北朝鮮が攻めてくる!?
 
 周辺事態法などの日本のあり方を根本的に変えていく法案が国会で審議されている。この法案を後押ししている雰囲気は、1998年8月の朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の「ミサイル発射」であり、北朝鮮への敵対・不信の感情だ。しかし、この事態の「背景」は何か?そこには「裏」がないのか?マスコミは、必要な情報をバランスよく伝えているか?そんな疑問を抱いていた。
 その時、偶然本屋で「漢方経済学」という広瀬隆の本が目に留まった。、広瀬隆という人は原発問題で聞いたことがあるなあと思い、1800円の「漢方経済学」を読み始めた。
 小説タッチの「漢方経済学」は、政治家、財界人の実名入りで日本の実状を明らかにしている。(その本で語られていることはほとんど本当のような気がしている)。ここで引用するのは、第9章「北朝鮮が攻めてくる」での新聞記者、佐之輔と同僚、浅田の会話だ。
 
     漢方経済学の世界から
 
     人工衛星かミサイルか  
 浅田が喋るにまかせてその口の動きにほれぼれとしながら、佐之輔はひと言も発しなかった。
「話を日本に戻そう。
北朝鮮がミサイルを発射したと決めつけたあと、日本のメデイアが矢継ぎ早に煽動記事を流すうち、九月四日夕刻になって北朝鮮は、”わが国は八月三十一日、人工衛星打ち上げに成功し軌道に乗せた。衛星は、宇宙の平和利用のためである”と発表した。五日には打ち上げの写真も配信した。
 ところがミサイル発射だと騒いできた日本と韓国とアメリカは、しばらくのあいだ、それがミサイルか人工衛星か断定した発表ができなかった。どこの国にも、北朝鮮の人工衛星説を否定できる軍事評論家はいなかった。同じ技術だったからだ。
 アメリカの軍事専門家も、日本の防衛庁も評論家も、人工衛星を否定できずに、うろたえるばかりだった。ところがロシアと中国は、”北朝鮮の人工衛星を確認した”とすぐに発表している。九月十一日になってようやく、アメリカの上院外交委員会の東アジア太平洋小委員会のクレイグ委員長が、”NASAは、北朝鮮がミサイルではなく人工衛星を軌道に打ち上げたと見ている”と公聴会で明言した。アメリカ政府高官も、異口同音に、”人工衛星の打ち上げだった可能性が高い”と語るようになって、最後にホワイトハウスのルービン報道官が公式に”人工衛星だった”と政府の見解を表明した。
 ところがTMD構想の共同研究を発表した二十日には、北朝鮮のミサイル発射に対する防衛だと、またして整然とミサイル危機だと言い立てた。実は軍事的には最初から、ミサイル発射と分っていた日米が、対応が遅れたという言い訳の氾濫だ。こういう言い訳が、本物の戦争で通るのかい。ミサイルらしいものが飛んできましたが、あとでそれが確認されました、なんて言ってたら、戦場じゃお陀仏になるぜ。軍人が聞けば大笑いだ。
 もしアメリカが最初に”北朝鮮が人工衛星の打ち上げに成功した”と発表してれば、日本の報道の論調はすべてが一変していたはずなんだ。人工衛星の打ち上げは、どこの国でもやってることだ。”北朝鮮の打ち上げが人工衛星だったとしても、無断打ち上げだから危険に変りはない”なんて日本政府は苦しい批判をしてきたが、世界中の人工衛星は、危険なプルトニウムを積んだままあっちこっちに落下してるじゃないか。今まで外務省がそれを批判したことなんか一度でもない。滑稽を絵に描いたようだ。
 日本は、もう七十個以上も人工衛星を打ち上げてるんだ。しかも日本は、東海村の再処理工場で原爆材料のプルトニウムを何トンも取り出してるんだから、いつでも核弾頭を取り付けられる状態にある
「まさか」
「まさかとは何だ。そういう常識がないから、経済部の人間には困る。
 ここにきて、危険を偏ってきた新聞とテレビの評論家と解説者が必死になって、北朝鮮の技術はミサイルに転用できると言い訳しはじめ、どんどん墓穴を掘りはじめてるのに気づかないか。軍事評論という人間の行為が、ますます喜劇的になってきた。
 北朝鮮の発表が事実であれ大嘘であれ、これまで全世界が打ち上げた人工衛星は、すべてミサイル技術だ。その事実を、日本人とアメリカ人の口から逆証明させた成果は、さすがに朝鮮民族として偉大だったと言っていいだろう。
 日本で人工衛星を打ち上げてきたのが、宇宙開発事業団だ。
 プルトニウムを取り出してきたのが動力炉核燃料開発事業団、つまり去年三月に東海村で爆発事故を起こした嘘つき動燃だ。
 この人工衛星とプルトニウムを組み合わせれば北朝鮮は危険だと、あの高名な江畑という軍事評論家が喋ってた。つまりアジア諸国から見れば、日本ぐらい危険な国はないとあの男は喋ってたんだが、本人にはまったくその自覚がない。聞く側の国民にもその自覚がない」。
 (朝日新聞が、ガイドライン法案を「論壇」で集中的に取り扱っている。2月24日に梅林宏道という人が「武力紛争回避こそ最優先課題」と題して次の指摘をしている。「横須賀に北朝鮮をピンポイントで狙う米海軍の巡航ミサイル発射管を5百5十基(米海軍資料)も配置しておきながら、北朝鮮のミサイル開発の阻止を叫ぶのでは交渉にならないからである」と米軍の危険性を指摘したが、日本の人工衛星技術とミサイルとの関係にはふれていなかった。広瀬隆によれば、ミサイルか人工衛星かという議論の前にそもそもこの二つは技術的にまったく同じもので、すでに日本は70もの人口衛星を打ち上げていることになる。北朝鮮はもちろんアジア諸国からみたら、米軍と同時に日本の技術も脅威になっているだろう)。
 
