3ヶ月様子を見ないと断言できませんが、Aiptasiaを根絶できたかも知れません。

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