Text - Diary - Past - December,2001
| 01.12.01 | ・ | テープカット |
| レンタルビデオを借りてくるときの選択基準というのはいくつかある。お気に入りのあの俳優が出てる作品を見てみようとか、今まであまり見てなかったジャンルや監督の作品にしてみようとか。いずれにせよ、そこには何かしらのチャレンジの要素が入るわけだが、そうではなく、とにかく外れなし、100%間違いなく楽しめる、というものを見たい時がある。 まさにそんな気分であったこの日、私が選んだ方法は、今までに見て面白かったものをもう一度見る、というものであった。安直なようだが、確実この上ない。しかも、できればもう半分内容を忘れかけちゃってるようなやつがいい。 そんな意味で、私が狙いを定めたのは『レオン』である。 ……「うわ、出たよ」などと苦笑しないで下さい。私も実はちょっと恥ずかしい。でもこれ、以前に見てからだいぶ、そう、もう5年くらい経っていて、どんな風に面白かったのか自分でもよく覚えていない。その間、映画を見る目もささやかながら変わったという自負もある。もう一度見直して内容を確認しておきたいという気持ちが、以前からあったのである。 棚に行くと、さいわい貸し出し中にはなっていなかった。外カバーからテープのケースを取り出す。持ち運び用のカゴに入れて…… ん? ちょっと待て。違和感を覚え、私はケースを確認した。やっぱり。これ、レオンじゃない。『ペイ・フォワード(吹き替え版)』。テープのタイトルには、はっきりとそう書いてあったのである。 別にハーレイ少年なんか見たかありません。だいいちこれはもう劇場で見たし。つまんなかったし。しかしそれにしても、なんでレオンのケースにペイフォワードが入ってんだ? そして何より、この間違っちゃってるテープの所在をどうしたものか……。レオンに戻すわけにもいかないしなあ。 結局私は、ペイフォワードのケースを探すことにした。これはきっと中身が入れ替わっちゃってるんだろう、そう判断してのことである。店員の手を煩わせない、模範的な客といえよう。店内をてくてく歩き、新作のコーナーにて、あったあった、ありましたよペイフォワード。ハーレイくんが困った顔して並んでます。さて、その中からさらに吹き替え版のケースを探し、手に取り、その中身を出して見ると、 『ハート・オブ・ウーマン(メル・ギブソン主演)』。 どうなっちゃってんだこのビデオ屋は。好きな場所に返したい放題かよ! とりあえず別のペイフォワードの空きケースにテープを突っ込んで、レオンをそれ以上探すのは諦めました。というかすっかり萎えた。 仕方がないので私は別の候補、『ナイト・オン・ザ・プラネット』という映画を借りてきた。ジム・ジャームッシュ監督作品で、ウィノナ・ライダーが出演している、お気に入りの一本である。今度はテープをしっかりチェックしたが、ハーレイくんだったりシュワちゃんだったりはしてないようだ。 余談だがこの映画、私はどうも、オン・ザ・プラネットなんだか、オン・プラネットなんだか、つまり『ザ』が付くのか付かないのかが思い出せなくなってしまいがちである。これは言い訳だが、この映画の原題はもともと"Night on Earth"であって、theは付かない。邦題にしたときに勝手にアースをプラネットにした上に、さらに勝手に『ザ』を付けるという、わけの分からないことをしている。私の許可もなくそういうことをするから混乱が起きる。困ったものである。 話か逸れた。とにかく、この映画を借りて帰宅した私は、さっそくその待望の、ヒット間違いなしの映画を見んがため、いそいそと用意を整える。 着替えて、トイレ行って、飲み物用意して、テレビの前に座布団とクッションをしつらえる。ビデオ屋ではちょっとてこずったが、何しろ確実に楽しめるものを選んできたのだから、その楽しさは確実なはずだ。わくわくである。 デッキに押し込み、クッションの距離まで飛びのいて、テレビの黒い画面に映像が映し出されるのを待つ。 んぎゅるきゅるぎゅる〜〜。 ひどく神経に障る怪音が部屋に響いたかと思うと、デッキからカセットがひとりでに吐き出されてきた。同時に、デッキの電源が切れる。そして沈黙する部屋。 ……なんだ?! 