6月4日(月)神戸公聴会の報告
                               N
                            *は報告者のコメント
意見陳述者
 貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 柴生 進氏(兵庫県川西市市長/民主党推薦)
 笹山幸俊氏(神戸市市長/公明党推薦)
 大前繁雄氏(学校法人大前学園理事/自由党推薦)
 浦部法穂氏(神戸大学副学長・大学院法学研究科教授/共産党推薦)
 中北龍太郎氏(弁護士/社民党推薦)
 橋本章男氏(兵庫県医師会会長/保守党推薦)
 小久保正雄氏(兵庫県北淡町町長/21クラブ推薦)
 塚本英雄氏(会社経営/一般公募)
 中田作成氏(大阪工業大学助教授/一般公募)
*兵庫県知事の貝原俊民氏は、5月22日に任期途中で辞任の意向を表明。
 自由党推薦の大前繁雄氏(学校法人大前学園理事)は、97年の県議会では当時現職の新進党議員で、「従軍慰安婦は公娼」という歴史を歪曲した発言をし、多くの女性団体の抗議を受けた人物。(「ストップ改憲!『神戸公聴会』を監視する実行委員会ニュース」、N02 2001年5月27日発行による)
 
T 意見陳述(発言の一部の要約です)1時13分〜
@貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 9条は7割以上が「改正」反対を示している。これからは武力によらない「平和の技術」を世界に発信していく必要がある。
A柴生 進氏(兵庫県川西市市長/民主党推薦)
 現在は憲法の実践が不十分。川西市では1995年の「子供の権利条約」の徹底をめざし、1998年では「子供の人権オンブズパーソン」を導入した。憲法と「子供の権利条約」をいかに根付かせていくかがこれからの課題だ。グローバリゼーションの中で、地域社会の課題が大きくなる。NGOの活動も大切で、平和と非暴力が前提だ。憲法前文の平和主義は国際的潮流に呼応している。
B笹山幸俊氏(神戸市市長/公明党推薦)
 危機管理のあり方では、市町村に権限が不足している。自衛隊の派遣要請が、市町村でもできるようにする必要がある。住宅再建では、大規模自然災害では公的支援が不可欠だ。現在「公共の福祉」が薄くなっている。憲法と現実にギャプがある。
C大前繁雄氏(学校法人大前学園理事/自由党推薦)
 韓国や中国、マレーシアにとって日本はパラダイスだ。韓国は立憲君主国になろうと李王朝の復活を考えている。憲法に「立憲君主国」の明確化をする。権利が多く義務が少ないので、憲法の見直しが必要だ。
D浦部法穂氏(神戸大学副学長・大学院法学研究科教授/共産党推薦)
 国際社会での「安全保障」は、「国家の安全保障」から「人間の安全保障」へと移ってきている。国連開発計画(UNDP)が「人間の安全保障」を1994年に提唱した。現在13億人が貧困であり、20〜30年後、日本にもこれが脅威となってくる。国家の枠組みではもはや駄目で、憲法前文が生きてくる。国際的な人権保障の枠組みをアジアでつくり軍隊をなくしていく必要がある。憲法前文の法的規範性は弱いが、前文が日本全体の政策基準となっている。私自身、震災で人間の安全保障に注目し、軍事力は意味がないと実感した。
(拍手)
E中北龍太郎氏(弁護士/社民党推薦)
 戦争が「自衛、東洋平和」の名の下で行われてきた。憲法は平和的生存権を保障している。冷戦が終わったが、周辺事態法でアメリカの攻撃的軍事体制に協力することになった。現在は、「集団的自衛権」の動きまである。憲法調査会が改憲の地ならしであってはならない。「非核神戸方式」を国会で法制化する必要がある。安保条約を平和条約にする必要がある。
(拍手)
F橋本章男氏(兵庫県医師会会長/保守党推薦)
 国家の指揮系統の明確化が必要。ドイツの基本法では大規模災害での国家の対応が明確化されている。現在、国の責任としての社会保障を減らす方向があるが、むしろより高いレベルを維持する必要がある。「健康基本法」などの法律が必要だ。
G小久保正雄氏(兵庫県北淡町町長/21クラブ推薦)
 憲法は道具だ。現憲法は、マッカーサーによる押しつけ憲法だ。前文は悪文で空想的平和主義だ。天皇を「元首」として第1条に記す。第9条で「陸、海、空の軍事力保持」を明記し、自衛のための交戦権を認める。「公共の福祉」を全面に出す。
(少し拍手)
*意見陳述者の中で最も短い発言だった。10分の持ち時間をきちんと自分の考えで埋めれないのだろう。しかし、淡路島の北淡町の町長がこんな考えを持っていることを、北淡町の町民は知っているのだろうか?
 