      敵を創作する
 「日本の軍事上、最も危険なのは北朝鮮のミサイルだって九三年から騒いてきたのが防衛庁だ。あいつらが必死で言い張るように、人工衛星でなくて危険なミサイルなら、北朝鮮の標的は、三沢基地に決まってる。軍事評論家が、三沢基地の目の前にある六ヶ所村のプルトニウム抽出工場について何も言わないのはどうしたことだ。プルトニウムが核弾頭の弾になるんだ。しかも”もんじゅ”が破綻して、まったく目的がなくなったのに、十月二日からその再処理工場に向けて、プルトニウムを取り出すんだといって使用済み燃料を運びこみはじめた、
 ところが直後に、この輸送容器のデータが改竄されていたことが内部告発で発覚した。うちの科学部は、なぜその重大間題と矛盾をこの機会に書かないんだ。米軍は、八月初めに電子偵察機RC一三五を三沢に二機送って、北朝鮮の空を監視してきたのに、結局、事前に何も見抜けなかった。
 人間は、そういう疑問を持つことから思索をはじめなきゃいかん。
 まるで漫画のようなことが起こってるぞ。
 死の商人という言葉は、兵器を売買することじゃない。敵を創作することだ。あるいは、小さくて相手にならないような弱い敵がいたら、そこに強力な軍事力を裏から与えて、本当に自分の国が危険になる状況を生み出す商人のことだ。たとえて言えば、アメリカが北朝鮮にミサイルの技術を密輸して、発射実験をおこなわせる。そうすれば、誰が得をするかと言えば、アメリカと北朝鮮と韓国と日本の軍隊だ。全世界の軍隊と、軍需産業と、軍事評論家が失業を免れる
 八月にアフガンを攻撃したアメリカの巡航ミサイル、トマホークが不発のままパキスタンに着弾した奇怪な事件があった。パキスタンの軍隊がこれを解体して、巡航システムの秘密がすっかりアメリカの敵側に流れてしまったのは、故意なのか失敗なのか。お前、どう思う」
「そう言われれば、あれは臭いと思ってた」
「アメリカも日本も、国家の防衛なんかしてない。防衛ごっこをしてるだけだ」
「俺の兄貴もそう言ってた」
 
 (そういえば高校生のとき、岩波新書で岡倉という人の「死の商人」という本を読んだ。第2次世界大戦を始めとして、戦争でいかに大企業がもうけていったかという話だった)。
 
