3 注目される種類

本村の野生値物の中には分類学的・地理学約に注目されるものが多い。そこで以下、それらについて述ぺることとする。

 シダレエノキ ニレ科

樹木の枝は重力によって垂れ下がる傾向があり、細長く伸びるものには特にその傾向が強い。シダレザグラは各地で見られ、辰野町にはシダレグリの群落があり、盛岡市にはシダレカツラの名木がある。エノキも若枝を長く伸ばすので枝垂れになり易く、各地にその傾向のものがあるが、本村の粟島神社にあるのは完全な枝垂れで、この種としては全国一の名木である。丸子町にも国指定の天然記念物となっているものがあったが、老木ということもあり、台風によって先年主幹が折れて全滅したので、今では完全な枝垂れは山口村以外にはない。粟島神社にあるのは丸子町にあったもの以上の大宋で、諏訪神社の社叢とともに天然記念物として昭和三七年に長野県教青委員会の指定を受けている。しがし樹木には樹齢という間題もあるので、これが永久に生存することはできないが、多くの実生の中には完全な枝垂れも生まれているので子孫は長く山口村に残ることであろう。関心をもって村民が保存に努める必要があろう。

 サクラバハンノキ カバノキ科

暖地の湿地に生える小高木で、葉は側脈が裏面に隆起し、基部がハート形で桜の葉に似ているところから名がつけられた。花期は早春で、卵状楕円形の雌花の穂が数個つく。関東地方から西、四国・丸州に分布、県内では下伊那郡松川村での記録があるだけであり、本村の大戸と大又沢にあるのは珍しい。

 サネカズラ(ビナンカズラ) モクレン科

暖地の山地に生えるつる住、常緑性の植物で、葉はやや厚く軟質で表面に光沢がある。雌堆異株、花は夏開き淡黄白色で垂れ下がり、径一・五abで花弁と、がく片の区別がはっきりしない。果実は径五_bくらいで多数球形に集まり秋熟して赤くなる。問東以西、四国・九州に分布し、県下でも下伊郡郡南部にはあるという。本村の木曽川縁にも幾株か見られたが、花も果実も見られながった。果実が美しいので実葛、樹液が調髪に適しているので美男葛という。

 ヤマザクラ サクラ科

 援地の山地に生える高木で、「大和心を人問わぱ」の歌に歌われ、吉野山の桜で知られている。葉と花が同時に開く清楚な桜である。葉にはほとんど毛がなく裏面は白みをおぴている。関東以西に分布し、県下では下伊那郡の南端と木曽では大桑村、南木曽町、山口村で見られる。 一般に山桜というのは山地にある桜という意味で、県内ではカスミザクラが普通である。

 オオクマヤナギ クロウメモドキ科

 暖地の山中に生えるつる性の木本で、他の樹木に寄りかかって伸びる。県内各地に生えるクマヤナギに比べ葉の大きさは二倍に近く、裏面に毛の有るのと無いのとがある。関東以西、沖縄県にかけて分布し、本県では大桑村南部から南で稀に見られ、本村では賤母国有林で一株あるのを見た。

 ヘビノボラズ(トリトマラズ)メギ科

 暖地の湿地に生える高さ五○〜七○abの小低木で、茎に長さ一abくらいの三つ又の刺があるのでこの名がつけられだ。葉は大小不そろいで長さ三〜九ab刺状の鋸歯がある。花は黄色で径六_bくらいあり小さな穂をつくる。果実は長めの球形で熟せば赤くなる。中部地方から西に分布し、本県では下伊那郡阿智村と飯田市南部での記録があり、本村では大戸に多く大又沢でも見られる。

 キョウマルシャクナゲ ツツジ科

 北アルブスから大桑村に分布するホンンャクナゲは花が大きく先端が七裂しているが、それから南や中央アルプスのものは花がやや小さく先端が五裂している。これは本県南部から静岡県にかけて分布し、天竜川縁に残る伝説によってこの名がつけられだ。高地としては海抜一九○○bの所でも見られるが、本村では六○○b以下の所に三株だけあり貴重である。