H塚本英雄氏(会社経営/一般公募)
 <変更>憲法前文に日本の歴史、文化を入れる。私学助成を可能にする。第7条4項「総選挙」の文言。
 <追加>危機管理、環境、自然破壊、他国からの侵略への対応。義務。
 <議論>首相公選制。参院の必要性。
I中田作成氏(大阪工業大学助教授/一般公募)
  憲法調査会を改憲のためのお膳立てにしてはいけない。今の状況はナチス台頭の前夜に似ている。少数派の尊重が社会の成熟度を示す。現在まで憲法を国民に定着させるよりも、骨抜きにする動きが目立つ。今、新たな国家主義が登場しようとしており、我々は大きな岐路の立たされている。言論の自由は大切だ。「怒りとにがさ」を忘れたとき、ファシズムが訪れる。
(大きな拍手)2時41分頃
*私も、小泉首相登場以来、日本社会が大きな岐路に立たされていると感じている。
 
U、質疑
@中山会長(自民)
 「首相公選制については貝原、柴生、笹山各陳述人はどう思うか?」
貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 現在は価値観が多様化し、一人の権力者に対しての投票はふさわしくない。
むしろ、権力の分散が必要で、具体的には地方自治体と国との分担、分権が必要。
柴生 進氏(兵庫県川西市市長/民主党推薦) 
 日本独自の案が出てこないとわからない。政権交代があって、政策の差異が少なければいい。
笹山幸俊氏(神戸市市長/公明党推薦) 
 地方と国の分担がはっきりしていないと、公選制は早すぎる。国に権力集中は困る。
*公選制を突破口にして、憲法改悪ムードの議論を中山会長は作りたかったようだが、その意図は実現しなかった。
 
A中川 昭一(自民)
 「貝原に対して、前文に地方自治がない。憲法に地方自治をどう書くべきか?」
貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 憲法は政府と国民の取り決めなので、前文になくてもいい。92条については、細かいところは法で書けばいい。21世紀は統治から「共治」の時代で、世界中で分権化の潮流がある。立法権については、地方の意見が反映されるような制限を設けるべきで、制度面から地方自治の本旨を実現する。
 「大前、塚本に対して、今の教育の現状をどう思うか?」
大前繁雄氏(学校法人大前学園理事/自由党推薦)
 戦後の教育は徳育教育をしてこなかった。
塚本英雄氏(会社経営/一般公募)
 日本に誇りを持つような教育が必要。
*両人とも、急に振られて、答弁が大変簡単だった。
 
B中川正春(民主党)
 「国家の意思が外から見えない。柴生に対してコミュニテイーと人権の観点で?」
柴生 進氏(兵庫県川西市市長/民主党推薦)
 近隣3市で研究会を作っている。
 「笹山に対して、個人の自立支援と憲法との関係?」
笹山幸俊氏(神戸市市長/公明党推薦)
 法を作った時、「見直し」の付帯決議をしたので、議論をしてくれ。
 「貝原に対して、連邦制はどうか?」
貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 平等主義の国民性では、連邦制は無理。「国」を小さくする方向が必要で、国の出先の長を公選にすることを考えてもいい。
*この民主党の中川もなんとか「改憲」の方へ議論のムードを作りたがっているようにみえたが、参考人からは期待したような意見が聞かれなかった。
 
C斉藤(公明党)
 「笹山に対して、まちづくりについて?」
笹山幸俊氏(神戸市市長/公明党推薦)
 小学校を単位として153地区で防災福祉コミュニテイー作りをしており、区では町づくり推進課がある。
 