「実際におもちゃのようなミサイルが飛んできたって、今度のように確認もできないじゃないか。しかもTMD(注)構想はもっとひどい。偵察衛星の赤外線で敵のミサイルを探知し、地上やイージス艦の迎撃システムを使うというが、秒速三キロ、つまり時速一万キロで大気圏外からぶっ飛んでくるちっぽけな飛行物体を、撃ち落とすなんてできるはずがない。新幹線の五十倍のスピードだ。超人カール・ルイスが百メートル走るあいだに、こいつはその百メートルのトラックを百五十往復する猛スピードだ。
 現にアメリカ陸軍の迎撃システムは、ロッキードが撃墜テストをして、五回連続でずっと失敗し続けてきた。
 偵察衛星を打ち上げれば、高度な頭脳を持った五百人の監視部隊を編成して、二兆円を投入し、この衛星が寿命はたった四年だ。そのあとも毎年五〇〇〇億円を使って、衛星監視システムを維持してゆかなければならない。誰がもうかるか考えてみろ
 (注)一般的には戦域ミサイル防衛と言われている。この本によれば「TMDというのは、Theater Missile Defense(シアター ミサイル ディフェンス)の略語で、この劇場(シアター)という言葉は、戦争のときの戦場を意味する言葉だ。いわば実戦や野戦を意味する。血みどろの死闘をくりひろげる領域をミサイルで防衛するという戦法だ」。
 
 日本のイージス艦は北朝鮮の一段目ロケットを瞬間的に捕捉しただけで、日本海への落下を確認できなかった。ミサイル撃墜用の地対空誘導弾パトリオットが配備されてるが、湾岸戦争の実績は嘘ばかりで、命中率は一割だ。ミサイルを撃墜するにはアメリカの早期警戒衛星がなければできないから、日本は米軍に牛耳られて、今度のぶざまな無能自衛隊と同じになる。
 航空自衛隊の幹部も、TMDはただの遊びだ、やられたら報復するのが、一番だと言ってる。その言葉はおそろしいが、それが本当だ。
 偵察衛星で一体何ができるかという成果を解析すれば、何の実戦効果もないと断言していい。つまり肝心なことは、連中が言うような北朝鮮の危険から日本人を守らないんだ。金を捨てる戦争ごっこはやめたほうがいい。というより、この国家経済が危急存亡の時代に、俺たちの税金を宇宙に捨てるなんてことは、重大な背任罪だ」
「結局、またしてもNECがもうける。関本だ」
「その通りだ。水増し請求した軍需倶楽部が、濡れ手に粟で利益を手にするだけだ。TMD開発には二十年の歳月と、少なくとも三兆円、おそらく五兆円を要する。挙句の果てに、必ず失敗する。いつか実験に成功しても、そんなものはまったく信用できないから使えないと、アメリカの軍事関係者は認めてる。地震予知と同じだ。それをアメリカは、なぜ日本にやらせようとするか。鍵はここにある。
 結論を言えば、アジアは、色々な危機が創作ニュースによって煽られ、極東に進出するアメリカの軍需産業の餌食になってきた。お前が言った通り、とりわけベルリンの壁崩壊後、兵器輸出によって延命を図らなければならなくなった欧米のために、欧米が軍事費を縮小した分だけ、アジアや中東がそれだけ余計な武器を持たされ、あらぬ危険に巻きこまれてるだけだ。高村や額賀たちは、どうしようもない屑大臣だ。
 
      日本の標的・一瞬の死滅
「浅田、お前は大したもんだ。実はな、俺は」と佐之輔がようやく口を挟んだ。「今度、金正日が軍最高の国防委員長に再任されて、軍そのものがあの国を動かしてるニュースを見て、まるでヒットラー時代のドイツだと思った、北朝鮮幹部が、オウム幹部と同じだったらどうするんだとな」
「それは、誰だってあれを見れば無気味になる。しかし冷静に考えてみろ。外国の軍隊は、みなお互いに無気味に見える。北朝鮮にとって、日本の政策のほうがずっと無気味だ。次々とロケットを打ち上げて、プルトニウムを取り出す巨大工場を建設している世界第二の軍事大国だ。日本のほうが、核ミサイル攻撃の能力ではずっと先を進んでる
 少なくともその点で、日本人に北朝鮮を非難する資格はない。六ヶ所村に再処理工場を建設すれば、日本が北朝鮮の軍部を挑発して、自分が本当に危険になるだけだ。標的は六ヶ所村だ。あそこがやられれば、日本が一瞬で死滅することぐらい、北朝鮮には分ってる
「防衛の原点に戻って考える人問が、日本にいないということだな」
「日本の敵国とは一体どこなのか、ということだ。
 軍需産業には、常に、国の防衛という言い訳がある。
 しかし、日本の敵国を考えた場合、アメリカのペンタゴンが主張するように、北朝鮮が日本に攻めてくると本気で考えているとすれば、テレビ、ゲームの水準だ。再処理工場や原発を建設しながら、日本を戦場にする物語を想定すること自体が、正気の沙汰ではない。
 
