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スターリングラード Enemy of the Gates
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 第二次大戦のまっただ中、ソ連とドイツとの激戦の地となった最終防衛拠点・スターリングラード。劣勢の窮地に追い込まれたソ連は、狙撃の名手である一人の青年を英雄にと祭り上げることで、兵士たちの、ひいては国そのものの士気昂揚を図る。そしてそれは確実に成功を収めていった。この事態を重く見たドイツ側から、スターリングラードへ、やはり凄腕のスナイパーが送り込まれてくる……。

 このストーリーの骨格だけ聞いた段階では、私はかなり燃えるツボを刺激され、期待を抱かせられていたのです。
 しかしこれは、何やら非常に中途半端な、残念な出来合いの作品だったのでした。冒頭の戦闘シーンこそ圧倒的な迫力で魅せてくれるものの、それ以降はどうにも盛り上がりに欠けたまま終わってしまったというのが、観賞後の印象です。
 まず、狙撃手同士の対決という構図に、今ひとつ緊張感が足りていませんでした。一対一ならではの駆け引きの妙味といったものが、そこにあまり見られないんですね。また、物語のもう一つの軸である「英雄としてではなく、一兵卒として戦いたい」という主人公の葛藤も描き切れていないように感じました。さらに全体に言えることとして、演出が手堅すぎるあまり、面白味に欠け、重い息苦しさを常に味わわせられる事になっていたように思います。

 しかし、そういった数多ある欠点を補って余りあったのが、狙撃手を演じていた二人の俳優の存在感です。
 まず、ロシア側であるジュード・ロウがいつもながらの魅力を発揮してくれていました。『クロコダイルの涙』の時も書きましたが、憂いと色気とを同居させた青年像を演じさせたら、今活躍している若手俳優の中でも彼が随一じゃないでしょうか。
 そして、それを凌駕するごとく、ドイツ側のエド・ハリスが素晴らしく、いい。登場した瞬間から、「こいつは強い!」と思わせるような風格が、そのたたずまいから滲み出ているんですね。セリフなどによる説明がまるで不要なのが凄い。こちらも以前から私のお気に入り俳優さんの一人なわけですが、この映画でまた惚れ直しちゃいましたよ。
 とにかくも、この二人の名優の存在のおかげで、この作品はなんとか体裁を保っていたように思います。しかし逆に言えば、俳優の力に寄り掛かりすぎな映画ということにもなりますね。それはやはりひとつの作品としてみると問題でしょう。

 主人公の心理描写なり、対決シーンの密度なり、どこかにもう少しポイントを絞っていれば、散漫な印象は多少でも払拭できたんじゃないでしょうか。シチュエーション自体は好みなだけに、何かもったいなく感じさせられた作品でした。

 ロシア人もドイツ人も英語を喋ってる、という点に関しては、不思議とほとんど違和感がありませんでした。ただ、「単語のつづりを教えてくれ」というシーンでまで英語で答えていたのはマズイでしょう、さすがに……。



(01.05.24)