D塩田(自由党)
 「緊急事態の時、市町村、国の役割は、憲法も含めてどうか?」
貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 震災で内閣の危機管理強化という議論になったが、本来は現地の管理強化をすべきだ。日本をいくつかに区切って、広域的な防災支援体制が必要だ。
柴生 進氏(兵庫県川西市市長/民主党推薦) 
 アメリカのフィーマ(米連邦緊急事態管理庁)のような組織がほしい。
 「大前に天皇観を伺いたい。私自身は終戦の時20才前だったが、国体の護持を考えていた。当時、大衆は天皇制支持であり、政体は変わったが国体は変更せず、という考えについてはどうか、日本は立憲君主国かどうか?天皇元首はどうか?」
大前繁雄氏(学校法人大前学園理事/自由党推薦) 
 ある意味で国体は変更されたとも言えるし、綿々と続いているとも言える。第1条からは「立憲君主国」と推定される。天皇をそろそろ元首と明記すべき。天皇は会議の議長のようなもので、国民代表だ。
*正直言って、びっくりした。自由党にとって「国民主権」はよほどイヤらしい。また、公聴会という場で死語となっていた「国体」が出てくるとは想像もしていなかった。自由党はよほど戦前の体制にあこがれているようだ。
 
E春名(共産党)
 「浦部に対して、憲法13条、25条に基づき震災後の個人補償は当然だと思うがどうか?」
浦部法穂氏(神戸大学副学長・大学院法学研究科教授/共産党推薦)  
 自立できるところまでの補償は憲法の要請するところだ。
 「集団的自衛権は憲法が想定しているものとは全く異なる。これについての学会の通説はどうか?」
浦部法穂氏(神戸大学副学長・大学院法学研究科教授/共産党推薦)  
 9条は武力によらない自衛権は否定していない。武力によるものは、個別でも集団でも否定される。集団的自衛権は、9条に反している。
 「集団的自衛権を検討すること自体が、憲法違反だ。貝原に対して平和の技術いついて?」
貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 兵庫県は、WHOの神戸センターを誘致した。これは医学を越えた健康増進センターを目的としている。環境や人口問題で人類に貢献したい。
 
F金子(社民党)
 「戦争被害者への補償は軍人には厚いが、一般市民への戦争被害者への補償がうすい。この戦争被害者を救済する姿勢が,不戦の保証となる。一般市民への補償は不可能か?」・中北龍太郎氏(弁護士/社民党推薦) 
 一般市民は全く補償されていない。前文は戦争の惨禍に注目しているので、国内外への補償が憲法の要請ととれる。靖国神社は「国のために命を捧げることが尊い」という戦争の精神的支柱であった。憲法は神道と国との分離を述べており、靖国参拝は憲法違反だ。中曽根参拝では、大阪高裁は「違憲の疑いがある」と指摘している。公式参拝は、新たな戦争の火種だ。
 「冷戦後、日米のみ2国間の軍事同盟が強化されている。安保強化はアジアへの脅威となっている。これについは?」
浦部法穂氏(神戸大学副学長・大学院法学研究科教授/共産党推薦)  
 米の後方支援というのは、もともとの安保の本体に反している。条約が憲法を越えていくことに大きな危惧を抱いている。
 
G小池(保守党)
 「自然災害への対処を憲法に明記することはどうか?小久保から逆に貝原へと伺いたい」
小久保正雄氏(兵庫県北淡町町長/21クラブ推薦)
 憲法の中に入れることは意義がある。
笹山幸俊氏(神戸市市長/公明党推薦)
 法律の中で書けばいい。
柴生 進氏(兵庫県川西市市長/民主党推薦)
 むしろ行政縦割りの問題がある。法律としてフィーマのような組織を作る。
貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 ドイツの例がよく引かれるが、ドイツは連邦国家であり、日本とは異なる。憲法になくてもいい。アメリカは連邦政府の方に規定はないが、州の方に規定がある。自衛隊に過度な期待は無理で、近畿全体でも数千人であり、一方警察は万以上いる。一番大切な発生後12時間は現地の消防、警察、行政がいかにうまく機能するかが大切だ。先に述べた広域支援組織が必要だ。
 「5年で改憲します
*「自然災害から憲法改悪へ」という小池の意図は全く実現しなかった。しかし、堂々と最後に居直って「5年の改憲」を主張するところは、大したもんだ。また、それほど一般市民がなめられているとも言える。
 なお、「市民=議員立法推進本部」(小田実代表)や「『公的援助法』実現ネットワーク」は、5月13日、「災害復興支援基本法(案)」を発表し、その中で「災害復興庁」を提唱している。(5月14日の毎日などの新聞から)
 