     軍人の生き残り 
 赤城は、板門店に行ったことがあるか」
「いや、あんなところには行きたくない」
「俺は、核疑惑が朝鮮半島を揺るがした九三年から九四年にかけて、何度か韓国のソウルに行った。そのとき、韓国人は、こんな話をしていた。
 また始まったな・・・美軍と韓国と日本の三者謀略が、と一人が言うんだ。美軍というのは、韓国での米軍の呼び名だ。
 すると別の男が、こう言った。そうじゃない、このミサイル事件は、北朝鮮の軍部も一緒に協力して、美軍と韓国と日本の四軍が創作したデッチあげた。東西冷戦が消えたので、今や敵味方の軍隊が協力してシナリオを創らなければ、軍人は生き残れないからな
 どこへ行っても、みんなが、こんな話をしてた。それが限りなく真相に近い。
 北朝鮮が本当に危険なのかどうか、落ちついて考えたほうがいい。
 板門店近くまで列車で行くと、途中から韓国人の乗客もほとんどいなくなって列車ががらがらになり、米軍の基地だらけだ。ちょっとこわくなる。基地に行こうとすると、タクシーの運転手がこわがって乗せてくれない。アメリカは韓国で核兵器をかかえているからだ。北朝鮮はそれをよく知ってるから、日本にも韓国にも手を出さないことが軍事常識だ。
 むしろその米軍が、スーダンやアフガニスタンにミサイルを撃ちこんで、それを礼讃して反対も非難もしない日本を見ていれば、北朝鮮は、用心深くならざるを得ない。俺のところにもミサイルを撃ちこまれるんじゃないかと思えば、威嚇のための兵器を持ちたくなる。
 それ以上に、すでに”一国二制度の中国”が可能であることが実証される時代だ。韓国最大の現代財閥が、ずっと前から北朝鮮に援助をしてる。”一民族二制度の朝鮮半島”が成り立つことを、全世界が認識してもいい時代だろう。朝鮮半島に住む人間にとっては、民族統一が悲願なんだ。
 北朝鮮の危機を言い立てて満足する軽薄な人間は何年たっても消えないが、近代の戦力は、ほとんどが火器と戦闘機で決まるものだ。北朝鮮の軍事予算は九六年度の推定で二六一一億円だが、対する韓国は同じ年に一兆六九七三億円だから、北朝鮮の六、五倍だ。
 日本は、北朝鮮の十八・五倍の四兆八四五五億円だ。日本と韓国を合わせて、北朝鮮の二十五倍になる。
 米軍が使う国防予算は、さっきのお前の数字で、九六年度に三一兆円近くに達してる。北朝鮮の百倍の桁だ。いまや兵器マーケットに国境はないから、円換算で力をほぼ比較できるだろう。
 韓国には米軍が三万六〇〇〇人、日本には米軍が四万人余り駐留し、太平洋に展開するアメリカ海軍籍七艦隊は、艦艇六〇隻に軍用機三五〇機を擁する六万人の大部隊だ。
 アメリカの国防総省によれば、九〇〜九五年の六年問で、アメリカ製の兵器輸出額は一一二ヵ国で総計一〇八二億ドル、およそ一〇兆円規模と巨額だが、購入国のうちで、日本は世界第五位にランクされている。
 北朝鮮が、この三ヵ国の軍隊を相手にして、自殺したいと思うか。自衛隊の幹部が、やられたら報復するのが一番だと言ってるのはそういうことだ。
 北朝鮮の不審な動きについて、”もし万一”をおそれるなら、ミサイル論を展開するより、彼らには、日本人が過去に犯した”真珠湾の愚行”について、教訓を垂れるのが一番だ。本物の戦争に突入すれば、今度の戦争では何でもありだ。北朝鮮も日本も悲惨な結末を迎える。しかも実際の戦闘では、核兵器はこわくて使えないから、一瞬では終らない。戦闘を維持できる国が勝つが、北朝鮮にも日本にもそんな力はない。
 北朝鮮の脅威とは、文字通り針小棒大なデマだ。日本の防衛予算なんか、現在の十分の一でも多すぎる。
 軍備を縮小して、仲良くやれと言ってるんだ。北朝鮮が何をこわがっているかを親身になって考えるほうが先だ。それ以外に日本の安全なんてない。俺も最近、憲法第九条の意味がようやく分ってきた。こいつは無手勝流の大した憲法だ」
 「実はおとといの困民党の集会で、荻野夫人というかなり歳のいった女の人が漢方経済学というのを演説して、みんな共感した。要するに、景気対策で次々に手を打ってゆくのはよくないという話だ。手を引くのが一番いい。それをこの話にあてはめると、憲法第九条は、軍隊の漢方経済学だな。軍事対策を煽る奴は、みんな頭の悪い不経済な戦争挑発者だ」
 「論理的に見て、その通りだ、過去の歴史が証明するように、軍需産業に大金が回れば、それだけ国民の頭が悪くなり、軍隊が肥大すれば、すぐれた文化は衰退する
 