 ミツバツツジ類 ツツジ科

 ミツパツツジは普通岩のある急傾斜地などに生えるので「イワマツツジ」の俗名があり、コパノミツパツツジは土の豊かな所に生える。後者は葉に毛が多く雄しべが一○本であるが、前者は雄しぺが五本で葉には毛がない。枝先に大ぎな卵形の葉が三枚並んでつくのが、この仲間の特徴である。この両種の雑種とみられて雄しべが六〜九本あるものが稀に見つがり、これにキソミツバツツジと名をつけた。雄しべが一○本で葉の裏面中脈から葉柄にがけてやや長い淡黄褐色の毛の多いダイセンミツバノツジ(鳥取大山で発見)も僅かではあるが本村にも生えている。これは上松町に多い。

 ベニドウダン ツツジ科

 ベニドウダンの名は、花が紅色であるからである。従来ベニドウダンは近畿以西に分布し、関東.中部地方のものはチチブドウダンとしてきだが、よく似ているので最近は分けずにベニドウダンとして統一する説が有力である。県内では下伊那郡と本郡に分布し、郡内では大滝川以南の山中で見られ、庭木や盆栽にも使われる。

 マルバツクバネウツギ スイカズラ料

 これは低木のゾクバネウツギとコツグバネウツギとの雑種とみられるものてある。前者は県下各地に多く、がく片が五枚であるが、後者はがく片が二枚の暖帯植物で、県内では下伊那・木曽両郡の南部に分布している。この雑種はがく片が二本から四本あって形も大きさも不ぞろいである。これも本村に自生があり、植えたものもある。

 ハイチゴザサ イネ科

 暖地のやや湿った所に生える小形の多年草である。茎は長さ十から二十abほどで細く、地上をのびて節から発根する。葉は長さ二abぽどの長卵形で薄く表面に長毛がある。秋になって葉頂に短い穂をつくって小さな花をつける。花は二個で穂をつくる。関東以西、四国・九州に分布し、県内では本村以外からの報告がなく、本村では上山口の諏訪神社と大叉沢、賤母山中ても見られたが、右神社では環境の変化により全滅に近い。

 スルガテンナンショウ サトイモ科

 深山の湿地に生えるミズパショウや食用に栽培されるコンニヤクもこのマムシグサの仲間である。この仲間は「仏炎苞」と称する円筒の中に小花が集まって肉質の穂をつくっているが、その上につく付属体と称するものの形は種によって様々である。このスルガテンナンショウは先端が急に広がるとともに前方に曲がっている。名のように静岡県で名がつけられ、愛知県と長野・岐阜両県の南部に分布し、木曽では上松町が北限になっている。本村でも林内でもよく見がけるが、中には葉に白斑のあるものもある。

 ウラシマソウ サトイモ科

 これもマムシグサの伸問であるが、前種とは対照的に花穂の付属体が細長く三○〜五〇aにも伸ぴて先の方は垂れ下がっている。この姿を浦島太郎の伝説の釣りざおとみて名がつけられた。山中の林内などに生え、わが国に広く分布しているが、本県内では社寺の境内その他で数ヶ所に群生しているだけである。その一つが本村で、青木北方の林内に多いが、現在付近で理立て工事が進行しているので今後の残存が危ぶまれる。

 オモトギポウシ ユリ科

 ギボウシの仲間は全国的には種類が多い。木村の大戸にはいずれともつかないものがある。葉の形や葉茎が長く伸びて多数の花をつける点はアオバオモトギボウシに似ているが、花がミズギボウシぽどではないが広筒部のふくらみが少なく、ミズギポウシに比べれば全体が大きくて葉が広く、花が多くついて広筒部に多少ふくらみがある。このように本村のものは中間形である。