H近藤基彦(21クラブ)
 「危機管理と憲法ということで公聴会が神戸になった。小久保に対して、震災時、県、国の対応の不満は?」
小久保正雄氏(兵庫県北淡町町長/21クラブ推薦)
 役所に6時前に入ったが、県と連絡をずっと取ろうとしていたが、取れたのは9時頃だった。県の幹部へ自衛隊の派遣を要請した。地震発生後、2時間ほどで即死者以外は全員引っ張り出すことが出来た。田舎なので相互に寝ている場所を知っていた。がれきの処理を誰の費用でやるかが問題になった。最初自衛隊に依頼したが、断られ、貝原知事が国と交渉して、結局町と自衛隊が覚え書きを取り交わすことで、撤去してもらった。
 「憲法の中に危機管理を入れる必要がある。貝原に対して、国の対応として不満があれば述べてほしい」
貝原俊民氏(兵庫県知事/自民党推薦)
 地震当時は、第一が人命救助、次は余震の問題だった。誰も余震のアドバイスが出来ない。自然災害に対して、日本では、知識、経験、マンパワーがほとんどなく、層が薄い。広域的な実践な防災支援機構を創り、人材の養成をし、日本全体として対策を考えなければならない。
*ここでも、貝原氏は見事に質問者の誘導的な問いに、きちんと反論している。また、この加藤という議員は、何故公聴会が神戸で開かれたかを「正直」に述べた。「地震→自衛隊→憲法の不備→憲法の改悪」という流れである。しかし、これは当事者の知事を中心として、ことごとく具体的に反論されてしまった。
 
V、傍聴人からの意見
@震災時、数万人の命がそばにいた民間人によって救われた。憲法に何か問題があって人の命が奪われたのではない。質問する議員は、もっと神戸のことを勉強してから神戸に来い。
A渡されたパンフにある憲法第19条の文言はこれでいいのか?
B憲法に日本の歴史と伝統を入れるべきだ。9条には問題がある。改正条項をもっと緩くする。権利や義務という言葉は、自分の頭の中にはない。
中山会長
 「調査会の考え方の説明。憲法について結論を出していない。5年をめどに調査をしている」。
C現在77歳だが、当時この憲法は7ヶ月で成立した。これからの憲法は1300年前、聖徳太子が創ったものを参考にすべき。
D神戸大学の学生だが、この公聴会はおかしい。市民の代表として入っている中田さんは何も聞かれていない。少し前、神戸に入港した「おおすみ」を見たが、これは自衛のためではない、他国を攻めるためのものだ。憲法9条を変えてはいけない。
(拍手)
 
*最後の発言を求めるとき、中山会長は特に「学生」と指定した。すぐ何名かの学生がかなり意気込んで発言を求めた。憲法改悪派は、学生の動員をしていたと思われた。Dの学生に発言が回ったのは「幸運」と言えよう。また、私もこの「おおすみ」を見たが、「おおすみ」は、強制上陸艇(海から陸地へ行ける艇)を内部に持ち、まさに侵略の軍艦だった。
 議員の質問から、「憲法を変えてはいけない」という姿勢を持っているのは社民党と共産党だけだと感じた。公明党、民主党は「論憲」から「改憲」に軸足を移していると感じられた。
 また、全体の構造は、自由党や保守党が「天皇元首化」「国体」「憲法改正」を声高に主張し、世の中の平均的な軸を、随分「右」にひっぱていき、それに比べて自民党の言う憲法改正は「穏健だ」と映るようになっていると思った。
 小泉首相の言う「首相公選制」が現場の知事、市長から支持を得られなかったのは「成果」と言えよう。また、地方公聴会は、現在、東京一極集中のもと、地方財政の困窮化のもとで、国に対して地方の「要求」「反乱」の場となる可能性がある。
 また、4月の仙台での公聴会を踏まえて、「憲法改正派」がきちんと動員していたことも注目に値する。これは、地方公聴会を「ボイコット」する方針は妥当とは言えず、憲法改悪に反対する人たちは、積極的に地方公聴会に「参加」していくことの必要性を示している。
                        2001年6月9日、神戸で。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
* 会場の入り口にこんなポスターがありました。
 また、公聴会でも中山会長は、「意見を寄せてくれ」と述べた。
 どんどん、衆院・参院の憲法調査会に意見を寄せませんか?
 → 衆院憲法調査会
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