異常事態に驚いてデッキに駆け寄り、カセットを手に取ってみると、その中から内臓のようにはみ出た黒い磁気テープが、ぐるぐるに絡み付いていたのであった。ビデオテープが切れる、なんてことを経験したのはこれが初めてだったが、少なくとも、そのテープがもはや再生不可能であることは、一瞬にして見て取れた。 この時の何ともいえない脱力感を、どう表現したらよいだろうか。 しかしそれとともに、私は非常に焦ってもいた。こうした場合、レンタル店とどういうやり取りが交わされるのか、咄嗟には見当が付かない。 テープ代を弁償させられるのだろうか。しかし買うとなると、仮に定価で4〜5千円として、今までレンタルとして磨耗していた分はどう差し引かれるのだろう。いやしかし、見た後ならまだしも、見る前に切れてしまったものに対して弁償というのもおかしな話ではないか。むしろレンタル料を返して欲しいくらいだと言えなくもないし、最悪、デッキが故障でもしてたらその責任はどうなるのか―― 様々な対応を頭の中でシミュレートし、パターンAからFくらいまで用意して、私はレンタル店のレジへと臨んだ。矢でも鉄砲でも持って来い! すると店員は、 「テープの寿命で、よくある事です。申し訳ございません。お客様に非はございませんので」 と、にこやかに無料券を2枚くれたのだった。 もちろん何ら問題のない結果なのだが、なんとなく気勢をそがれた形となった私は、曖昧な笑みを返したまま、深く突っ込むこともできず、意味もなくヘコヘコしながら帰ってきた。 その後、改めて別のビデオを見たりもしたんだけど、それはまた別の日にまとめて書きます……。 |
| 01.12.02 | ・ | すうがくのもんだい |
| 「俺がバイトしてる家庭教師で――」 もうだいぶ酔いも回ろうかという夜半過ぎ、K氏がそう切り出してきた。私のアパートに乗り込んで飲んでやがるのである。私がまだ350mlのビールを1缶空けてないというのに、彼はもう4本目の500ml缶を飲み干そうとしている。 「――数学を教えてるんだけどさ、いやぁ、さすがにだいぶ忘れてるわ」 「だろうなぁ」 「中学生の数学でも、やり慣れてないと困るもんだよ。最近いくつか、かなり悩ませられたのがあったんだけど……」 と言いながら、彼がメモに書きつけてきたのが以下に示す2問である。 簡単そうに見えるが、意外に苦戦する可能性もある。……気がする。 パズルっぽくて面白いですよ。 ちなみに、私は……。 ……。 …………よ、酔ってたんで…………。 問1
直線ab上に三角形acdがあり、∠acdは60°である。 ∠cabと∠cdb、それぞれの角の二等分線が交わった点Xの角度を求めよ。 問2
∠a + ∠b + ∠c + ∠d + ∠e = ? 正解はここに書いておきます。あなたは中学生の家庭教師になれるでしょうか。 |
| 01.12.05 | ・ | ピッグスープ |
| 寒い日には暖かい汁物に限る、というわけで、豚汁を作ってみた。実は自作するのは初めてである。初めてである、つったって、ただ野菜と肉切って味噌でくたくた煮るだけなので難しいことは何もない。現に、さほどの手間もかからず、まずまず旨いものが完成した。少なくとも自分だけが食べるぶんには充分である。 ただ、何か新しい料理を作る時、毎回毎回毎回毎回そうであるように、今回もまた、全体量の調節を大胆に見誤った。大なべ丸ごと、あふれんばかりに豚汁である。とても一人暮しの台所とは思えない。器を持って配給を待つ子供たちが列を作って待っていてもおかしくないほどである。 結果的に私はこれを3日連続、ほぼ毎食食べる羽目になった。料理に関しておよそ学習というものと縁遠くて、困ってしまうなぁ。って、腹の底から言ってないから学習しないんだが。ハイハイそこそこ、行列崩さないで〜。 |
| 01.12.07 | ・ | ムービーマン |
