共謀罪で暗い世の中に                      
                                 N
  先日(2006年4月20日)、天声人語に「共謀罪」への危惧があった。全く同感だ。共謀罪が成立すると次のような信じられない事態が起こる。
 
  数人でお茶を飲みながら「悪徳某企業の商品を買うのを止めようか」という話
 になる。「賛成」と言った人もいれば、うなずいただけの人もいた。しかしこ
 れだけでその場にいた全員に「組織的な威力業務妨害」の共謀罪が成立する。
 後日、その中の誰も実際に「不買」をしていなくても、話し合ったことが「共
 謀」の罪になってしまう。この「罪」を逃れるためにはどうするか?自分から
 警察に出向き、話の内容を警察に告白し、自分一人が罪を許してもらうしかな
 い。
 
  この共謀罪は、マスコミの取材にも大きな影響をもたらす。例えば、政治家の
 スクープをめざし、「裏が不十分でも記事を出そう」と会議で決めたとする。
 その段階で「組織的な信用毀損」の共謀罪が成立する。この場合も、その後実
 際に記事が出なくても、共謀罪は成立したままだ。記者が自分の罪を逃れるた
 めには、警察に密告するしかない
 
  共謀罪は、気楽に話す自由、冗談を言う自由、言論の自由を奪う恐ろしい法案
 だ。これが成立すれば、日本は暗黒社会となる。
                            (2006年4月23日)
 
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冗談も言えなくなる共謀罪の新設
ようこそ、プレ・クライムが裁かれる悪夢の世界へ
海渡雄一
週間金曜日 2003年1月31日号
 (略)ハリウッドの人気俳優トム・クルーズ主演の『マイノリティ・リポート』という映画がある。この映画は、クルーズが勤めるプレ・クライム・ユニット(犯罪予防局)で未来に起きる犯罪を予知し、その犯罪者を事前に逮捕できることをストーリーの骨格としている。未来に起きる犯罪の予知はまったくSF的な話である。  
 しかし、「未来に起きるかもしれない犯罪でいま逮捕される」という法律が、次の通常国会で成立させられようとしているのが日本の現実だ。
 その名前を「共謀罪」という。「共謀罪が新設される」というと、法律を少し知っている人はたいてい「それって、いまでも、判例で認められている共謀共同正犯を法律にしただけでしょう」と答える。
 しかし、それは違う。「共謀共同正犯」では、処罰のためには少なくとも「犯罪の実行」が「着手」されていることが必要だ。殺人なら凶器を向けてつかみかかる、窃盗なら家に忍び込んで物色を始めるところまで行って、「未遂」=「実行の着手」だ。犯罪が現実のものとなっているときに、その責任を問える共犯者の範囲が問題となって、共謀に荷担した者も責任を問えるというのが「共謀共同正犯理論」なのである。
 これに対して、新たに導入されようとしている「共謀罪」は、長期四年以上の刑期を定めるあらゆる犯罪(合計では500を超える)について、「団体性」があれば(「二人以上で」と読め!)、犯罪の合意だけで共謀罪が成立するというものだ。犯罪の「合意」とは二人以上の者が犯罪を行なうことを意思一致することだけであねへそれ以上の行為、たとえば「誰かに電話をかける」「凶器を買う」といった犯罪の準備行為に取りかかることは処罰の要件となっていない。
 ではなぜ、いま共謀罪なのか。2000年末に国連総会で採択された越境組織犯罪防止条約の国内法化のためだというのが法務省の説明だ。この条約は、マフィアなどの国境を越える組織犯罪集団の犯罪を効果的に防止することを目的に起草された。しかし、法務省が準備中の法案は、この条約の求める範囲をはるかに超える広範なものとなっている。条約の適用範囲は国境を越える組織犯罪集団の行為とされているが、法務省案には「越境性」の要件はない。また、単にサークルや会社といった程度の「組織性」だけがあればよいこととされている。
 共謀罪ができるとどんな事態が起こるのだろうか。Aと知り合いのBがCをやっつけようと合意したとする。AとBにはこの段階で傷害の共謀罪が成立する。Bがこの会話の録音テープを持って警察に出頭すればBは刑を減免され、Aは、何の準備も始めていなくても逮捕され、三年以下の懲役刑に処せられることとなる。Aがこの会話は単なる冗談であったと主張しても、Bが検察宮側の証人として法廷に出廷して、「Aは真剣でした」と証言すればおそらくその主張は認められないだろう。このように、共謀罪のもとでは、」犯罪はなにか他人の利益を現実に侵害することというよりも、人が「悪い意思」を持つことそのものが犯罪とされてしまうのだ。「組織犯罪対策」の名の下に、ほとんどの国民がまつたく気づかない間に、処罰の範囲を革命的に拡大するような刑法の全面改悪が実行されようとしているのだ。(略)
警察が市民生活の隅々にまで入り込み、密告が奨励されるような未来社会にあなたは生きたいだろうか。「共謀罪」を導入する法案は一月開会の通常国会に提出される予定だ。それがいやなら、いますぐに共謀罪に「ノー」の声を上げよう。
 
