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ダンサー・イン・ザ・ダーク Dancer in the Dark
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奇跡の海』を観たときも思ったのですが……このラース・フォン・トリアーという監督は、どうしてこうも弱者に対して厳しいのでしょう。いや厳しいと言うより、これはもうもはや苛めですね。監督の加虐趣味を押しつけられても、受け手の側は不快になるばかりです。『奇跡の海』はまだ私の許容範囲内でしたが、今回の作品はラインを超えてしまっていました。

 善良な主人公が、しかし身体障害者であるがために、無実の罪を着せられ、愛する息子とも離ればなれになってしまう。こんな設定の物語、ほっといたって悲劇になるに決まっています。ここでこの作品が酷いのは、この主人公に対してなんの救いも与えないところです。ただひたすらに可哀想なまんまで終わらせてしまう。これはちょっとあんまりでしょう。

 救いのない悲劇である、ということ自体が悪いと言いたいのではありません。問題なのは、この映画が、そうした悲劇を用いて何らのメッセージも伝えようとしていないことです。
 陳腐な例で申し訳ないけれど、例えば障害を持った人には親切にしようとか、社会そのもののアリヨウに対しての問題提起だとか、せめてそういうエクスキューズがあればまだしも、そんなものすらないのです。悲惨な主人公が悲惨な目に遭った、以上。そんな話を見せられて、楽しめるわけがありません。冒頭で『苛めだ』と書いたのは、つまりはこういう事です。
 そのくせ、独りよがりの自己犠牲や偽善でしかない行為を、さも美談のように見せようとしている姿勢が垣間見えるんですよね。そんなところがまた、実にあざとく、いやらしく映ります。

 ビョークの歌声やミュージカル・シーンは確かに素晴らしく、一見の価値はあるものです。でもそれはあくまでビョーク自身の魅力であって、物語そのものの評価とは関係がありません。歌やダンスを見せたいなら、そういうことはどうぞビデオクリップなどで存分におやり下さい。そこへ適当なストーリーをくっつけて『映画』だとか名乗るのは、やめてもらいたいものです。

 それにしても、こんなにクセのある、作家性の強い映画が、なぜ一般客にまでヒットしてるんだろう……。週間の興行成績が一位になってたりしてるもんなあ。ほんと不思議です。



(01.01.29)