| この1週間くらいで、ビデオ・劇場含めて結構な数の映画を見たので、まとめて簡単に報告しておきます。全部で9本。映画に興味ない人にはごめんなさいです。 ・『クライング・ゲーム』ニール・ジョーダン監督 ●●●● 意表を突いた中盤の展開が、この映画の大きな眼目らしい。パッケージで「人には話さないで下さい」と念押しされるほどである。しかし、こうした予断を与えられてしまうと得てして驚きは減ってしまうものだし、そもそもこの映画の実際のテーマは、その先の展開にこそあったと思う。とはいえ残念ながら、その先がさほど面白かったわけでもないのだけど。 ・『サトラレ』本広克行監督 ●●●●● →Movie参照。 ・『ゴッドファーザー』フランシス・F・コッポラ監督 ●●●●●● ・『ゴッドファーザー Part II』(同上) ●●●●● フィルムの中で、登場人物たちが本当に齢を重ねていくかのように錯覚してしまう。鮮烈なイメージの『I』に比べ、『II』は深みと奥行きがある。二作続けて一つの物語だと思うが、『II』は現代パートの人間関係が把握しづらく、やや退屈に思えた。それにしても、パチーノもデ・ニーロも、初登場時には誰だか判らんかった……。 ・『DEAD OR ALIVE・犯罪者』三池崇史監督 ●● 「とんでもないラスト」ということで話題になっていた作品。で、まあ確かにとんでもなかったのだけど……こんなだったら、もうなんでもアリじゃん。意味が違うだろ。ラストに行き着くまでのお話も散漫で見てられなかった。映像的にはセンスがうかがえたので、最低点だけは見逃しておいてやる。 ・『パリ、テキサス』ヴィム・ヴェンダース監督 ●●●●●● ドライでいながら、まったりと優しい雰囲気が実に心地いい。映像、役者の演技、そしてライ・クーダーのギターの音が、絶妙の空気感を醸し出している。どのキャラクターもカワイイし。ただ冷静に見れば、主人公の取った行動ってずいぶん身勝手で傍迷惑なわけで、あまり釈然とはしないのだけれども。 ・『生きる』黒澤明監督 ●●●●● 冒頭の、役所たらい回しシーンでは苦笑せざるを得ない。もう50年も前の映画だってのに、基本的な体質みたいなものって何一つ変わってないんだなぁ。それにしても、人生ここまで、とリミットを付けられないと尻に火の着かない人間=“生きる”ことの出来ない人間のなんと多いことか。自戒を込めて言ってみる。 ・『或る夜の出来事』フランク・キャプラ監督 ●●●●● すでに大戦前に、これだけテンポ良く楽しい映画を作れていたアメリカって、やっぱり凄い。とにかくクラーク・ゲーブルのカッコ良さが際立っている。飄々としたユーモアがあり、行動力抜群、女性に対しては紳士で、それでいてお茶目と、人間味を失わないところもいい。物語は中盤以降息切れするのがちょっと残念。 ・『千と千尋の神隠し』宮崎駿監督 ●●●●● →Movie参照。 |
| 01.12.08 | ・ | ディレクターズカット |
| 友人の結婚式に招かれた場合、それだけはやっちゃいけないことというのがいくつかある。とはいえ祝いの席、大抵のことは笑って済ませられることだろう。 しかし、 「新郎新婦より先にケーキカットをしてしまう」 というのは、さすがに洒落では片付けられないと思う。 これがなんと実話だというから恐ろしい。今日行ったバーのバーテンのお兄さんが、写真付きで披露してくれた逸話である。得意げに見せてくれた写真には、達成感溢れる会心の笑みで、ウェディングケーキにあの長いナイフを突き刺す彼の姿があった。 彼は他にも、回転テーブルの上で全裸になって踊るなど、悪事の限りを尽くし、係員につまみ出される寸前まで行ったそうだ(というか、よくつまみ出されずに済んだものだと思う)。しかし、式の情景を撮影したビデオからは、彼の姿は編集できっちりカットされていたとのこと。ある意味もったいない気もするが。 彼は別に新郎新婦に恨みがあったとかそういうわけじゃなく、ただ単に酒の力で浮かれていただけだそうである。だからってウェディングケーキ破壊しちゃダメだろ。式からいきなりツイてなかった新郎新婦に、幸多からんことを。 |
| 01.12.09 | ・ | あの音だろ? |
