緊急アピール
政治家の不正・腐敗も取材禁止!
社団法人 日本雑誌協会
2003年4月
いま戦争報道の陰で、言論・表現の危機が
迫っています。
新聞・テレビではあまり報道されません
が今国会で新「個人情報保護法」案が短期
間審議で、強行されようとしているのです。
昨年メディア規制法案のひとつとして、新
聞・放送・出版・通信各社や多くの作家・
ルポライターなどが反対して廃案になった
法案が、装いを新たにまた提出されてきた
のです。
今度は反対されていた昨年の法案の「基
本原則」を取り払うなど一定の配慮はなさ
れています。しかし、言論・表現の自由に
関わる最も重大な条文は改悪されたり、厳
しい規定が盛り込まれたりしているのです。
まず、個人情報保護法案の適用除外規定の
基準となる「報道」の定義が「不特定かつ多
数の者に対して客観的事実を事実として知ら
せること(これに基づいて意見又は見解を述べ
ることを含む)」という極めて狭義なものとさ
れ、この概念通りに主務大臣が「報道か否か」
を決めるとなると、万人が知るニュース報道と
その論評以外は、すべて「報道ではない」と判
断されかねません。
出版社の発行する週刊誌、月刊誌、写真
誌などは「客観的事実を事実として知らせる」
だけの媒体とはいえません。むしろ、誰も気
づかない、隠された事件の真相や政治家の汚
職、不正、道徳的堕落などを取材して記事に
することがメディアとしての使命と考えてい
ます。
これは極めて手間暇のかかる仕事です。誤
解を恐れずに言えば個人情報の積み重ねなの
です。そのいわば「予備取材」「先行取材」の
段階で「報道」の概念を適用されるとどうな
るでしょう?たちまち「個人情報保護法」違
反で、主務大臣のストップがかけられます。
不正を調べ始めることさえできなくなります。
昨年から今年にかけて辞任が相次いだ政治家
の数々のスキャンダル報道などは、そのほとんど
が雑誌記事なのです。だからでしょうか、
個人情報保護法の適用除外規定には「放送
機関・新聞社・通信社・その他の報道機関
(報道を業とする者)」としか記されず、
「出版社」「雑誌」は明記されていません。
法律の解釈・運用は条文に記されているか
否かがすべてです。「雑誌を黙らせる」政
治的意図を見て取るのは、われわれの杞憂
でしょうか。
日本には憲法二十一条の一項「集会、結
社及び言論、出版その他一切の表現の自由
は、これを保障する」という民主主義を支
えるテーゼがあります。いまそれが風前の
灯火なのです。巨悪の逃げ道を公然と作っ
てよいのでしょうか?
壷宏士
週間金曜日2002年12月13日号
住民基本台帳ネットワークシステ
ム(住基ネット)の利用範囲を大幅
に拡大する内容を盛り込んだ電子政
府(行政手続きのオンライン化)関
連三法案が(2002年)12月6日、
衆院本会で与党会派などの賛成多
数で可決され、成立した。
三法の目的は、2003年度まで
に、書面で行なっているほとんどの
申請・届け出の手続きなどを、原則
としてインターネットなど電子的手
続きでも可能にしようとするものだ。
オンライン化に関する二つの法律と、
都道府県が国民を対象に電子証明書
を発行する公的個人認証サービスを
行なう一つの法律で構成されている。
住基ネットで利用できる事務は、
住民基本台帳法(住基法)の別表に
列挙されており、この別表の改正が
今回大きな批判を浴びた。
住民票の写しや現況届の提出につ
いては、住基ネット経由による本人
確認に置き換えることとし、現行の
93件に、厚生年金支給、パスポー
トの申請、自動車の登録など給付や
資格に関する171件を追加し、
264件に増やした。3ヶ月以内に施
行される予定だ。
本来であれば、別表改正は単独法
案として提出すべきだが、総務省は
電子政府関連三法に紛れ込ませた。
総務省のある関係者は「旧自治省
(総務省自治行政局)が、単独で提
出しては通りそうもないと判断して、
潜り込ませた節がある」と明かす。
一括して賛否を問う法案の中に隠し
てこっそり通す、という総務省の思
惑は、見事に成功を収めたわけだ。
東京都杉並区や福島県矢祭町を
はじめ五つの地方自治体が離脱する
など、住基ネットが稼働当初からつ
まずきを見せる中で、政府が利用拡
大を急ぐ背景には、住基ネットを基
盤にした電子政府-自治体の整備を一
層進めることで、自治体に対して
新たな離脱を防ぐとともに、住民に