かいどゆういち・弁護士
 
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こんなに恐ろしい「共謀罪」
実行しな<ても、相談しただけで懲役に
                          宮本弘典
                       週間金曜日 2004年1月23日号
現在、政府・法務省の手で、とんでもない法律が準備されている。
実際に罪を犯さなくとも、話し合ったり相談しただけで刑罰が科せられるという、前代未聞の悪法なのだ。
 
 共謀罪の新設は、政府・法務省側の説明によると、2000年12月に国連総会で採択された、国連「越境組織犯罪防止条約」の批准のために必要とされています。「国際協調の観点から、国内でも条約の趣旨にそった立法をしないと、日本が国際社会で孤立する」というのが名目で、外圧を利用した形になっています。
 正式名称は、「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」ですが、前回衆議院か解散されたので継続審議にはならず、いったん廃案になりました。(略)
 そもそも「国連越境組織犯罪防止条約」は、マフィアなど国境を越えて活動する「金銭的、物質的な利益を得る目的」を持つ、「組織犯罪集団」の犯罪防止を狙いとしています。ところが政府・法務省は「国際協調」などと説明しながら、肝心の共謀罪の内容を、「条約」と決定的な点で違えている。つまり共謀罪が適用されるのは、必ずしもそのような「目的」を持った「組織犯罪集団」だけではないのです。
 共謀罪では、「長期四年以上の刑を定める犯罪」を、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」が処罰される。「長期四年以上の刑」とは現在の法律では五百数十存在し、そのうち「金銭的、物質的な利益を得る目的」以外のものが掃いて捨てるほどたくさんあるのに、それらが全部逮捕の理由になるのです。
 しかも「組織」とか「団体」といっても、法務省の従来の定義では、「ある一定の目的のための複数人の比較的永続的な結合体」だとされる。「複数人」とは何人からというのは明らかにされないし、そもそも共謀や相談というのは一人ではできませんから、二人でも三人でも組織になる。結局マフィアや暴力団といった「組織犯罪集団」に属さずとも、かつ「金銭的、物質的な利益」とは無関係でも、さらに五百数十もの罪について犯罪を実行せずとも、何と「犯罪の相談・合意」だけで処罰されるのが共謀罪にほかなりません。ここでは、社会的な侵害性が「行為」としてあった場合にのみ罰せられるという、法の原理が無視されているのです。
 
戦前と同じ論理
 
 仮に共謀罪が成立した場合、たとえば「爆撃されたパレスチナの病院の復興支援のためカンパしよう」と市民が相談しただけで、「資金がテロリストに流用される可能性がある」という理由で、テロ資金供与罪の共謀罪として捜査対象にされかねない。労働組合が、「会社の譲歩を引き出すために手厳しい団交をやる」と決めただけで、実行する前に組織的強要の共謀罪になりかねません。戦前に、国防保安法(スパイ罪)、軍機保護法といった一群の戦時特別刑法がありました。そうした法律にはほとんど相談・陰謀罪が規定され、行為に出る以前の段階で身柄を拘束することができたのです。こうした戦時特別刑法と今回の共謀罪とは、論理・構造をまったく同じくしていることに注目したい。(略)
 では共謀罪をどういう場合に使うのかというと、一つにははじめから「黒」と塗りつぶした連中に使う。彼らがなぜ社会から脱落したのかという問題を隠し、「彼らはおかしいんだ、危険なんだ」という形でのレッテル貼りを強化するために使うでしょう。これは、社会の主流にいる大多数の人々と少数派という区分を固定し、前者の利益を守るためには、いつでも後者の権利を切り捨てる用意があるーと表明することに他なりません。(略)
 次に、社会の矛盾、不条理に自覚的であればあるほど、社会から少数派になっていく傾向がありますが、その人たちの信用性を失墜させる道具として共謀罪が使われかねない。「彼らは取り締まりの対象なんだ、彼らのやっていることはどこか後ろ暗いことなんだ」というレッテルを貼って、社会の多数派・権力中枢の不正を暴く行為を処罰していくのです。
 最後に懸念すべきは、新たな捜査方法の導入です。共謀罪を立証する最大の決め手は会話のテープになりますから、犯罪組織ではない団体に対しても盗聴が頻繁に行なわれるようになるでしょう。さらにメールの監視や、組織内部に送り込まれた警察の協力者による会話の録音というようなやり方へのエスカレートも懸念されます。いずれにせよ、寛容な社会、個の自立を認め合う社会を達成するためには、どれほどの忍耐と努力、そして譲歩が必要になるのかをきちっと認識し、そこから論議せねばなりません。それをせずにわかりやすい「敵」を作り、叩くという流れになっている。そのことを、私は憂うべきだと思います。
(談)聞き手・編集部/成澤宗男 
 