 モミラン ラン科

 木曽の南部には着生蘭(樹上や岩上に生えるランの仲間)が多いが、モミランはわが国の着生蘭の中で最も珍しいものとされている。カヤなどの樹上に灰白色の根を密着して着生する。茎は長さ数aで樹皮上に横たわり、長さ四〜七_bの葉が二列に並んでつく。花は三月下句に開き、径ニ_bほどの小花で三〜五個が小穂をつくる。昭和二九年に坂下町で見つけた時は高知・三重両県に次ぎ全国で三番目として学界の注目を集めた。その後東海・関東地方でも見つかったというが珍種ということに変りはなく、その後出版された図鑑にはいずれも同地のものが使われ、現在岐阜県指定の天然記念物として保護されている。山口村で見つけたのは翌三○年で、坂下町ほど見事ではなかったが枝に着生しているのを見た。

 マルミノヤマゴボウ ヤマゴボウ科

 山中の日の当たらない林内に生える多年草である。高さ一bくらいで、葉は大きく長さ一○〜二五aあって軟らかい。花は夏の頃開き、径六_bくらいで淡紅色の小花が枝先に総状に多数つき、がく片が五枚で花弁はない。

果実は径八_bくらいで熟せば紫黒色になる。関東以西、四国・九州に分布し、本県では下伊那郡南部と本村だけで見られる。本村では賤母国有林に一○株あったが、災害と工事で滅少した。葉を食用にするため値えているヤマゴボウは花が純白で中国原産であり、近年北米原産のアメリカヤマゴボウが県内各地に殖えている。

 ゼニバカンアオイ(キソジノカンアオイ) ウマノスズクサ科           

 昭和の初年に上松町で見つかり右の別名がつけられた。木曽谷南部にあるヒメカンアオイの変種で、この名は葉が円形であるからである。現在では愛知・三重両県にも分布が知られている。僅かであるが本村の西森前平でも見られた。

 カザグルマ キンポウゲ科

 近年テッセンとかクレマチスの名で栽培されているのは中国原産の園芸品であるが、カザグルマは日本の在来種である。

花弁と見えるのはがく片で、テッセンは六枚、カザグルマは八枚が本来の形であるが、テッセンは園芸化されているのでそのように単純でない。カザグルマは本県では福島町から南の所々に自生していて本村でも大戸の藪の中に多かったが、残念ながら埋め立てによって全滅に近い。

 ヒトツバタゴ モクセイ科

 タゴと名のつく樹木の仲間は何れも葉が複葉であるが、この種に限って単葉であるから一葉タゴという。我が国では愛知・岐阜両県など狭い範囲に自生する暖地性高木で近くは中津川市落合や坂下町に大木がある。本村でも荒町から大戸にかけて幼木や成木がみられ、県下唯一の自生地であるから大切に保護したい。

 ミカワチャルメルソウ  ユキノシタ科

 チャルメルソウは近畿以西に分布し、本県にはコチャルメルソウが広く分布している。本県の南部には愛知県を中心に分布するミカワチャルメルソウが分布している。チャルメルソウは花弁が三〜五裂するが、この犠ば七〜十一裂する。木曽では南木曽町と本村で見られ、谷間の林内に多い。

 キクモ ゴマノハグサ科

 暖地の浅い水中に生える多年草で、茎の長さ五〜一○abの小草である。茎は水中では立っているが、水田などで水が引けると泥上にねている。葉は四〜八枚輪生し、長さ一abほどで細く裂けている。八〜九月頃茎の上部に紅紫色の小花を一個つける。わが国からインド方面に分布しているという。本県での記録はないが本村では神坂西森前平の水田に群生し山口地区でも下村で見ることが出来て珍しい。

 キソキバナアキギリ シソ科

 平成元年六月、賤母国有林において発見されたもので、この国有林の谷間に小群をつくっている。キパナアキギリは茎の下部がやや斜に立ち、茎には毛がある。花は八月から一○月にかけて開くが、これは茎が直立して毛がほとんどなく、花は六月咲く。この違いから変種とされたものである。