| 自作ATとは名ばかりで、90%以上は他作であることで有名な私のデスクトップマシン。その多くの割合を手がけたファイティング越後氏とともに、私はこの日、秋葉原にいた。 「音がうるさい」 生意気にもそんな事が気になりだした私は、デスクトップを少しでも静かにするか、あるいは安いノートを見つけてサブマシンとするか、その対策を練るがため、越後氏をいきなり呼び出したのである。不遜な行為と言えよう。 メイドさんからは卒業したという彼の告白に驚愕しながらも、まずは手ごろなノートを探して電気街を散策。機能にこだわらなければ、3万円程度で手に入ることが判明した。しかし、いくらこだわらないとはいえ、古い物はさすがにデザインも野暮ったい。贅沢を言える立場じゃないことは分かっているのだが、かといって即決する気にもなれなかった私は、とりあえずノートは保留ということにし、もう一つの目的であるデスクトップの静音化にとりかかった。 手軽な改良点として、電源ボックスを取り替えてみてはどうかということになった。越後氏の案内のもと、何軒かの店を回り、やがて、値段も質もちょうどよさそうな物を手に入れることができた。これでまた私のPCの他作率がアップしたということになろう。彼には大感謝である。 今日のところはノートの件はひとまず棚上げにして、秋葉原で越後氏と別れた私は、電源ボックスを片手に意気揚々とアパートへと戻ってきた。ケースを開けて電源を取り替える作業は、慣れないこともあってかなり苦戦したけれど、どうにかこうにかできたようだ。よしよし、これで少しでも静かになれば今回の改造は成功だろう。期待に胸を膨らませつつ、スイッチ・オン。 その途端、耳をつんざくような、物凄い音がした。慌てた私はあちこち原因を調べるが、この時点では何もわからない。しかし少なくとも、新しい電源ボックスが問題ではないようだ。 ほどなくして、ドリルのごとき謎の騒音はひとりでに消えた。首をひねりながら、それでも起動したウィンドウズから、各部分の動作チェックを行ってみると、一ヶ所だけ、正常に動作していない部分があった。 「フロッピーのドライブ? 起動したとき、凄い音がしたんだろ?」 電話で越後氏に相談してみたところ、彼は一撃で言い当てた。 「それ、電源コードの差し方が逆なんだよ! またかよ! まけー、前も同じことやって、ドライブ壊したじゃん!」 そうなのだ。言われてようやく思い出した。その時も確か、ほとんど同じネタで日記を書いた記憶がある。 その時は余っているドライブを彼に譲ってもらえたが、今回はそうもいかない。これでまた私は秋葉原へ行かねばならないのである。さいわい、フロッピーのドライブは1500円程度で買えるようだが、100円の差を惜しんで今日一日歩き回って、少しでも安い電源ボックスを探していた苦労は……。 ちなみに新しい電源、確かに若干静かになりはしたけれど、一番の騒音源はハードディスクのようで、ここを何とかしないと根本的解決にはならないようだ。こうやって芋づる式に金がかさんでいくのだなぁ。 |
| 01.12.11 | ・ | アンチ・ハイソ |
| 本の流通会社に勤めている友人が、『ESSE』という雑誌をくれた。「お前は一人暮らしだからたぶん役に立つだろう」という。今まで読んだ事はなかったのだが、ぺらぺらとめくっているうち、雑誌全体から何か奇妙な雰囲気が漂ってきていることに気付いた。 内容は、こまごまとした暮らしの知恵を集めた、主婦向きの雑誌ということになる。押入れの収納テクニック! だの、大根1週間使いきりムダなしメニュー! だのといった記事が、所狭しと書き込まれており、その質はともかく、過剰なほどの情報量には圧倒される。 ここで、非常に生活感に溢れている、と言えば聞こえはいいのだが……実際読んでみるとそれよりももっと、言葉は悪いが、下世話な印象を受けてしまうのである。 その下世話っぽさが顕著に現れていたのが、今回の特集の一つ、『今年こそ、わが家も脱・赤字家計だ!』である。要するに、生活のムダをなくし、少しでも貯金を増やそうという試みで、その志自体は、年じゅう貧乏な私などからしても非常に興味のあるところだ。しかし、その内容は―― 『ニンジンの皮でキンピラ……ニンジンの皮はよく洗えばちゃんと食べられます!』 『ツナ缶の油で野菜炒め……野菜炒めや卵焼きの油として使えば、ほんのりツナの味がしてグッド』 ――といった、それを実行していったいいくらの得になるというのか、非常な疑問を感じるものばかり。 まあ、とはいえ、食べ物を粗末にしないのはいいことだ。実行するしないはともかく、その精神は見習いたいとは思う。 だが、食べ物とは関係のない、これはどうか。 ![]() そこまでやるか……。 その労力に見合うだけの報いが、果たしてあるのか? だいいち、DMを裏返した封筒を、いったい何に再利用するというんだ。"Reversible!" とかいい加減なこと書くなよ、イラストの人も。 画像は掲載しないが、『食べ終わったリンゴの皮で入浴剤』だとか『いらなくなった靴下で便座カバー』なんてものまである。もはや何をかいわんやといったところであろう。 この雑誌にはそんなアイデアが、一つや二つどころじゃなくて、数十個単位で書いてあるわけだ。なんとも言えない下世話感にゲンナリしてしまった私の気持ち、理解していただけるだろうか。ただ、世の中、リッチでモダンな暮らしをしてる人ばかりじゃないんだということを確認したい向きには、別の意味でご一読をお勧めする。 書きながら思い出してたんだけど、この雑誌の下世話さ加減て、ナンシー関も取り上げてた気がするなぁ……。 |
| 01.12.13 | ・ | そういう季節 |
| 夜の渋谷を歩いていたら、どこもかしこもクリスマス一色だった。 もうそんな時期なんだなあ。 あと2週間もないのだから当たり前か。 そんな事をしみじみ思いつつ、私はそのあと、秋葉原行ってフロッピーのドライブを買った。 サイバーな冬。 |
| 01.12.16 | ・ | おまえじゃない |
| 電話を待っていた。自分のアパートの部屋だ。隣には越後氏がいる。もう一人来るはずの友人が来ない、その人物からの電話を待ち侘びているのである。 こちらからも相手の携帯に何度も連絡を試みるが、全く繋がらない始末。そうこうしているうち、約束の時間から3時間ほども過ぎようとしている。だんだん心配にさえなってきた。 やがてようやく電話が鳴った。気まずい空気を破るように。安堵の表情で顔を見合わせる私と越後氏。 しかし、ナンバーディスプレイを見ると、これが非通知になっている。 非常に嫌な予感がした。というのもここのところ、セールスの電話が夜になるたびかかってきていたからだ。不動産だとか融資だとか、何度断っても懲りもせずにかけ直してくる。そしてセールスといえば非通知と相場が決まっていた。 ハイテクのおかげで、受話器を取る前から相手の当たりを付けた上で、実際に取ってみると―― 「あ、お忙しいところ失礼しますが……」 案の定だ。馬鹿丁寧で癇に触る男の声が受話器の向こうから聞こえてきた。 普段であれば私もそれなりに紳士的な対応をするところだが、残念ながら間が悪かった。私は相手に全てを語る間も与えず、お忙しいよ馬鹿、とだけ答えて叩き切った。 ところが、切ったあとの静寂が一分と続かない。再び電話が鳴る。 これがまた、非通知なのである。 友人がかけてきたにしてはタイミングが良すぎる、そう思った。明らかに怪しい。この電話はしばらく鳴らしておくと自動的に留守電に切り替わる。友人には、もしアパートに電話が繋がらなければ携帯に連絡しろと伝えてもある。ここは様子を見ておいてもいいだろう。そしてやがて留守電になった途端、電話の主は何も言わずに切った。 その後さらに数分置きに、非通知の電話が執拗にかかってきた。そのたびに無視して留守電にしておいたのだが、やはりどれも無言である。 5回目あたりで、さすがにこちらもうんざりしはじめた。それに考えてみれば、セールスの逆襲にしてはちょっとしつこすぎないか。あちらさんだってそうそう暇ではないだろう。もしかしたら、折悪しく友人の電話が混ざっている事だって考えられる。 とりあえず電話を取ってみる。ただし、こちらからは何も言わない。「……」 すると、あちらもやはり無言のままである。「…………」 奇妙な沈黙に耐えかねて、私が「もしもし」と言った、それとほぼ同時に、乱暴な音とともに電話は切られた。 そして、それっきり、かかってこなくなった。 その後しばらくしてようやく連絡の取れた友人の話だと、急に体調が悪くなって寝込んでしまい、連絡しようにも出来なかったということである。そういう事情があったなら仕方がない。事故などでなくてほっとした。 しかし、ということは、さんざんぱらかかってきていたあの無言電話は、やはりセールスの報復だったということか。怒らせると陰険だな彼らも。いくら非通知だろうが、悪質なのはNTTに問い合わせればいくらでも分かるんだが。 |