利便性をアピールし、「不要だ」とす
る国民からの批判をかわす狙いがあ
るとみられている。
こうしたなし崩し的な拡大に対し
ては、自民党内からも批判が出てい
る。(略)
総務省の思惑どおり進んだ背景に
は、野党側の認識不足も指摘されて
いる。「率直に言って、与野党対決
法案になるとの認識がなかった」(あ
る民主党幹部)
(略)
内藤正光・参院議員(全電通出
身)が先月(2002年11月)21日の
参院総務委員会で「IT化を推進する
ものとして評価をさせていただきた
い」と発言したように、住基ネット
の利用拡大に賛成する意見も少なく
ない。このため特に参院では与党ぺ
ースの議事進行にブレーキがかから
なかった。
民主党は世論の強い批判を受け、
参院を通過した後の衆院段階になっ
てようやく、別表改正案の削除や住
基ネットに基盤を置かない公的個人
認証サービスとすることを柱とした
修正案を提出したが、あまりに遅す
ぎた。
(略)
最後に、国会の無責任ぶりも指摘
しておきたい。衆院地方行政委員会
は1996年6月に「システム利用
の安易な拡大はしない」と附帯決議
した。にもかかわらず国会は、来年
(2003年)8月の本格稼働を前に早く
も拡大することを認めてしまった。
しかも、衆参両院を合わせた委員会の
審議時間は、わずか18時間。全地方
自治体が関係する法案にもかかわらず、
参考人質疑や公聴会も実施しなかった。
今回は衆参両院の総務委員会で
「安易な利用の拡大を行わない」と
附帯決議をしたが、国民総背番号制
への歯止めとなるかどうかはきわめ
て疑わしい。
国会の見識も問われている。
だいひろし・『毎日新聞』記者。主著に
「危ない住基ネット」、『個人情報保護法の狙い』
(ともに緑風出版)。
☆個人情報保護法と人権擁護法案は
国家管理強める狙い<中坊公平> 毎日社説2002/5/6
個人の生活を外部からみだりに見られないというプライバシーの権利は、すで
に判例で法的な保護を受けるものとして認められ、定着している。名誉棄損の場
合は民法の損害賠償、感情を害された場合は刑法の侮辱罪など救済措置もあり、
既に法体系として確立されている。メディアを対象に、さらに法をつくる必要は
全くない。
個人情報保護法案と人権擁護法案は「個人情報の保護」「人権の擁護」との美
名の下、別の意図をもって生まれたと考えるべきだ。国家が個人の情報を管理し
よう、国民から情報を遠ざけようとすることに本当の狙いがある。メディアは
「報道の自由」の観点から反対を訴えているが、メディア規制よりも、もっと根
深いものがある点への言及が足りない。
なぜ、今そうした法案がでてくるのか。
21世紀がどうなるのかを考える時、私は「リメンバー(思い起こせ)20世紀」
と言っている。
20世紀が始まってから1945年8月15日までの「戦前」と、それ以降の「戦後」
は非常に似通っているのだ。
1904年から始まった日露戦争で日本は当時の大国・ロシアに勝ち、世界の列強
に仲間入りしたが、29年のニューヨークの金融大恐慌で不況になり、その後、内
閣も次々と代わる混迷と閉塞感の時期に入った。人々は誰もが景気の回復だけを
求めた。治安維持法が作られ、戦争への道をひた走り、第二次世界大戦に突入し
た。軍部が悪いという人がいるが、一番悪いのは国民だ。不景気さえ脱すること
ができれば、と国民が心の底から望んだ結果だ。
「戦後」はどうか。原子爆弾も落とされ、日本は滅んだも同然だったが、奇跡
的に急成長し、国内総生産(GDP)でも世界第2位になり、経済大国になった。そ
れがバブル崩壊後、再び景気が悪くなって、今また社会には閉塞感が充満してい
る。
有事法制と個人情報保護法案などが車の両輪としてでてきたのは、国が戦争を
準備するためのものに他ならない。滅国への道を歩むかどうかの岐路にあり、国
家のあり方が問われているという認識が今、国民にあるのだろうか。
日本は国土の7割が森林に覆われ、自然を味方とする「森林文化」だ。その最
大の欠陥は、見通す力が弱いことにある。木々をかき分けていくため、手先は器
用で、目先のことには対応できるが、歴史の文脈でモノを考え、判断する力がな
い。一人一人が自立できず、観客民主主義に陥る。道徳観もなく、手段が目的化
してしまう。
戦争当時を知っている人が減って「戦前」の記憶が薄れているのかもしれな
い。歴史は間違いなく繰り返す。半世紀前に同じ歴史があったことを忘れてはな
らない。