 ミカエリソウ シソ科

 日の当たらない林内に生える。高さ八○ab内外で茎の下部は木質。花は秋開き淡紅色で小さいが、長さ一○ab程の穂に多数つく。そのため振り返って見るほど美しいというのが名の起りであるが、それほどでもない。岐阜県中部が分布の東限とみられていたのが、本村の山中ても見つかった。

 フタバムグラ アカネ科

 茎は細く基部から分枝して全長一○〜二○abとなる。葉は対生して長さ二〜三ab、幅約二_bと細長い。夏の頃葉のわぎに白色で径ニ_bほどの小花をつけ、花冠は四裂する。本州各地で見られ、遠く東南アジアまで分布するというが、県内では下伊那南部と本村で見られるだけで、本村では水田下の石垣などに多い。

 キバナシロタンポポ キク科

 本村のタンボボはシロバナタンポボが普通で、黄色のヒロハタンボボとカンサイタンポボも僅か見られる。これらはいずれも暖地性である。昭和六一年に下山口でシロパナタノポポの群落の中に黄色のシロパナタンボボを見つけたが、これは既に他所で発見されていることが文献で分かった。植物の中には白花品というものは時々見つかるが、このようなものは珍しい。

 リョウノウアザミ キク科

南木曽町南部と本村に多いアザミである。根出葉が多数で花期まて残る。茎は細くて高さ六○〜一五○abくらい、枝分かれは少ない。茎の葉は少なくて小さい。枝先に一個または二、三個の小さな頭花をつける。総苞は径八〜九_bで総苞片は短く圧着しているが、外片は先端が僅かに開出する。木曽から東濃地方の一部に分布しているが、諸文献に見当たらないので信濃・美濃の両方に分布するとして両濃蘚として学界に発表した。道端や草原に群生的である。

 ヤマグチアザミ  キク科

 平成元年、本村の麻生で発見したアズマヤマアザミとスズカアザミとの雑種とみられるものである。

 キスマアザミ  キク科

 これはキセルアザミ(マアザミ)とスズカアザミとの雑種とみられるもので、まごめ自然植物園で発見し、両種の頭文字をとって名をつけた。根出葉はキセルアザミのように花期まで残り.頭花もそれほどでないが下垂していてやや小さく、総苞外片は多少尖って開出している。これらの形は附近にあるスズカアザミの影響によるもので、キセルアザミの群落附近で昭和六二年に気付いたが翌年には数株となっていた。

 キヨスミヒメワラビ(シラガシダ) オシダ科

 常緑性で大きいのは一bにもなるというが、本村で見るのは七○abくらいである。葉柄の鱗片が大きく、若いうちは白色半透明であるからシラガシダの別名もあるが、発見された千葉県の清澄山でこの名がつけられた。関東以西の暖地に分布し、県内では男?山と賤母山の山中で見た以外に記録はない。

 ヨコグラビメワラビ(ヒロハヤワラシダ)

 ヤワラシダに似ているが、ヤワラシダは名のように棄が簿く軟らかなシダで、葉は二回分裂して二回羽状複葉であるが、これは更に一回多く三回羽状複葉となり、全体として幅が広いので別名もある。高知県の横倉山で発見されて名がつけられたが、愛知・三重・兵庫の各県と、四国・九州の暖地にのみ分布するという。県内では最初賤母山の谷間で見つけた後、大桑村と南木曽町でも見たが、その他での記録はない。

 その他二、三のシダ

ウラジロとコシダは葉の裏面が白く美しいシダで、ウラジロは正月の飾りにも使われ共に暖地性のシダである。

昭和三○年頃、本村の大沢によく育ったウラジロがあったが、現在は新茶屋付近て数株小形のものが見られ、この付近には以前コシダも幾株もあったが今でぱ見当たらない。

 同し暖地性のタチシノプは六区辺の石垣に多かったが発電工事後も少なくはなったものの少しは現在も残っている。ホラシノプは南隣の落合地区に多いが、本村までは来ていない。