| 01.12.19 | ・ | みらいのわたし、わたしのみらい |
| 「来〜年〜があ〜る〜さ〜」 あの曲を聴かされるたびにうんざりして、私はむしろ、来年もあんのか、と呟きたくなるのだが。 目の前に未来が時間が運命が続いている、その意味。 ジャスコの惣菜コーナーで、いつものコロッケを買いながら。 |
| 01.12.20 | ・ | 下着でファイト |
| 駅前のファミレスで夕飯を食べていたら、隣のさらにもうひとつ隣の席に座っていた女性二人組が、何やら楽しげな話題で大いに盛り上がっていた。 勝負下着の話題だった。 「これで勝負ー! みたいなヤツ着てると、バーッって脱いでみせたくなるよねー」 ……あの、ここ、飲み屋とかじゃなくて、フツーのファミレスなんですが。 そんなデカい声で、しかもジェスチャー入りで。 場合によっては、じゃあその勝負相手に立候補、はーい、という展開に行こうかとも思ったのだけど、ちらりと横を向いてその女性たちの姿を見たら、目の前のハンバーグの方が圧倒的に魅力的に思えてきたので、せっせと食べて帰って寝た。 |
| 01.12.22 | ・ | 理由 |
| 真昼さん主催の忘年会に参加してきた。夏に引き続き、ネット関係だけで100人集めてしまうというパワーが何しろ凄い。その人数の多さにも関わらず混乱などもなく、開始の7時から明け方まで過ごすことができた。その運営手腕には敬服である。 しかし個人的には、夏の時同様、自分のコミュニケーション能力の低さを痛感させられることが多かった。新しく友人になれた人もいたけれども、そういう僥倖に恵まれる事はむしろ少なく、100人いるうちの大多数が未知の存在、しかもすでにいくつかの固まりが出来上がってしまっている状況で、何もないところからきっかけを作って突っ込んでいくのは正直言って厳しい。結局、既知の友人との交流をすこし暖める程度しかできなかった。せっかくの機会だったのに、勿体ない話である。どんな相手に対しても話題を振っていけてその場に溶け込んでいける人が、まったく羨ましい。 同年代の友人にこの辺の話をすると、「若い人たちに無理に合わそうとしてるからでしょ」だと。しかし会の後半以降、オヤジばかりのカラオケ部屋がいちばん落ち着いたのは事実だから、あながち間違ってない指摘かも。年は取りたくないもんじゃのう。 |
| 01.12.26 | ・ | 400円でも温泉ですから |
| 久しぶりに横浜まで行って、久しぶりの人たちと会ってきた。 なんかみんな1ドットも変わってなかったんで超びびった。 おまえもだろ、と言われた。 温泉は茶色かった。 確か以前に温泉旅行に行ったときも書いた覚えがあるが、うぃすぷ氏は痩身で色白、そしてかなりな長髪である。そんな彼が体を流している後ろ姿には、なんというか妙な生々しさがある。湯船に使っていた他のおじさまたちも、彼の背筋のラインあたりに視線を注いでいた。本人を知っている私ですら一瞬ぎょっとさせられるほどなのだから、第三者が遠目から見たら何事かと思うに違いない。それこそ温泉の新サービスか、とばかりに。振り向けばうぃすぷ氏なわけなのだけれども。 |
| 01.12.27 | ・ | アンフォゲタブル |
| 「なんで人の分までしゃぶしゃぶすんだよ」 「おれにもしゃぶしゃぶさせろよ」 映画のパクリそのまんまの台詞をぼそぼそ口走って悦に入りながら、津田沼あたりで思う存分しゃぶしゃぶを食してきた。私がサワーを1杯飲む間にK氏は中生を5杯も飲み干し、彼女さんからも怒られていた。 K氏が悪びれもせず「いいだろ、忘年会なんだから」と言うと、 「もう何回も忘年会やってるくせに、ぜんぜん年忘れてないじゃない」 その後ずいぶん久しぶりにボウリングをやったら、80かそこらしかいかず、余裕でビリだったことは、忘年要素の中に含めておきたい。スコア表に書くなよ、ビリて。太字で。立体で。派手なバックまで付けて。 さらにそのあと「飲み足りねえ」とかぬかすK氏に付き合って、二人で朝まで飲んだ。ただK氏は常に酒だったが私はほとんどお茶だった。途中で調子に乗って日本酒行ったら二口が限界だったのだ。むせてひっくり返るかと思った。たまには酔っ払って気持ち良くなりたい。 |