怪奇 クラゲルゲの恐怖

後編

作:いっぱんじん様


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この化け物はしゃがみ込み、十字架の下に溜まった白いクリームをズルズルと音を立てながらむさぼっていたが、それも吸い尽くすと、ゆっくり立ち上がり、再びあの奇怪な声で
「クゥラー、クゥラーッ」
と叫びながら女性達を見回した。
節子は目の前で繰り広げられた、信じ難い出来事にただぼう然と震えていたが、この化け物があの女性1人ではとうてい満足できず、次の獲物を選ぼうとしていることを知った。
他の二人の女性も、次の誰かにあの女性と同じ無惨な運命が待っている事を悟り、
「おねがい、助けて…。」
「いやっ、いやっ」
と泣きだしている。
再びドルゲが口を開いた。
「愚かな人間の女ども、お前達に一度ずつだけ助かるチャンスを与えてやろう。今からお前達を1人ずつそこから解放する。そして1分間クラゲルゲから逃れられた者は自由の身となり元の人間界に戻れるのだ。」
節子の心には
(もしかしたら助かるかも。あの化け物は動きが遅いし…。)というかすかな希望が浮かんだ。
先ほどまで泣きじゃくっていた他の2人の女性も頭を上げ、心なしかそわそわして見えた。
ドルゲは片手を上げると
「まずはお前からだ。」と他の2人の女性のうち、1人を指差した。

「ドーン」
とその女性の柱の後ろで煙が上がると手枷足枷が外れ、その女性はよろけるようにして柱から解放された。
長めのストレートの髪に、紺色の襟付きのデニム地のワンピースに白いカーディガンを着ている、ややおとなしそうな女性で不安そうにあたりを見回している。
(ああ、いいなぁ)と節子は思わず考えてしまった。
「よーし、お前は今から1分間、クラゲルゲから逃げ切れば助かるのだ」
クラゲルゲは女性から30mは離れたところにいる。でも上手く逃げ切れるのだろうか。節子達が固唾をのんで見守る中、ドルゲが10秒ずつカウントダウンを始めた。
そして
「50秒経過。」と言ったとき、まだクラゲルゲはうろうろ逃げ回るこの女性の方に向きを変えているだけでほとんど近づいていなかった。
この女性もさすがに何か上手くいきすぎていると感じているのだろう、必死な表情の中に不安感が増してきている。
そして女性がやや動きを少なくしたその瞬間、クラゲルゲは何かをこの女性に向かって投げつけた!
「きゃぁーっ!」
女性は大きな悲鳴をあげた。
右額と左手、右足首に何か半透明な固まりが貼りついている。よく見るとそれは直径15センチ位の子クラゲだった!
その場に倒れ込んだ女性は
「ああっ、苦しい...」ともがいている。
クラゲルゲがゆっくり近づいてくる。
節子はもう直視出来ずに顔をそむけた。
「クゥラー、クゥラーッ」
「あ、いやっ、 ああっ、ああっ…ぐふっ、あっ、いやっ、誰か助けて、ああっ…。」

「クゥラー、クゥラーッ」
「あふっ、あぁっ….。」
あたりが静かになりしばらくすると
「ズズーッ、ピチャ、ピチャ」という音しか聞こえなくなった。
しばらくして再び
「クゥラー、クゥラーッ」と声がした。
節子が恐る恐る顔を上げてみると、クラゲルゲはもう立ち上がっており、足下にはあの女性が肉体の全てを栄養分として吸収され、濡れたワンピースとカーディガンを着た白骨死体と化し、白い液体の水たまりの中に横たわっていた。
ドルゲは
「素晴らしい。人間の美しい若い娘が、醜いお前の栄養分としてドロドロに溶かされてゆくさまは実に素晴らしいぞ。まだ2人残っている。十分楽しませてくれ。」
節子は恐怖と絶望のあまり、十字架に縛りつけられたまま泣きだした。
(もうだめだわ。逃げてもこのクラゲの化けものに食べられてしまうだけ…。)
向こうからも小さくすすり泣きの声が聞こえる。
「人間の娘ども、今の女は最後に油断があった。今度は二人同時に逃がしてやる。お前達のうちどちらかは逃げ切れるかもしれないぞ。」
ドルゲはそう言うとさっと手を
かざした。
「ドーン!」
両手両足に衝撃を感じるとフッと体が自由になり、節子はよろけながら十字架から解放された。もう1人の女性の方を見ると彼女も同様に解放されている。
二人は思わず駆け寄り、手を取り合ってクラゲルゲから最も離れた洞窟の壁に寄り添った。女性は節子より少し年上に見えた。
ピンクのブラウスに袖と襟にこげ茶の縁のあるうす茶色のカーディガンを羽織り白っぽいスカートをはいている。