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「共謀罪」を考える市民集会 
「冗談のつもりだった」は通じない!?
                    2004年1月31日
 
☆呼びかけ文
あなたは「共謀罪」という言葉をお聞きなったことがありますか。
 
 「共謀罪」とは、まだ犯罪の結果が発生するどころか実行もされないうちに、ただ、「犯罪をしよう」と共謀した段階で処罰されるというものです。「団体の活動として」「組織」により行われる長期4年以上の犯罪という限定はついていますが、団体というのは労働組合や市民団体、会社なども含まれる幅広い言葉ですし、長期4年以上の犯罪というのは560種類以上にものぼります。
 「『犯罪をしよう』なんて考えること自体が悪い」と思うかもしれませんが、人が悪いことも含めて「考える」こと自体は自由なはずですし、意気投合しても実行しないことはいくらでもあります。どのくらい具体的な話をすれば「共謀」に当たるのかもよくわかりません。一方が冗談のつもりで言ったことでも、相手が真に受けて「よし、やろう」と答えたら犯罪になるのでしょうか。もしかしたら、身分を隠した警察官から犯罪を持ちかけられ、「そうしよう」と言ったとたんに、逮捕されることになるのでしょうか。しかも、会話やメールのやりとりが証拠として必要になってくるので盗聴が広く行われ、自己申告すれば刑を減免されるのでちょっとした言葉をとらえて「共謀した」と密告される、ということになりかねません。
 国家権力によって友人との語らいを監視され、隣人によって密告される社会が本当に住みよい社会なのかどうか、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
 
集会決議 
 衆議院の解散に伴って一旦は廃案となった共謀罪について、政府は、今通常国会に、共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」として提出する予定であると言われています。
 今回提出される法案についてはまだ詳細は明らかではありませんが、前回提案されていた法案によれば、共謀罪とは、「団体の活動として」、「当該行為を実行するための組織」により行われるものの遂行を共謀した者に対して、長期4年以上10年以下の懲役・禁固の刑を定める罪を共謀した場合には2年以下の懲役・禁固、 死刑または無期もしくは長期10年を超える懲役・禁固の刑を定める罪を共謀した場合には5年以下の懲役・禁固を科すというものです。
 このような共謀罪は、犯罪の結果どころか実行行為も予備行為さえも存在しない段階で犯罪が成立することになるため、処罰の範囲がきわめてあいまいで、罪刑法定主義に反するものです。しかも、処罰の対象となる犯罪類型が560以上と過度に広汎であり、処罰時期を著しく前倒しにすることとあいまって、思想・表現の自由に対する不当な制約となるものです。
 また、共謀罪の捜査においては、犯罪の結果が存在しないことになるため、自白獲得偏重に拍車をかけ、共犯者の虚偽自白を誘発する危険性が高くなります。さらに、共謀それ自体を立証するため、電話、メール、室内の盗聴など通信の秘密やプライバシーを侵害する捜査手法の無限定な導入を加速することにもつながります。
 このように、共謀罪の新設は、事実上刑法を全面改悪するに等しいものであり、思想・表現の自由などの基本的人権に対する重大な脅威です。
 よって、私たちは、共謀罪の新設に反対します。以上
                       共謀罪を考える市民集会参加者一同
 
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