お酒の社会学
チョン・ヤンイ
お互い年末年始、お酒を飲む機会が増える。日本酒、ビール、ワイン、ウイスキーなど我々は消費者として接してきた。ここらで消費者から生産者へと転換しませんか。えーそんなことできるの。という声が聞こえてきそうだが、結論はできる。
憲法違反の酒税法
1981年、今は亡き前田俊彦さんらが農文協から「どぶろくをつくろう」という本を出版した。序文で前田さんは「自分がのむ酒は自分でつくる、我が家でのむ酒は我が家でつくるという主張は、人間の自由にとってもっとも根本的な問題提起という、非常に重要な意味をもっている。すくなくとも私は、単なる趣味や道楽としてではなく自由なる人間の尊厳にかけて、酒は自分でつくろうではないかとひろく日本人の全体によびかけたいとおもう」と言っている。
私自身は単なる道楽や趣味で酒をつくる方の人間だが、この日本では自分でお酒を造ると法に触れてしまう。酒税法という法律があるためだ。現行の酒税法は1953年に制定され、アルコール分1%以上を含む飲料を「酒」と規定している。従って、「お上」の許可を得ずして酒をつくると酒税法違反となる。でも、この法律は多くの憲法学者から憲法違反であるといわれている。国家である以上、酒税をとるのは必要悪として、個人が味噌や漬け物のように自家生産、消費する事については自由であるべきである。酒税法は個人が造り、楽しむことすら禁じている。ちなみに日本政府がお手本とするアメリカは、個人の自家醸造についてはまったく自由で、アメリカ手造りビール協会があるほどだ。といっても自家ビールが解禁されたのは1979年からである。ただし、ワインは1933年からすでに解禁されていた。
ハネムーンとお酒
ハネムーンといえば新婚時代と思い浮かべるが、その語源をご存じだろうか。かつて、ヨーロッパの多くの地域では新婚時代に花嫁が「ミード」なるお酒を造り新婚生活を楽しく過ごしたという。ミードは、天然の蜂蜜を水に溶かして造る、極めて単純なお酒だ。天然の蜂蜜には酵母(酒を造る微生物)が含まれるため水に溶いただけでアルコール発酵する。このためハネムーン(蜜月)という言葉ができたという。この蘊蓄、結婚式のスピーチで使ってみて下さい。
ここでお酒のメカニズムについて説明しておこう。アルコールは酵母(イースト)といわれる微生物が適度な糖分(栄養)、水分、温度があれば、その糖分をアルコールと炭酸ガスに分解してしまうのでできる。分かり易く動物的に表現すると酵母が水分と糖分を食べるとおしっこがアルコールになり、おならが炭酸ガスになる。そしたら?んこは。酵母として沈殿し残る。という具合である。失礼。我々は酵母の出した「モノ」を有り難く酔っぱらうために頂いている?ことになる。何とも悲しい動物だ。
ミードの造り方
ここで3分で造れるお酒の造り方を教えよう。用意するモノ。蜂蜜250グラム。水1リッター(できればミネラルウオーター)。酵母(パン用でも良い。百貨店などで入手可)。造り方は水1リッターに蜂蜜250グラムをよく溶かし込み、酵母小さじ1パイをよく混ぜるだけ。容器は何でも良いが、決して密閉せずに虫が入らないように蓋をする。密閉すると炭酸のせいで瓶などが割れるよ。夏なら2,3日、冬なら1週間ぐらいでできる。
実は数年前にこのやり方を知人に教授し実践してもらったところ、感動の電話を頂いたことがある。知人は、まさかこんなやり方でお酒ができるとは思っていなかったが、やって見たところ出来てしまったというあんばいだ。ぜひ、実践してみて下さい。
ビールの醸造学
ビールが簡単に造れる。というと信じられない人がいるかもしれないが、事実簡単にできる。私は10年以上前から自家醸造し、痛飲してきた。
ビールは大麦とホップ、水、酵母からできている。造り方の原理は、まず大麦に水をやり発芽させる。発芽したら乾燥させ、粉砕し水を加える。麦芽の糖化作用で麦が糖化され甘い麦汁ができる。ここにホップ(桑科の植物で、ビールに独特の芳香と爽快な苦みをつける)を足し、酵母を混ぜて発酵させ、最後に瓶詰めとなる。こんなことはもちろん素人にはできない。では、どうすればよいか。実はビール造りのキットなるモノが、10年以上前から輸入されている。私もこのキットのお陰でビールを造ることができている。当初はビーズジャパンという会社のものしかなかったが、今では色んな輸入会社があり、多種多様なビールキットが輸入されている。
造り方の基本は先のミードと同じ。麦汁とホップのエキスを清潔な容器に指定された量を水に溶くだけ。もちろんビール用の酵母をふりかけ混ぜる。7〜10日ほどで泡立ちがおさまり発酵が終わり、後は瓶詰めをするだけ。瓶は普段使用しているビール瓶を使う。大事なことは瓶をブラシなどで洗浄し消毒すること。雑菌が醸造には一番悪い。瓶を乾燥させ、ビールを詰めて栓ををする。栓は専用の打栓機(私のはイタリア製)を使いしっかり閉める。少し熟練を要するが簡単なものだ。あとは寝て待つだけ。味はビールの種類によって異なるがスタウト系の味が多い。ぜひ、チャレンジして下さい。近くのDIYショップやインターネットでもキットは入手できる。
お酒文化
お酒は文化だとよく言われる。なるほど日本では日本酒をはじめ世界のお酒が輸入され飲まれている。今年は空前のワインブームで、猫も杓子もワインを飲んだ。しかし、これは消費としての酒文化である。
ここらで生産としての酒文化を考え、実践してほしい。かつて日本では農民には自家醸造の「どぶろく文化」があった。農作業の疲れを癒し、五穀豊穣の神に供えたりと自家のどぶろくを様々に利用してきた。だが、明治政府は税収のために1899年全面禁止というおふれを出した。それ以降、どぶろくをめぐり役人と農民の戦いが見られたが、今は亡き歴史の一風景に過ぎなくなってしまった。
最後に。先に述べたお酒の造り方で、1%以上のアルコール発酵をさせると酒税法違反になる。くれぐれも1%未満のアルコール発酵でお楽しみを。