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ゴーストワールド Ghost World
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 観る前から「これは間違いなく俺のツボだな」と期待をふくらませて観に行って、事実その通りでした。ものすごく面白い、というタイプの映画ではありませんが、じんわりと楽しめる良作です。

 主人公イーニドは、ちょっとひねくれ者で毒舌家の小娘。高校を卒業したばかりの彼女にとって、町に住む人間はみな変人ばかりのバカばっかり。友人のレベッカと一緒になって、彼らをからかい、鼻で笑って楽しんでいる。
 周囲の環境を受け入れることも順応することもできないが、かといって切り捨ててしまえば孤独に耐えられない。そんな矛盾に満ちた気持ちを抱える毎日を過ごすうち、彼女はひょんなことから、ジャズマニアのさえない中年男と知り合う……。

 オフビートでブラックなユーモアが全編に満ちていて、始終クスクス笑いが絶えない中、ふと垣間見える「現実」がグッと胸に刺さってくるような、これはそんな映画です。感覚としては『バッファロー'66』と似た感じでしょうか。あちらよりも主人公が若い分、気持ちが切実に、ストレートに伝わってくる部分もあります。

 主人公イーニドを演じたソーラ・バーチが実にいい演技をみせて、この映画全体の雰囲気を支えていました。性悪で強がりで、実は人一倍変わり者のくせに、「あたしだけはマトモなのよ」といわんばかりの立ち振る舞い。最初のうちはそれが笑いの引き金になり、物語が進むにつれて次第に共感を呼ぶようになっていきます。感情移入を誘う、この過程の見せ方が実に巧い。
 イーニドのような一歩引いた冷めた視点というのは、程度の差こそあれ、誰しもが持っているものなんじゃないでしょうか。自分の価値観が正しいという意識がまずあって、あとはそれをどれだけ抑えているかの問題に過ぎなくて。だけど自分の我ばかり押し通していては、周囲との衝突は避けえない。彼女もそれを学び、そして悩みます。
 マトモだと思っていた自分自身も実は異端であると認識したときの、足場を失ったような不安感。それはきっと多くの人が共感できるものだと思います。

 この映画では、社会不適応な存在を肯定も否定もしません。解決においてもいくつかの方向性を示すだけで、「これが正解」といえるものは提示していません。そのことが不思議な余韻を呼び、何ともいえない味を生みだしています。
 物語があるようでないようなこの作品、観る人によって感想は様々でしょう。かわいくてちょっと切なげなコメディとして観ても楽しめますし、イーニドの姿を今の自分と照らし合わせていろいろ考えてみたりするのもいいかもしれません。決して思い切りオススメはしませんけど、何にせよ観てみて損はない映画だと思いますよ。

 ちなみにこの映画、元はコミックが原作になっているそうな。どんなものか興味を惹かれるとこです。



(01.08.23)