      正常化のシュミレーション
 「週間金曜日」は、ここ数回「参戦する日本の『軍隊』」と」題した特集をしている。
 2月19日号で「新ガイドラインの政治経済学」を早房長治という人が書いている。その中で、まずTMD構想は「防衛費突出を招く欠陥構想」と指摘した後、政府の姿勢に疑問を投げかける。
 「政府与党は北朝鮮の脅威を言い募り、防衛支出の増加に意欲を示すが、なぜ北朝鮮と直接対話に熱心にならないのだろうか。外務省は『国交がないから、対話の仕方がむつかしい』と弁明するが、それなら、サンフランシスコ平和条約(52年発行)に則って、北朝鮮を承認すればいいではないか」(P17)。
 現在、日本外務省は「各国地域事情と日本との関係」というリストをホームページで発表している。挙げられている世界の国々の数は計194カ国にのぼり、そのそれぞれの国ごとに日本との「2国間関係」が説明されている。その中で唯一「外交関係なし」と記されているのは北朝鮮だけである。近くて「遠い」国のままである。
 朝日新聞は去年年末に「『某国』の武装グループが日本海から強行上陸し原発施設にせまる」というシミュレーションを2面見開きで大々的に報じた。それに対して「市民の意見30の会・東京」のニュースレター52号(’99年2月1日発行)の中で、吉川勇一氏が次のように書いている。「『朝日新聞』も、やるのだったら日朝国交の正常化交渉のシュミレーションこそ、やるべきではなかったか」。全く同感だ。
 2月27日の朝日新聞は、27日付けの韓国紙報道を紹介している。
 「韓国紙・中央日報早版は一面トップで、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する政策の見直しを担当している米国のペルー対北朝鮮政策調整官が、北朝鮮が核・ミサイル開発などを放棄する見返りに、米国が国交正常化や経済制裁解除をとるという6項目の包括的解決案を準備していると報じた」。少なくとも、米国は(表面的には)硬軟両方のアプローチをとろうとしている。日本はいまだ硬(危機の煽り)一辺倒だ。
 
 先の「市民の意見30の会・東京」のニュースレターで小田実は「市民による軍縮」を提案している。
「それから市民による軍縮というものを提案したい。手をこまねいて、憲法第九条がどうしたこうしたといっててもどうしようもない。具体的に自衛隊を減らしていくことを提案したい。どこそこにあるこの自衛隊はこんなにたくさん人がいるのか。この人員を今年はとにかく三分の二にしろと。今年はこの軍艦やめるとか。来年はこれやめろとか。現実的に調べて、この基地はなにに使っているか、ここはいらないじゃないか、ここは削れとか、そういうことを市民の側から計画を立てて、提案をしていく。自治体と一緒に協力をしてやる。そういうようなことを地道にやるしかないですね。究極の目標はもちろんゼロにすることです。でもゼロにしろと言ったって、すぐにはそうはならないです。だから非常に具体的にやっていく必要があるだろうと思うんです。積極的な提案なんです。つまり憲法論議は空洞化してるんですからね。それでは具体的に逆手をとって、減らして行く方向にわれわれが考えていく」。
 最初に紹介した「漢方経済」の8章は「防衛庁水増し請求事件」である。これは、毎日新聞が去年9月にすっぱ抜いたスクープによってあきらかになった事件だ。この中で、広瀬は日本を代表する大企業が、国民の税金である防衛費をつり上げ、たかっていた実態を明らかにしている。防衛費を巡って、膨大な利権の構造が確立されている。しかも関係する企業は、マスコミのコマーシャルの大手提供元であり、ジャーナリズムはこの利権構造をきちんと国民に知らすことができないでいる。
 マスコミは公共事業に対しては、一定強いことを言っているが、今年度政府予算の一般歳出(政策経費)の10%強を占める防衛関係費、4兆9300億円についての利権構造を追求するキャンペーンを展開していない。
 