(出口はどこ?)
二人は必死になってあたりを見回したが、広い洞穴には出口らしきところはどこにも見つけられなかった。
やはり節子達もクラゲルゲから1分間逃げ回るしか生き残る道は無いのだ。
「クラゲルゲ、始めろ。」ドルゲの声が無情にも響いた。
今度はクラゲルゲは最初から子クラゲを節子達に投げつけてきた。それを2,3回なんとかかわしたときだった。
 
「あっ!」
女性が叫ぶと同時に倒れ、節子もよろけた。
女性の片足のくるぶしのあたりに子クラゲが貼りついている!

「いやぁっ!いやっ!」
女性は必死になって子クラゲをはがそうとしているが、少しずつクラゲルゲがこちらへ向かって来ていた。
節子も勇気をふりしぼり女性の手を取り再び一緒に逃げようとしたが、もう女性は泣きながら
「足が動かないの!」と訴えるのみであった。
そして近づいたクラゲルゲが
「クゥラーッ」とひときわ大きな叫び声を上げ、節子も思わず後ずさりした時、この化け物の吸盤状の口から
「しゅーっ」という音とともに白っぽい粘り気のある消化液が女性に浴びせられた!
「ぷふっ、うぅっ…」
白いドロドロの中でもがく女性に向けて、さらにクラゲルゲは何度も消化液を浴びせかけた。
「ドチャッ」
ついに女性は白い消化液の水たまりの中に仰向けに倒れ、動かなくなった。
彼女もブラウスやカーディガン、スカートを着たまま、火の前に置かれたロウ人形のようにどんどん溶けていった。
やがて白いクリームの中から白骨が姿を現しはじめた..。


「あ、ああっ…。」

自分の目の前で起きている惨劇に節子はぼう然とへたり込こみ、失禁してしまっていた。
クラゲルゲは女性が溶けるのを見届けるとそこにしゃがみこみ、白いドロドロを両手の触手や口で残らず吸収した。
そして立ち上がると、ついに節子の方に向かってきた。
ハッと我に返った節子は
「いやあっ!」と逃げ出そうとするが、クラゲルゲは両手の触手で節子をたやすく捕らえた。そして片方の触手で節子をしっかり巻き絞めると、もう片方の触手をスカートの中に入れ、グッと彼女の肛門に差し込んだ!
「うぐっ!」
さらにクラゲルゲは巻き付けた方の触手の先を節子の口にも入れ、節子の体内に消化液を注入した!
「うっ、ううっ!」
口の中と肛門に焼け付くような痛みを覚えた節子は、捕らえられた魚のように何度もビクッ、ビクッ、と痙攣したが、クラゲルゲはかまわず消化液を節子の体内にどんどん注入していった。
痛みはやがてしびれる感覚にかわった。もうろうとなった意識の中で節子はもう苦痛を感じなくなっていた。
やがて全身が湯につかった様な何とも言えない気持ちの良い感覚に包まれていった。
(ああ、私死ぬんだわ…。)
節子の意識はそこで途切れた…。
彼女のVネックセーターとポロシャツの襟元とスカートからは白い泡とドロドロの液体がとめどめなく流れ出し、クラゲルゲはそれを残らず吸収した。
やがて節子も溶解液と彼女が溶けた液にまみれたVネックセーターとポロシャツ、スカートをまとった白骨死体と化した。
節子や他の3人の女性の白骨死体はアントマンによってドルゲ洞の奥にあるゴミ捨て場に運ばれ、女性ばかりの骨の山に捨てられた…。

女性達の栄養分をたっぷり吸収したクラゲルゲはひとまわり大きくなった。そしてバロム1に倒されるまで、多くのうら若き女性達がこの化け物の犠牲者となってしまったのである。



 
(おわり)