風が運ぶもの

『おままごと』は女の子の遊びの定番だが、私も例にもれずしていたけれど嬉々として楽しんでいた訳ではなく、本当は兄や兄の近所の友だちとする、怪しげな住みか作りやらかび臭い防空壕跡の探検やらの方が面白く、好きだった。ままごとの役割は、何故か、どのグループとしても、もめることなくすんなり決まっていたような気がするから、不思議だ。ある日のメンバーは、初顔合わせの子供ばっかり、しかも私より年上の子供ばかりだった。私の家から少し離れた伯父の家に預けられた時のこと。当然私の役は、その家の子供という設定。ごはんに見立てた草の実やら葉っぱを、ちっちゃなままごと用の器に盛って、母親役の子供が『さあ、いっぱい食べなさい』なんて一端のことを言う。おなかいっぱいになったら『お昼寝』を強要される。日差しがようやく明るく強くなり始めたまだ駆け出しの春の日だったが、風がとても強かった。母親(役)の膝を枕にござの上に横になって目をつぶる。(寝たふりをしないと怒られる)時々薄目を開けると次々に強風に流される雲がござに影を落としていくのがわかる。小さな小さな世界が一瞬闇になり、またまぶしい光に包まれる。暖かい膝の温もりを感じながら私はこの繰り返しを、いつかまた違う形で感じることがあるかもしれないと、思っていた。風の強い日、流れる雲が大地に影を落とすと、遠い遠いあの日を連れてくる

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ハンドルを回すと何の装飾もないHAPPY BIRTHDAYのメロディーが心にしみます

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