    人間貧困指数
 また、北朝鮮の「衛星/ミサイル」発射には国会で全会一致で非難決議をする日本は、米軍がスーダンやアフガニスタンに実際にミサイルを撃ち込んでも反対も非難もしない。これを支える人々の意識に「何となく米国に頼る」「物事の判断の基準に米国が使われている」という日常が関係しているのではないか。日本の「問題点」を判断するのに、米国の状態を基準にしてはいなかったか。さらに、私たちは、米国の実状をよく知っているのか? 90年代で米国の経済は「復活した」と宣伝されるているが、次のような米国の実状は、日本の一般常識にはまだなっていないだろう。
 世界9月号(’98年)の「世界市場への対抗構想」の中で坂本義和はこう述べる。
 「世界市場化にともなう、こうした格差の増大は、今、最も高成長を享受しているアメリカでも、顕著に現れている。例えば、所得別に5つの階層に分けて見た場合、1996年の実質平均所得が90年に比べて増えたのは誰かを見ると、最上位20%の人々の増収率が抜群に高く、上位第2位の20%がそれに次ぐが、他面で、最底辺およびその上の、下から合計40%の人々の所得は、逆に減少した豊かな層に富が集中する傾向が顕著なのである」(P65)。よく言われる「復活した」アメリカ経済は、その社会の格差を広げて、成長の恩恵の多くを富む階層が得ている。これは、90年代のことだが、次の文章は、25年前と現在のアメリカを比べてみたものだ。
 今年2月、中央公論に寺島実郎という人が「危機の本質と日本再生戦略」という文を書き、アメリカの経済にふれている。
 「90年代の持続的好況によって、米国の失業率は、1992年の7.5%から4.5%前後にまで低下しているが、『仕事の質』は『バッド・ジョブ』と呼ばれる付加価値の低い『低賃金労働』が大部分で、創造的管理職は圧縮されている。労働分配率は低迷し、雇用者の帰属組織からサラリーとして得た平均所得は過去10年間、まったく上がっていない。実質時間当たり賃金も、96年からの3年は上昇に転じたが、25年前の1973年に比べなお1割近く低い水準にあるというのが現実なのである」。
 25年前と比べても、平均所得が1割近くも低い水準だとは驚きだ。しかし、ではなぜ人々は現状に「不満」を抱かないのか? 
 「米国の雇用者、とくに中間管理職が『現状満足』でいられる理由は、企業からの所得は低迷していても、金融資産の運用でプラス・アルファーの所得を享受してきたからである。米国人は平均して個人金融資産の6割以上を株とか投資信託の直接金融資産に投入している(日本人は約13%)」(P69、70)。
 格差が広がり、一部の金持ちはさらに富む社会は、当然犯罪が多発する社会でもある。
 先に述べた「市民の意見30の会・東京」のニュースレター52号で、ダグラス・スミスは「今、アメリカ合州国で牢屋の中にいる人数は百万人を超えている。政府では管理しきれないから、牢屋の民営化が始まっている。・・・政府と契約して企業が牢屋を創って管理している場所もある」と述べている。
 朝日新聞の「窓 論説委員室から」(’98年11月2日)は、国連開発計画(UNDP)が最近まとめた「人間貧困指数」の国別順位を紹介している。
 この指数の根拠は、「まず、1年以上の失業者と60歳以上での死亡者を数える。そこに可処分所得が平均の半分以下の人数、薬の能書きなどが理解できない人の率を加えていく。これらに当てはまる人の、人口に占める割合が多い国ほど順位は低くなる」。すなわち「収入に加えて、人々が不健康で、能力を発揮できずにいる状態こそ『貧しい』と考える」。この指数を用いて、先進17カ国の順位を出した。上位からスウェーデン、オランダ、ドイツと並ぶ。日本はまん中、8位だ。ここまで読んでいただいたあなた、最下位はご想像どうりです。アメリカです。
                   ('99.3.5)
*この文章で登場した「市民の意見30の会・東京」
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