4 暖帯植物

 (旧)山口村には暖かい地方の植物が多いと言われれている。地球の北半球では低緯度(南方)の所ほど温度が高い。本村は木曽谷の南端にあり、長野県としても下伊那郡の南端には及ばないが、南部に位置している。また同緯度でも高地は温度が低く、高度が一○○b高くなるごとに約○・六度下がると言われている。本村にも梅抜一○○○bを越える所もあろが、それはごく一部で、狭いながらも三○○b以下の所もあり、大部分は七○○b以下である。このように山口村は位置と高度からみて気侯が温暖で、暖地の植物の多いことが考えられる。

 わが国は気侯の上で大部分が温帯に属すが、そのうちでも比較的暖かな地方を「暖温帯」または「暖帯」と称し、そこを中心に生育している植物を「暖帯植物」という。本州中部ては海抜五○○b以下の所を植物の垂直分布の上で「丘陸帯」と称し暖帯植物の多い所とされ、それを代表するのが常緑広葉樹{照葉樹)であるところから「常緑広葉樹林帯」とも呼んでいる。

山口村では山口地区の集落地を含む耕作地のほとんど全部と、北部森林地帯の中部以下が丘凌帯に属して暖帯植物が多く、狭いながらもカシ類の群生地も見られる。また位置と地形の上からか神坂地区では五〇〇bを越える所にも暖帯植物が比較的多く見られる。

 次に山口村に野生している暖帯植物をあげると、木本(樹木)では、

イヌガヤ・カワラハンノキ・サクラバハンノキ・クヌギ・シラカシ・ウラジロガシ・ツクバネガシ・アベマキ・マツグミ・シロパナカザグルマ・ヘビノボラズ・ナンテン・ツヅラフジ・サネカズラ・シキミ・カナクギノキ・シロモジ・ウラジロウツギ・コアジサイ・オオフジイバラ・テリハノイバラ・ミヤマフユイチゴ・ナガパモミジイチゴ・ヤマザクラ・カラスザンショウ・ユズリハ・アカメガシワ・シラキ・イヌツゲ・ソヨゴ・ウメモドキ・ウシカバ・ゴンズイ・イロハモミジ・ムクロジ・オオクマヤナギ・アマヅル・ケケンボナシ・ウラジロマタタビ・コバノクロウメモドキ・ヤブツバキ・サカキ・ヒサカキ・チャノキ・イイギリ・アオキ・アセビ・サツキ・ミツバツツジ・モチツツジ・コバノミツバツツジ・ヤブコウジ・クロミノニシゴリ、ヒトンバタゴ・ヒイラギ・テイカカズラ・ヤブムラサキ・コツクバネウツギ・コウヤボウキ・サルトリイバラなどの60種を数える。

 また草木では

コウヤザサ・ハイチゴザサ・ササクサ・ミヤマササガヤ・ハイヌメリグサ・ナキリスゲ・タチスゲ・スルガテンショウ・シライトソウ・ヒメヤブラン・ヤブラン・ジャノヒゲ・オオバジャノヒゲ・ナガバジャノヒゲ・ヒメドコロ・イワチドリ・マメズタラン・ムキラン・セッコク・ベニシュスラン・ヒメフタバラン・ヨウラクラン・モミラン・カヤラン・オニヤブマオ・クサマオ・メヤブマオ・ナガバヤブマオ・ヒメウワバミソウ・ヒメカンアオイ・シンミズヒキ・ボントクタデ・マルミノヤマゴボウ・ミヤマネコノメソウ・コガネネコノメ・ミカワチャルメルソウ・コダイコンソウ・オオバタンキリマメ・マツカゼソウ・ナガバノスミレサイシン・チドメグサ・ミヤマタゴボウ・ハルリンドウ・トウバナ・ミカエリソウ・シラゲヒメジソ・アキチョウジ・タカクマヒキオコシ・トウゴクシソバタツナミ・タツナミソウ・シソバタツナミソウ・アプノメ・キクモ・クチナシグサ・スズメノトウガラシ・アゼトウガラシ・ウリクサ・キツネノマゴ・フタバムグラ・ハシカグサ・シロバナイモリソウ・スズメウリ・サワシロギク・ヒメガンクビソウ・スズカアザミ・リュウノウアザミ・スイラン・ムラサキニガナ・ハンカイソウ・シュウブンソウ・シロバナタンポポなど71種で、種子植物は合計131種となる。

 またシダ植物には

カニクサ・コシダ・ウラジロ・アオホダゴケ・マメヅタ・ヒメノキシノブ・サジラン・セイタカシケシダ・ムクゲシケシダ・ホソバイヌワラビ・ヒロハイヌワラビ・シケチシダ・キヨスヒメミワラビ・オオクジャクシダ・ベニシダ・オオベニシダ・サイゴクベニシダ・トウゴクシダ・ハシゴシダ・ヨコグラヒメワラビ・ヤワラシダ・ヒメワラビ・チャボイノデ・アイアスカイノデ・イノデ・サイゴクイノデ・イノデモドキ・オクタマシダ・オオキジノオ・キジノオシダ・イワガネソウ・コバノイシカグマ・イワヒメワラビ・タチシノブ・オオバイノモトソウ・イノモトソウ・イヌドクサ・ヒロハトウゲシバ・オオハナワラビ・ヤシャゼンマイ・など41種があり、

これら暖帯植物の合計は172種となる。

 暖帯植物の中には前にも述べたように常緑広葉樹が多いが、本村に野生している常緑広葉樹は25種で、木曽谷北部や中信地方に比ぺて20種多い。なおここでは暖帯植物の範囲をやや厳密に絞ったが、少しこれを緩めれば20種ほど多くなることを付記する。

 ここで山口村より南方に広く暖帯植物の多いと考えられる下伊那郡と下伊那教育会発行の『下伊郡の植物中巻』大塚考一著「長野県のシダ植物」を参考に、白分の調査も併せ比べてみると、下伊郡郡の暖帯植物は種子植物が121種、シダ植物が60種の合計181種で、山口村の暖帯植物は面積がはるがに広い下伊那郡より9種少ないだけであり、シダ植物だけでは、19種少ないが、植子植物はかえって10種多い。

 なおこの172種は山口村に野生する植物の総種数の16%という高率である。またこの種数は県最南の下伊那郡大竜村と、一,二を争うものと考えられる。